表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界は素晴らしい!  作者: 匿名希望
3/4

2話 別れ、そして出会い

ーーー時は過ぎ、王国歴179年火月。


ここはメルデスの森奥深くの名前の無い村、人口は700人、街との交流も無いため魔法機器は存在せず、村人たちは狩りをし、農業をし、昼寝をし…いたって平穏に暮らしている。


あの日、王国騎士から逃れたシーナは、偶然この村の村人と出会い、心優しい村長が事情を知った上でシーナ達を匿ってくれていた。


そして朝がやってきた。


「よし。そろそろ行くか。」

今日は、成長したコウ、そう俺が旅に出る日だ。


「あら、もう行くの?地図は入れた?食料は?知らない人にはついていっちゃ…」

「あーもー分かってる分かってる。地図は入れたし食料も入れたよ。まったく、もう子供じゃないんだからさ。」

そうは言いつつも、まだまだ甘えたかったり…はっ!してないしてない。


「ふぇっはっひっほ!」

…この特徴的な笑い声は村長だ。

白く長い髭にキラキラ輝く肌色頭、おまけに何故か上半身は裸である。

しかし村長だ。残念ながら。


「はあ、最初に来た時はどんな恐ろしい子供が来るかと思ったら、能力は持たない、見た目も小さい、顔も並以下、良いのは頭だけと来た。」

「失礼だな。」

「しかし、そんなお前さんが旅に出るとはな…真面目な話、大丈夫なのか?そのー…おうれい?とやらでお前さんは処刑されるんじゃろ?」

「大丈夫ですよ。私がしっかり言い聞かせて、力を制御出来るようにされましたから。ね?」

「なーにが『ね?』だ。結局手伝ってくれたのはヤチェだっただろ。」

「えー?呼んだー?」

「呼んでなーい。」


ヤチェ。

この村の女の子で俺より3個下だが、俺のことを「コーちゃん」と呼ぶ。そしてしっかり者ので面倒見がいい。おまけに可愛いし、ちょっとドジなところもまた可愛い。村人達からも愛されていて、村のアイドルそのものだ。可愛い。


そして俺は、この村にいる間に自分の力を割とすぐに制御出来るようになり、この力について研究をしていた。力の事はまた話すとして、ヤチェはいつもこの研究を手伝ってくれた。癒される。

一緒に旅してえええ!


「んじゃ行って来るよ、母さん。」

そんな気持ちは抑え、俺は俺自身の夢を叶えるために旅に出る。


「はい、行ってらっしゃい。…ちゃんと地図は持った?食料は…」

「だから大丈夫だって!」

…こんなやり取りも、暫く出来なくなるのかと思うと寂しく感じる。

しかし、夢のため…そう!ヤチェはもちろんのこと、もっとたくさんの可愛い女の子と出会って、あんなことやこんなことを!

…グヘヘっ…


「じゃあの、少年。」

「コーちゃん、またね!」

「おう。またな。」

さっきまでいかがわしい事を考えていたため、少し顔がニヤついていたが…まあいいだろう。


ヤチェや村長だけでなく、他の村人達とも別れの挨拶を終え、いよいよ俺のキャッキャウフフな旅が始まる!



ーーー疲れた。


いや確かに、村から街までは歩いて2日はかかるということは知っていたが、皆と違い農業もせず、狩りの時は力に頼りっきりだった、そんな俺に体力なんてものは備わっていないのだ。

過去に戻れるのなら過去の俺をトレーニングさせたい…。


ピイィィィィーーー…

ふぉうふぉうふぉう…

ガサガサガサガサ…

サアァァァ…


沈みかけの夕日に心地良い風、そして温厚な魔獣の鳴き声が鳴り響く。

もう今日はここで寝ようかな…。


「…かー…れかー…!…すけ…た…け…!」

ん?何か声が聞こえた気が…

いやそんなはずは無い。

いくら歩いたとはいえ、ここはまだ森の奥深くだ。

こんな魔獣しかいない、それも良い素材が取れるわけでも無い、そんな場所に人が来るとは到底考えられな…


「だ…かー…けて!」


前言撤回。

…いるな。これ。誰か。

えーと…多分左。いや、右か…?

とりあえず来た方向に進めばいいか。


「誰かー!助けてー!」

しばらく進むと、そこには血で染まった白…いや銀か?の髪の毛を持ち、瞳は青く、血だらけの白い服を着た少女が腰を抜かしていた。

…一瞬で分かった。可愛い。


そして前には…っ!魔獣だ。

それもかなり大きい。

あの黒い毛と尖った爪、牙…間違いない、凶暴な魔獣だ!

よく見ると、人の腕、足が口から溢れている。

おそらくこれは、魔獣の中でも人を食糧とする食人種の魔獣だ。


「よし!…はっ!」

それを見るとすぐに、俺は腕と足に力を込める。

そして勢いよく大地を蹴った。


ドゴッ


大地は少し凹み、俺は自転車の最高スピードくらいの速さで魔獣に向かう。

距離は大体7m。これなら1秒以内にたどり着く。


「よっこら…」

俺は腕を上げ、

「せ!っと!」

魔獣の腰あたりに拳を叩きつけた。


パァン!ドコドコドコドーン!

魔獣は10mほど吹っ飛び、動かなくなった。

倒れた魔獣の口からは、顔の分からなくなった人間の死体が流れ出た。

…一体何人食べたのだろう…?


「…!あっ…あの…」

まだ腰を抜かしている少女が語りかけて来る。

…めっちゃ緊張する。

急に耳元で蚊の羽音が聞こえてきた時ぐらい、心臓が拍動している。


「た、助けていただき…あ、ありがとう、ごごございまし、た…」

…やけに震えている。

それを見て俺は冷静になった。


どうやら少女自身にケガは無いようだが…

かなり酷い目にあったみたいだ。


「(多分)もう大丈夫だ。安心しろ。とりあえず体でも洗うか?すぐそこに大きな湖があるが…」


震える口で少女が答える。

「は、はい…。あ、ありがとうございます…。」



ーーー少し震えも収まってきたみたいだ。良かった。

何があったのか…は聞くのは止めておこう。

しかし、何故こんな森の奥にいるのだろうか?

見た所、何やら紋章の入った髪飾りを付けている。

服もかなり良い素材を使っているみたいだし、何より見た目の美しさだ。

可愛いのはともかく、整った顔立ち、そしてこの強い精神力、もう震えは止まりしっかりと自分の足で歩けている。

さっきまで、綱渡りの下手くそな人並に足が震えていた人とは思えない。


貴族か…?

高嶺の花じゃん。チッ。

でも可愛い。



ザバァ…

「ふぅ…」

何かを考え込むように静かに湖に浸る少女。


その少し離れたところで、少女の服を着ている姿が気に入った俺は、少女の服の汚れを取ろうと必死に洗っていた。にしても取れない。


「あの、大丈夫ですよ!服のことは気にしないでください!」

「いや、でも…そしたらずっとそこから上がれないんじゃ?」

「その事でしたらお気になさらず。」

そう言うと、俺の目の前から少女が消えた。


「あれ!?」

「ふふっ、私なら同じ場所に居ますよ。」

本当だ。水が人の形に開いている。


「透明化…ですか?」

「はい。」

うわ、エロいことし放題じゃんこの能力!羨ましいー!


「…ですが、においまでは消せません。先ほどは血のにおいで気づかれ、逃げることが出来ませんでした…。」

「…なるほど…。そうだ!それはそうと、どうしてこんなところに?」

「それは私からも貴方に聞きたいところですが…。まあ後でいいでしょう。…誰にも言わないと約束できますか?」

「は、はい。あ、ちなみに僕は旅の途中でして。」

「言っちゃうのね…。んん!おほん。…私は、この森に逃げたと言われる悪魔を探しに来たの。」


…俺や。それ俺や。

母さんの話では、父さんが命を張って逃がしてくれたって聞いていたのだが…。


「今から16年前の王国歴163年、街である男の子が生まれたの。そしてその男の子は悪魔の力を持っていた。すぐに当時の王に知らせが届いて処刑が決まったわ。…だけど母親がその男の子を連れて森の奥に消えていった、という話よ。父親は何とか捕らえたものの、知らず知らずのうちに逃げられてしまったらしいわ。」

「凄え!」

「…え?」

「え…!?あ、ああいやその…す、凄い話ですね!」

「でしょ?信じる方が馬鹿というか…あ、ごめんなさい。私ったら何て言葉を…」

「あははー…」


凄えええ!!父さん逃げた!?母さんは「悲鳴をあげていて…」って言ってたけど…化け物かよ父さん!まあ生きてるかどうかは分からないが…




それから少女は湖から上がり、まだ若干水が滴っている、血の染み込んだ白い服を意外にもすんなり着た。



そして、辺りはすっかりと暗くなり、今から移動すると方向感覚が分からなくなる可能性があったため、俺はここで野宿することにした。



「あ、そうだ。水もあることだし、今日はもうここで野宿するつもりだっんだけど、どうする?その、えーっと…」

「イルーナ。私の名前はイルーナよ。貴方は?」

「コウだ。イルーナ、本当にこんなところで

…その俺なんかと一緒でも大丈夫なのか?」

こんな下心の塊のような男と2人きりで、と頭の中で考えてしまう俺である。


「ええ、大丈夫ですよ。よろしくお願いしますね、コウさん。」

危ない。不意に、やったぜ!と叫んでしまいそうになった。



こうして旅の1日目は終わりを迎えた。


ーー1日目からこんな可愛い女の子と出会えるとか…


「旅、最高だな!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ