相談
夜も更けて作業を終えた頃に村長から詳しい経緯が聞けた。
それをまとめてみるとこんな感じだ。
・盗賊の数は20人程
・全員が馬に乗って来た
・お昼ぐらいに襲撃が始まった
・入口の門から一斉に入って来た
・女子供以外は全員殺害された
・食料には手を付けずに帰った
・一時間程度の迅速な犯行
村長さんからは「スズさん共々村長の家に今日は泊っていって欲しい」との事なので、僕達は有難く受ける事にした。
僕もスズもこの世界に来たばかりで、泊まる所も決まっていない。
広場で炊き出しの夕食を頂いてから、村長の自宅へ移動する。
村長の家に入るとこの周辺の地図をくれた。
蘇生が終わった時に村長に、地図が欲しいと頼んでおいたからだ。
「これから村の会議があるので朝まで戻りませんが、ごゆっくりお休み下さい」
それぞれを自宅の部屋に案内した後、村長は足早に出て行った。
恐らく攫われた者達をどうするか、とかそんな感じの事を話し合うんだろう。
部屋に入ってベッドに腰かけると、神様からの声が聞こえてきた。
”スコアにポイントが入ったので教えておきます”
「スコアですか?」
そう言えば、取得したポイントは神様の見ている画面にには表示されているんだっけ。
”どうやら、リターンの魔法を使用した事でスコアにポイントが入った様ですね”
「おお、リターンでもちゃんとポイントが稼げると証明されたんですね」
”ええ、そうです。現時点でのポイントの合計は7200となりました”
「7200・・・ポイントの内訳は判明しているんでしょうか?」
”最初のリターンでポイントは3000入りました。その後は一人につき100のポイントで42人の4200で、合計7200ポイントです”
「最初のリターンって、何か特別な記念ポイントが付くとかだったんでしょうか?」
”いいえ、調べてみましたがその様な補助はありませんでした”
「えっ? じゃあスズ1人にリターンをかけた事で3000ポイントですか?」
”そうなります”
「PC1人を生き返らせたポイントが村人を生き返らせたポイントの30倍ですか・・・・」
村人が100ポイントなのにPCは3000とは、一般人とPCでは随分と差が大きいんだな。
これはPCへの行為に対するポイントの配分が大きいという事なんだろう。
この世界の住人を相手に何かをするよりも、PCを相手に何かする方が稼げるという事になる。
”別のPCにもリターンを使用して比較検証する必要はあるでしょうね”
「そうですね」
それもそうか、他のPCに使ってみたら多かったり少なかったりするかもしれないしな。
うーん・・・・
そうなると、ポイントの検証をする為に他のPCと接触するべく行動をした方が良さそうだ。
コンコン・・
神様の話を聞き終えた後、部屋の扉をノックする音がした。
「どうぞ」
村長の自宅の客間か何かなのだろうから、宿屋に付いている様なカギなんて物は無い。
僕がベッドに腰かけたまま待っていると、ドアを開いたスズが遠慮がちに入って来た。
そう言えば落ち着いた場所でちゃんと生きている彼女の姿を確認するのは初めてだ。
黒髪を首元辺りで切り揃えた、動きやすさを重視したかの様ななショートのボブカット。
顔立ちも整っているが綺麗、と言うよりも歳相応の可愛さを持っている少女だった。
身長は160センチはぐらいだろうか、胴に対して足が長い。
「えっと、おじゃましまーす」
部屋の中をキョロキョロと見回しながらペコペコと頭を下げて入ってくる。
日本人ぽい仕草だなぁと思う。
きっと部活動等で先輩後輩等の上下関係を厳しく教えられたのだろう。16歳という年齢で他人に簡単に頭は下げれない。
だとすると中学辺りから何かしらのスポーツをやっていて、しかも前衛でPCに選ばれるぐらいの実力。
もしかしたら一流の選手だったのではないかと当たりをつけて聞いてみる。
「何かスポーツやってたんですか?」
「はい、子供の頃から薙刀と弓道を」
「それはまた、随分と古風な組み合わせですね」
薙刀と弓は戦国時代までは当たり前にはセットで学ばれていた武家の嗜みだ。
戦国の世では武士はどちらも扱う事が当たり前だったが、今の世にそれらをどちらも使える者がいるとは思わなかった。
しかも16歳という年齢で・・・・
ああ、だからこそ選ばれたのか。
「タロウさんは何かやってたんですか?」
恐らく僕の質問と同じ意味で「この世界に神様に呼ばれる程の何か」を聞きたいのだろう。
けれど・・・<三十年間童貞やってたお陰でキャラクターに選ばれましたw>とは言えない、いや言いたくないな。
なのでスキル的な事を答えておく事にした。
「僕はヒーラーです、前衛職に関係する運動は何一つやっていませんよ」
「そうですか・・・」
僕の返事に少しガッカリしているらしい。
理由は何となく想像がつくけどね。
一応確認をしておこう。
「もしかして、すぐに助けに行きたいんですか?」
「はい、そうなんです」
ちゃんと釘を刺しておかないと一人で行きかねないと思い、クギを刺しておく事にした。
「僕は回復専門なので戦闘はからきしです。ですので最低でもあと一人前衛のPCが同行するか、村人全員で行くとかでないと勝てないでしょうね。そもそも行き先が判りません」
「それはそう・・・なんですけど」
何もしない内に死んでしまった身としては汚名返上をしたいのだろう。
もしかしたら義憤に駆られての事かもしれないが、今の彼女が乗り込んで行っても、無事に攫われた人達を助けられるとは思えない。
そもそも僕は彼女の実力を知らないのだから判断のしようも無い。
恐らく村人も解っているのだろう。
暗闇の中火で足元を照らしながらの追跡なんて、とても危険な行為だ。
今の僕らに出来る事は、村人が近隣の村に助けを呼んで人数を確保するのを待つぐらいだ。
村長もそれぐらいの事はもうやっているだろう。これから会議を開くと言っていたし。
この世界には今PCが事件を求めて徘徊し始めただろうから、近隣の村か街に伝令を走らせればすぐに正義感のあるPCが釣れるかもしれない。
僕が盗賊を追う事にネガティブになっている所に神様の声が聞こえた。
”タロウ、彼女のプレイヤーと完全憑依で直接お話がしたいと伝えて下さい”
「はい、わかりました」
僕はスズに神様から話があった事を説明をする。
「今ウチの神様からの指示で憑依しての話し合いがしたいとの事なんですが、そちらの神様に伝えて貰えませんか?」
「ああ、なるほど。・・・会話は聞いていたから理解している、了解だ話をしよう。俺がこいつのプレイヤーだ」
彼女の言葉の印象が途中で急に変わった。
話をを聞き終えたと同時に僕の意識が暗転する。
”意識を戻します”
神様の言葉で僕の意識が覚醒する。
頭はスッキリとしていて特に問題は無さそうだ。
”憑依にも何段階かの状態があります。今のは神界の機密保護事項なので完全憑依にしましたが、他にもキャラクターの意識を残したまま自分の行動を見せる憑依や、キャラクターの意識・思考・痛覚までも同化する憑依があります。前衛を憑依操作するプレイヤーは自分の行動をキャラクターに見せる憑依が多い傾向です”
「自分の知らない間に神様が行動してました」って事になると前衛職は大変そうだな。
”それと、話し合いが纏まりました。彼女と二人でPTを組んでこれから盗賊の追跡を開始します。村長に協力を仰いで下さい”
「ええっ!?」
どんな話し合いをしたら、たった二人で行く事になるんだろう・・・
まぁ、向かう間に聞いてみよう。
「あの、いいんですか?」
そうか、スズも神様から結果を聞いた所か。
先程まで反対していたのに急に追跡をする事になった為に、スズは僕に申し訳なさそうに声をかけてきた。
「神様達の話し合いの結果ですし、勝てる算段があるんでしょうね。ここはお互い頑張りましょう」
「はい」
スズと話し、まずは村長や村民から盗賊の情報を集めに行く事にした。
広場で今回の対応する為に会議は紛糾している様だ。
そこへ僕とスズが会場に現れた事により、会場が一斉に鎮まる。
村長が慌てて僕らの所に駆け寄ってきて、頭を下げる。
「まだお休みになられていなかったのですか?何か問題でもありましたか?」
ここにわざわざ戻ってくる理由が解らない村長は、何か恩人に失礼な事をしたのではないかと気が気ではないらしい。
他所の村や町から援軍が来る前に、僕達を怒らせてこの村を出て行かれては困るのだろう。
村長の肩をポンと叩いて会議の輪の中に入り意を決すると、会議にいる皆に向かって声をあげた。
「村の皆さん聞いて下さい、術士タロウと剣士スズがこれから盗賊を追跡して攫われた者達を助け出しに行きます!誰か盗賊の行き先に心当たりのある者はいませんか?」
会議の輪が一斉にどよめいた。