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第2話

翌日。


何処から漏れ出したかは分からないが、転校生が来る、という話題で持ち切りになっていた。


「みなさん静かに。ホームルームが始まりますわ」


一人の女生徒の一声でクラスが静まり返る。


委員長、一条香織。


財閥のお嬢様だとか。


僕たちの間では面倒見が良いことで知られているが、その一方で自分の気に食わない生徒に数人がかりで暴行を加えているという話もある。


そこまでして公にならないのは、バックの財閥による圧力だろうか。



「よーし、ホームルーム始めるぞ~」


担任が入ってくると同時に、あれだけ自由に立ち歩いていた生徒は全員着席してしまった。


そしてホームルームの内容は、いつもと大して変わらない。


だが、途中でアレが入った。


「今日からこのクラスに仲間が増える!」


周囲の男子生徒からどよめきが起こる。


「しかも女子生徒だぞ!」


さらに強まるどよめき。


「よし、入ってくれ」


ドアが開き、中に入って来たのは、黒縁メガネを掛け、背筋を少し丸めた女子生徒だった。


流れるような黒い髪に、柔らかそうな薄いピンクの唇……



「え……?」


目を見開いて、思わず立ち上がる。


椅子が揺れ、かなり大きな音を立てた。



色が、戻った……?



一瞬だけ、確かに色が戻った。


しかも、転校生の少女に対してだけ。


深緑色のブレザーに、紺色のスカート。


少しウェーブが掛かったボサボサの黒髪に、黒縁のメガネと黒い瞳。


彼女の色の特徴は一瞬だったが、それを見た衝撃は自分の脳裏に焼きつかせるには十分だった。


「あっ……」


杖の支えなしにいきなり立ち上がったので、そのまま真横に転倒。


大きな音が教室中に響き渡った。


「おーい、高島、大丈夫か?」


「う、うん平気だから……」


席を立とうとする友人を手で制止した。


「……お前がそう言うなら」


「ありがとう、孝昌(たかまさ)


腕に軽い痛みがあったものの、机を支えにしてすぐに立ち上がる。


「よし、高島は大丈夫そうだな。一条、あとは任せる」


「分かりました。それでは、お名前をお願いします」


一条の言葉に転校生はきょろきょろと周囲を見回し始めた。


わざとなのは、誰の目にも明らかだった。


「あなたですわよ、転校生さん」


「へ……?」


転校生と一条の目が合う。


「ですから、名前を言っていただきのですが……」


一条の声には呆れが含まれていた。

「あ、すいません。えーと、私の名前は、瀬海ぃ琴です……」


僕を含め生徒の約半数がズッコケそうになる。


苗字の後ろを伸ばしたのと、後ろの僕が最低限聞こえるボリュームで声に出したため、いまいち締まらない自己紹介になってしまった。


「趣味とか嗜好の話は後にするとして。それでは、瀬海さん」


担任が転校生の名前を呼ぶ。


「あー、はい……」


自信が無いのか、面倒くさいだけなのか。さっきから彼女の視線は最前列の席に固定されている。


「席は、1番後ろで一つだけ飛び出てたところな。えー、さっき転んだヤツ、高島って名前なんだが、アイツの隣でもいいか?」


「あ、はい。いいっす、それで……」


彼女は、はぁ、とため息を吐く。


心底、面倒くさそうだった。


アレが通常運転なら、彼女と付き合う人間は相当苦労するだろうな……。



僕の彼女への第一印象は、気怠げでやる気のなさそうな生徒、だった。

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