舞踏会の出会い(初恋のゆくえ 6話 より)
ブラッドフィールド邸の舞踏会。
美貌の...レディ...と言うには、レオノーラ・アークウェインは、最近まで近衛騎士を務めていただけあり、そのすらりとした長身も合間って凛々しすぎる。
その、レオノーラがランスロットとそして、彼女の夫でもあり、ランスロットの友人でもあるキースに
「よく周りを見ろ」
そう、言われ見回して、壁際に立っている女性に気がついた。
「さっさとお誘いしてこい」
そう、まるで言葉で蹴飛ばされるかのように歩きだしたが、言われなくてもこの国の紳士たるもの、壁際にポツンと立ち尽くしている女性を放っておけはしない。彼女...その淡いグリーンのドレスをきたその女性に近づいた。
「私と踊っていただけますか?」
その時までランスロットは、彼女の事をよく見ていなかった。
声をかけられて、ランスロットを見上げた青い瞳と、それから柔らかな印象の栗色の髪がよく似合う、優しげな雰囲気の女性だった。
「あの...お人違いではいらっしゃいませんか?」
ランスロットと話すのは初対面だった彼女は、そう戸惑った様子で答えてきた。
「まさか、貴方と踊りたくて紹介も無しにこうして、誘いに来てしまいました。無作法をお許しくださいレディ...」
そこまで言って、彼女の名前を知らない事に少し焦った。
「メグ・オルセンですわ、サー」
メグはそれを察したのか、柔らかな笑みを向けて穏やかに話した。
オルセン子爵の令嬢なのか、とランスロットはそう納得した。
「これはまた、失礼を。私はランスロット・アンヴィルと申します」
「こんばんは、ランスロット卿」
「では、こうしてお知り合いに成れたのですから、私をダンスのお相手に選んで頂けますか?ミス メグ」
「ええ、喜んで」
差し出された手袋の越しの手はふんわりと柔らかくて、花の香りがふわりと香った。
女性らしくしとやかな雰囲気のメグは、ランスロットの男心を刺激して
「どうしてこれまで、貴女の事を知らなかったのかと悔しくなります」
そう思わず口説き文句が口をついて出る。
「まぁ...」
クスクスとメグは軽やかに笑うと、頬にえくぼが出来て可愛らしい。
「私も、ランスロット卿のような素敵な紳士とお知り合いになれて嬉しいです」
「私を素敵な紳士と言ってくださるなんて、なかなかお上手です」
「ポツンと立ち尽くしている女性に手を差しのべてくれた、...そんな方を素敵な紳士と呼ばずに何と呼べるでしょう?」
控えめなその物腰といい、話し方といい、ランスロットはトキメキを覚えた。
「ミス メグ。それは誤解ですよ、貴女はとても素敵な女性です」
「ありがとうございます」
にこっと微笑む顔が愛らしく、ランスロットはダンスが終わっても、メグの側で話したくなり、そのまま壁際で隣に立った。
「私の事は、ランスロットでもランスでも呼んで下さい。私も貴女をメグ、と呼んでも?」
「ええ、ランスロット」
そう小さく恥ずかしげに頷くのもランスロットには凄く愛らしく見えて、この不意に訪れた出会いに感謝した。
(ありがとう!レオノーラ!)
と心で叫んだ。