王子様の結婚 ① (王妃の階段 より)
イングレス国の王宮の 本宮殿。広間、そこでは王族の晩餐が行われていた。
長いテーブルに座り、完璧なテーブルマナーで食事をする彼は、王太子 エリアルド。
父母それぞれから受け継いだ、淡い銀に近い金髪と母譲りの美しい顔立ちとそれから、長身を受け継いだ。
そして、性格は父王 シュヴァルドからは、勤勉と真面目さと、母クリスタからは表面を取り繕うのが巧い社交的な性格を...。
そんな彼は来年は24歳になる。
男性の貴族としては結婚適齢期を迎えていたのだ。
だからか...
「エリアルド、来年はお前に結婚してもらうぞ」
その席で、シュヴァルドがそう口を開いた。
「確定、ですか...」
ふっとエリアルドは微笑んだ。彼自身、いつそう言われても仕方ないとそう思っていた。
「フェリシア・ブロンテ嬢は今年デビューする。自然な流れで、距離をつめろ」
「了解しました、父上」
エリアルドはそれだけを言うと優雅にグラスを口に運んだ。
「で、そのフェリシア嬢は納得してるのですか?」
そう、聞いたのはエリアルドの弟のギルセルドだ。
少しばかり面白そうなのは、他人事だからに違いない。エリアルドとギルセルドはフェリシアとは会ったことすらない。
「していなくても、させるだろう。周りの大人たちが」
シュヴァルドは慇懃に述べた。
「かわいそう。まだデビューしてないのに、周りの女の子たちはこれから楽しもうとしてるのにね。16やそこらで決められた結婚なんて」
従妹のプリシラが女同士の意見をいい、唇を尖らせた。
「ゆっくりとさせてあげたいのは山々だけどね。この時期が限界だなぁ。カートライトが出てくるよ...あっちには、アイリーン嬢がいるからね」
伯父のアルベルトがそう言った。
「王太子妃の座を巡って、国が乱れるのはよろしくない。それに...エドワードに確認させたけど、フェリシア嬢は、王妃としての見た目は完璧。教育も完璧。誰も文句のつけようのない娘にそだったそうだよ。エリアルドとその子自身の意見なんて二の次だよ、な?」
アルベルトのぞんざいな語り口に
「お前は...相変わらずだな、口を慎め」
シュヴァルドは渋面を作った。
「取り繕った所で同じさ、それに、これは何年も前から決まってる事だ。そんなことは、エリアルド自身がより分かってるさ」
何年も前から、決まってる。
そう、王太子であるエリアルドには、何人かの候補者が昔から居たが、その中から相応しいと思われる令嬢を候補として絞ってきていた。
「大事にしないと、ブロンテ伯はそっぽ向くぞ。ちゃんと大切にな」
シュヴァルドの言葉に真面目にエリアルドは頷いた。
「わかってますよ、ちゃんと、大切にします」
晩餐の後、王宮の一室で従兄弟同士でゆっくりとお酒を飲みながら談笑する。
「兄上が結婚したら、次は私の番かな?」
ギルセルドが楽しげに呟くと、
「やめてよ。次は私たちでしょ?そろそろ適齢期なのに」
プリシラがふぅとため息を吐いた。
「実際のところさ、いないわけ?」
「何がだ?」
「いいなと、思った女の一人や二人」
「...平等に...と、意識していたせいか。いいも嫌もないな」
エリアルドが答えると
「いかにも、王太子として優等生な兄上らしいな」
「お前こそどうなんだ」
「俺は...まぁ、それなりに大人しく女性たちとは語らったりしてるつもり」
「私は、ちゃんと恋愛して結婚したいな」
プリシラの妹のアンジェリンが言うと、
「それこそ、どうなの?私たちこそ難しいのじゃないの?」
「さぁな。それこそ、父上の意思もあるだろうな」
シュヴァルドの姉妹は二人とも外国の王妃となっている。
エリアルドには姉妹はいないから、プリシラとアンジェリンは、王族の姫としてその存在感が大きい。
「それにしても、自然な流れでってなんなの?」
アンジェリンの言葉にエリアルドはさぁ、と返事をして、その顔には長年の、習慣で微かな微笑が浮かんだだけの感情の伺えない王子としての仮面だ。
「だいたい、どうして回りくどくするの?自然なとか言わないではい、この人で決まり!って発表すればいいじゃない」
「ばかね。貴族同士の色々は難しいのよ。だから、エリアルドとそのフェリシア嬢は自然な流れで、惹かれあって結婚しますよっていう体裁が必要なの」
「めんどくさいわね、それ」
「私たちはその自然な流れで、とやらを見れるのかしら?」
「さぁ、どうだかね」
エリアルドは淡々と答えた。
「なんだ?不服な訳?」
「若すぎるな、と」
「ん?若すぎる?」
「16歳からすれば、オジサンじゃないのか?私は」
「そこか...」
「そこだよ」
「まぁー珍しくはないわよね、それくらいの年齢差」
「20歳と、28歳ならいいが16歳と24歳というのはな」
エリアルドは額に軽く握った拳を当てた。
「嫌だって言うか?今から」
「軽く言うなギル」
すでに、全てが動いている筈で、それを覆す気も、そんな事も許される気がしない。エリアルドは王太子として自分の立場がわかりすぎるくらいわかっていた。