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王子の変装 (王妃の階段 黒衣の騎士 より)

舞踏会でアイリーン・カートライトにこっそりと渡された手紙を見て、エリアルドは自分の顔色が変わるのが分かった。


そこには、父 ナサニエルがフェリシアに刺客を送るかも知れない。というものだったからだ。


そこまでするか、という思いと、するかも知れないという考えで、エリアルドは手を打つことに決めた。


「ジャック」


そう、窓の外へ呼べば黒衣の騎士が現れる。

「なんだ?殿下」

その声は、この王宮ではなかなか聞けない下町なまりだ。

「...ブロンテ邸の警護を」


黒騎士の中でも、ジャックはエリアルドの騎下にあり、彼は隠密業においてとても能力が高く、またなかなか律儀なところもあり、信頼を置いている。


「て、いうと殿下の婚約者か」

暗闇に溶け込むようにいるジャックの表情どころか顔も見えづらい。元から黒髪なのか、染めているのかは分からないが、闇に溶け込んでいる。

「ああ、そうだ」


(...闇では、見えづらい...)


「それから、黒騎士の服を貸せ」

とっさの考えだったが、いい思い付きだと思った。

「なんだって?」

「私も、行く」


「本気かよ王太子殿下が...」

呆れたような面白そうなジャックの声が静かに聞こえる。

「もちろん本気だ」


「俺は、責任とれないぞ」


「わかっている。独断だ」


「へぇ?...なかなか楽しそうだな?」

クックッと軽く声をあげて笑う。

「じゃあ、後で置いておくから、夜に迎えに来る」


ジャックはそのまま気配を消して、まるでそこには何もなかったかのような空間が広がっている。


万が一、ばれればジャックが責任をとらされてもいけないと思い、ギルセルドにお忍び用の黒髪のウィッグを借りて、そして夜にジャックと彼らの配下と、ブロンテ邸に忍び入った。


フェリシアを護るためとはいえ、邸に忍び込むのは何だか悪事を働いている気がしてならない。



そして...怪しい影を、ジャックが見つけて合図をしてきた。


そして、侵入者が窓を乗り越える所を見て


「俺が先にいく」

ジャックを真似た下町なまりで話す。

「おーけー」



エリアルドは、その侵入者が忍び入った後を追い、ベッドに近づいたその侵入者と相対した。少し睨み合いになっていると、寝ていた筈のフェリシアが寝台から飛び降り、相手の男に剣を突きつけている。


「何者?」


凛とした声が誰何(すいか)している。はっとその男がフェリシアの方を向きかけた瞬間、エリアルドは

「私は黒騎士です」

と短く告げて、侵入者の手を一気に捻りあげると


「お嬢さんは下がって大人しく」

そう言った。


ジャックが後に続いて、窓から同じよう入ってきて、侵入者を紐で縛り上げた。


「フェリシア!無事か」

物音を聞き付けたのか、フェリシアの父のラファエルが剣を手に部屋に乱入してきた。さすが武門派の名門の家だけあり、行動力がある。


「無事よ」

答えると、ラファエルが安堵した空気が伝わる。

「それは良かった」


そんなやり取りを横で聞きながら、ジャックは侵入者を担ぎ上げて、ラファエルと共に階下にむかい、そのままエリアルドも続こうとした。


「待ちなさい、黒騎士」

フェリシアの咎めるような響きに、エリアルドは足を止めた。

「なんですか?」

「助けたとはいえ、乙女の部屋に無断で乱入して何も言わずに帰るつもり?」

フェリシアは手にした剣の切っ先をエリアルドの胸元に突きつけた。

未婚のレディが男性に部屋に踏み込まれたら、本来ならとても不名誉な事である。しかし、今この状況で彼女が恐れずにしっかりとしていることに、頼もしさを感じてしまう。


「…それは…大変な失礼を」


「わたくしは貴族の娘なのよ。その部屋に入って、そんな詫びなの?」


夜目に浮かぶ白いネグリジェのフェリシア。

確かに...言い訳出来ない。

エリアルドは膝をついて頭を垂れた。黒髪がさらりと頬にかかる。


「ご無礼を、しかし殿下に護衛を任されておりました。助けるために致し方ないこと」


エリアルドは、そう言うことで自分の事を明かさない事に決めた。

エリアルドの返事を聞いて、フェリシアは剣を引き鞘に納めた。


「名前は?貴方が黒騎士の隊長でしょ?」

なかなかの、観察眼だが少し違う。


「貴女に名乗るほどの者では…影とでも、お呼びください」

ジャックの名を借りようかと思ったが、ジャックと、呼ばれる事はやはり嫌だ。


「では影、改めて...お礼を言うわ。助けてくれてありがとう」

フェリシアは、ふっと空気を緩めてそう言ってきたので、エリアルドは少し驚いてしまった。


「いえ、役目ですから...それに、貴女はもしかするとその剣で身を守れたかもしれませんが...」

勇ましく剣を片手に、侵入者に対峙しようとしたフェリシアなら。


「...それはどうだか…わからないわ。わたくしは人を傷つけた事も、本気で殴った事もないもの...だから、ありがとう」

素直な礼の言葉にエリアルドも微かに笑みを浮かべた。

「御身をお守り出来て良かった。では、これにて」


エリアルドはそう言うと、そのままフェリシアの部屋を後にした。



「なかなかの、頼もしいお嬢さんだな?」

帰り際のジャックがニヤリと笑った。

「何がだ?...それに、殿下と呼ぶな」


「怖がりながらも、無駄な悲鳴も上げず、余計な手出しもせず控えていた。状況判断能力が高いな」

「お前が褒めるとは珍しいな」


しかし、さすがブロンテ家の娘と言うべきか、教育の賜物なのか、ジャックの言葉には同感である。


「ジャック...カートライト家を、調べろ」

侵入者の尋問とそれから密偵も、暗に命じた。


「御意」


カートライト侯爵家は、イングレス国において大きな力のある貴族だ。どのような事が出てこようと簡単にいくことではない。

すでに捕らえた侵入者とカートライト家の繋がりでも見つかれば...。それはそれで処遇が悩ましい。


大きな一柱が倒れれば、均衡が揺らぐ。たとえ王家にとってかわろうと虎視眈々と狙っている一派でも、だ。


それに...アイリーン...フェリシアの危機を伝えてくれた彼女の為にも、ナサニエルを押さえなくてはいけない。

次期王となるエリアルドならば、それくらいやり遂げなくてはならないのだ。

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