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ドガの町

町に入った僕はスズを見失っていた、やはり運動不足の体で走るのはキツイ・・・


ゼーッゼーッ、ハーッハーッ


吐きそうなのを懸命に堪え、その場にへたり込んでしまった。

息を整える間に冷静になって周囲を見回してみる。

町の中央を南北に走る街道にはキッチリと煉瓦を敷き詰めてあった。

へぇ、石の加工技術や煉瓦の精製技術があるんだな。


川からの引き込みだろうか、用水路もそこかしこに伸びている。

これは中々良い行政を敷いている人物がいるに違いない。

かなり長いスパンで町の整備計画を立てなければこうはならないだろう。


この国は町を治める領主は国から派遣しているらしく、世襲制では無いらしい。

キチンと出世をして来たまともな人が治めているのであれば、こういった美しい町になるのだろう。


町の入口辺りには何軒もの宿屋が並んでいるのが見える。

ここは街道沿いの宿場町らしいく、旅行者が稼ぎの中心なのだろう。


あ、看板の文字が僕にもちゃんと読めるな。

この世界に来て初めて文字を目にしたぞ。


神様は共通言語になっていると言っていたな。

他にも立て看板なんかに書いてあるこちらの世界の文字も、ちゃんと理解出来る様だ。


他の国の言語はどう聞こえるんだろう。

僕もスズも日本語で会話をしているし、村人には日本語で話しかけても通じていた。

今の所は日本語で会話は成立していたから、他のPCの事が少し気になってきた。

別の国のPCに会ってその部分の謎は解明したい。


そういえば、そこそこ大きな町だからPCが何人か居てもおかしくは無いんだよな。

見つけたら声をかけてみるのも良いかもしれない。


そう言えば、街道の宿場町が出来る場所は、川の手前・峠の手前・街道の合流点・名所旧跡・港といった所だったっけ。

このドガの町も大きくなった理由があるんだろう。


まずはスズを探しながらこの町の情報を集めなくてはいけないな。

PCも何か稼ぎになる仕事を見つけないとメシが食えなくて野垂れ死にしてしまう。

そうならない為には町で仕事の情報を得なくてはならないだろう。


自分の持っているスキルを活かして何かを作って売るぐらい出来るシステムになっていないと、この世界に送り込まれたPCは皆餓えた野獣に成りかねない。


モンスターを倒してお金を得るという単純作業で、お金も食料も稼げる甘い世界では無いからだ。

そもそもモンスターがお金やアイテムを持っているなんて、常識的に考えても有り得ない話だよね。


前衛のPCなんて荒事しか出来ないだろうし、参加者の半数は食い詰めたら速攻で野盗にクラスチェンジしそうで怖い。

スズぐらいの年齢でこの世界に放り出された前衛なんて、腹が減ったら野盗まっしぐらな気もするし。

・・・・・ひょっとしたらそれが運営の狙いなのか?

PCの野盗なんてシャレにならない事になる。


取り敢えず、宿屋の相場を調べる為に2~3軒回って聞き込みをしてみた。

街道沿いに宿を出せるからにはこの世界の中級クラスの宿なのだろう、食事・お湯付きで一部屋10000L(ランドという単位らしい)。

食事だけもやっているが、一食辺り500~1000Lはかかるそうだ。


ついてるぞ、物価は日本の円換算ぐらいと同じぐらいに置き換えて計算が出来る。

村の謝礼に貰ったのが10000L金貨を100枚、僕が50枚・すずが50枚を受け取っている。

この世界では一般的な習慣として一日一食か二食で夜だけか昼と夜の食事になる、朝食を食べる文化は無いらしい。


宿屋暮らしで40日ぐらいは過ごせる計算だ。

まぁ、旅装を買わないといけないから日数はもっと減るだろう。

スズなんかは槍とか薙刀みたいな武器を買わないといけないからもっと大変だ。


そう言えばスズは本来の武器以外のナイフや片手剣も扱えてたっけ。何となく天才肌っぽいし、メイン武器じゃなくてもある程度扱えちゃうのか。


宿屋を出て旅装を見る為に古着屋だろうか? 一応新品の服も扱っている服屋に入ってみた。

防水の外套とか毛布とテントが無いか聞いてみた。

外套と毛布は見つかったので買って行く事にする。

外套は古着だと防水効果が殆ど無いらしいのでここはケチらず新品を購入する。

毛布は手触りの良い物が古着にあったのでそちらを買う事にした。


ついでに着替え用にフード付きチュニックとズボンをお揃いの上下で、白地に藍色のラインが入った色使いが昔やっていたゲームの魔導士の衣装に似ているのが気に入ったので買ってしまった。

本来この世界で白い服なんてすぐに汚れるし、洗剤も無いから汚れも中々落ちない。

アウトドアで着る服に向いていないのは明らかだ。


しかし僕の場合、魔法で毎日リターンをかけ続ければ汚れても洗濯いらずである事に気が付いた。

ふふふ、なんて便利な洗濯魔法だろう。

お店に防水外套10000L・チュニック上下10000L・毛布3000Lの合計23000Lを支払い、購入した物を受け取った。


ボロ布で風呂敷みたいに包んで持たせてくれたので持ち歩き易くなった。

服屋にこれらの入るリュックみたいな物は扱っていないかを聞くと、「それなら防具屋で扱っているよ」との情報を貰い店を後にする。


どうやら鍛冶屋と防具屋は店が別らしい。

鍛冶屋は鍛冶技術で作った物を販売するから、鍋や農具も武器と一緒に売っている。

防具は編み込みとかの技術が多く、紐とか布を使ったアウトドアグッズも扱っているとの事だ。

防具屋に行くとカウンターの店番は何かを作っていてこちらを気にした様子は無い、何か縫物をしている様だ。

ここは工房も兼ねているのかもしれない。


取り敢えず、簡易テントとリュックをがあるかを聞いてみる。

簡易テントは骨組みを現地で木の枝を切って来て使うのが、荷物にならなくて良いらしいとの話だ。


木の枝を切るなら鉈がいるなぁ、薪を作るのにも必要だし。

ククリナイフがこの世界にも存在するならそっちでもいいな、武器屋で聞いてみよう。


旅用に簡易テント・毛布・食料・着替えの入る大き目のリュックが欲しいと伝えると、「牛皮の縫製を二重にした物を50000Lで作ってやるがどうする?」と聞かれた。

少々値は張るが丈夫で大きなリュックは絶対に必要だし買うしかないかな。

買ったまま持ってきた着替えと毛布と簡易テントを畳んで積んで高さとかを測って貰うと、出来上がるのは二日後だと言われた。

手付に10000Lと簡易テント代5000Lを支払い、テントはリュックが出来た時に纏めて受け取る約束をして店を出る。


後は鍛冶屋かな、暫く探してから防具屋に場所を聞けば良かったと後悔し始めた頃、街道沿いの広場に差し掛かった。

広場には屋台が沢山出ていて、野菜・魚・肉・串焼きの肉・スープなど色々な物が売っているのが見える。

どうやらこの町の市場らしい。


僕は市場の商品を眺めながら少し歩いてみる事にした。

すると、市場の真ん中辺りに人だかりが出来ていて、何だか騒ぎが起きている様だ。

まぁ丁度いい、そこらの人に鍛冶屋の場所を聞いてみよう。


「おおーっ! いいぞねぇちゃん!」

「やっちまえーーっ!」


荷物を抱えて広場に近づくと、大声のヤジや歓声が飛び交っていた。

その中心で何人かの男に囲まれたスズの姿が目に入った・・・・


げっ!


驚いた僕は急いで広場の真ん中へと、辺りの人を押しのけながら近寄ってみる。

すると、既に3人程の男達が、スズの足元に悶絶して倒れていた。


うわっ、何してるんだ。


どうやらスズは素手の状態で、既に3人の男を叩きのめしてしまっているらしい。

スズは片手を上げると手のひらを自分に向けて、片手の指を4本クイックイッと二度曲げて「もっと来い」と言わんばかりだ。

ブルース・リーか?


しかし、余計な挑発を・・・・

スズは挑発を終えると、両の掌を相手に向けて構えた。


しかしあの構えは、どこかで見た事があるな。骨法だったっけな?

スズは空手家みたいに拳までは鍛えてないから、拳を使わない様に掌底で相手をしてるのか?


スズに挑発された残りの男達が何やらアイコンタクトで頷くと、スズに向かって一斉に飛びかかって行った。

ニヤニヤと口元で薄笑いを浮かべながら、スズの動きを止めようと腰の辺りにタックルを仕掛けて来た男に膝蹴りをカウンターで食らわせた。

ベギッ!


膝を食らった男は地面に顔から落ちて行った。きっと膝の一撃で脳震盪でも起こしたのだろう。

タックル男が動かなくなった所へ、すぐさま横から二人が同時に殴り掛かってきた。

スズは素早くしゃがんで右の男の後ろへと回り込むと、後ろからケンカキックで背中を蹴りつける。

ドッ

蹴られた男はバランスを崩し左の男に受け止められた。

その瞬間、男へ向かって飛び込んだスズは右・左と掌底を二撃繰り出し、受け止められた男の鼻を潰し顎の骨を砕いた。

バヂンッ!ボゴッ!


あーー、あれ戦神様だわ。

相手の男達は既に戦意を失ってけれども、スズ・・いや神様は逃がすつもりはないらしい。

スズは最後の1人の前に立ち塞がっていた。


「くそっ!」


覚悟を決めてかかって来た最後の一人を、とんでもない回転スピードの浴びせ蹴りで踵を男の顔面にめり込ませた。

グシャッ!


さすがに戦神様、骨法も達人クラスだな。

ボゴッ、と首と肩の間にかかとが落ちると凄い音がした。


「いでぇぇぇ!」


踵落としを食らった男は、肩の辺りを押さえながら地面の上で悶絶している。

これは鎖骨かな? さっきの音は鎖骨の折れた音か。


「これでお終いか? もっとおかわりを持ってこい」


悶絶している一人を踏みつけて無茶を言っている。

まだ食べたりないらしい。


地面で悶絶している人に、骨が無事な人は一人もいなさそうだな。

ほっとく訳にもいかないと思い、野次馬の輪を押し通りスズ+神様の前に進み出る。


「ちょっと、スズの神様!何があってこんな事になってるんですか!?」


眉をひそめて、「誰だおまえ?」みたいな顔をして僕を見てるぞこの神様。

大丈夫か!?この神様

興奮するとバーサーカーみたいになって、僕にも殴りかかって来るんじゃないかと本気で心配したが、ようやく僕に気が付いた様だ。


「何だ小僧か・・・」

「いや、説明して下さいよ。もう喧嘩の相手をしてくれる人なんてどこにもいませんよ」


「邪魔すんな」みたいな顔で小僧呼ばわりされてしまった。

やれやれ、30にもなって小僧呼ばわりされるとは思ってなかった。


「こいつらはスリのグループでな、一人締め上げたら全員が掛かってやがった。仕方ないから俺が全部張り倒してやった」


何故かドヤ顔の神様、悪い顔したスズにしか見えない。

嘘ではは無いだろうけど証人は欲しいな、一応確認しておこう。

僕は見物人に向かって声をかけた。


「すみません! 喧嘩の原因見てた人いませんか?」

「その娘が最初にスリを捕まえたって言って、そこに倒れてる男の一人捕まえてたのを見てたよ」


買い物の途中っぽいおばさんが声を上げてくれた。


「娘さんから仲間を放せとかって、そこに転がってる連中が囲んで殴り掛かってったんだ」


ヒゲの中年のおじさんも「俺も見てたぜ」とか言いながらを証言を始めた。


「あいつらこの町に最近やってきたスリの集団らしいよ、スッたらすぐ別のヤツに渡してとぼけるのが手口なんだ。何人もやられたけど自警団も証拠がないって捕まえられなかったって話だよ」


白髪の老人もついでとばかりに証言してくれた。


へぇ、自警団なんてのがいるのか。


他にも口々にスズの正当性を証言するので自警団を呼んでもらった。


「店のヤツが呼びに行たから自警団ならもうすぐ来るぜ」


何もせずにこの場を立ち去るより良いだろう。


「神様、後の処理はやっておくのでスズに戻して下さい」

「おお、そうかご苦労」


やれやれ、暴れて楽しかったのか。機嫌よく引っ込んだ。

目をパチクリさせながら手足を確認し始めるスズに聞く。


「状況は解ってますか?」

「うん、まぁ」

「自警団が来るらしいんでで謝って来て下さい、犯罪集団捕まえたんだし捕まったりはしないでしょうから」


遠くから武装した二人がやってくるのが見える、あれが自警団かな。

街並みが綺麗な事からも行政が行き届いている事が判るので、スズを自警団に行かせても問題は無いだろう。


「僕はここから見えるあの白い建物、あれ宿屋なんですけれど。あそこの一階の食堂にいますから、説明とかが終わったら来て下さい」

「この人達治さないの?」

「スキルをわざわざ見せびらかすつもりはありません。そこは自警団に任せますよ、自警団なら治療の出来る人ぐらいいるでしょうから」


僕は呆れるスズをそこに置いて、買い物の続きに戻る為にこの場を立ち去った。


毛布と着替えを持ったまま市場を歩き、再び鍛冶屋を探す事にした。


「あ、騒ぎの所為で鍛冶屋の場所聞くの忘れてた」


暗くなり始めたドガの町で僕は一人ため息をつく。

今日は買い物が終わったら何かおいしい物を食べてサッサと寝ようと思った。


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