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名もなき者への挽歌  作者: 中崎実
第一章:草原の魔人
9/12

9.

年内にここまで更新しておきたかったので。

 村を制圧したごろつき達は、すっかり気を抜いていた。

 見張りは銃を立てかけたまま、あくびをしていた。

「撃ったら、聞こえてしまうわ」

「フェナーブらしくも無い発言だな、それは」

 私が取り出したものを見て、ユパカが目を丸くした。

「弓矢まで使えるの?」

「さあな」

 借物の弓矢では、銃ほどの命中率は期待できなかった。

 しかし、私は自分で矢を放つ必要はなかった。

 私の隣に滑り込んできたフェナーブの若者が、私の手から弓を取る。

 ブルケデム大陸の言葉を一切話さない若者は、私の指差した先にいた見張りを一矢で死体に変えた。

「レッド・ブルか」

 戦士長の差し金だと、そうフェナーブの若者はそっけなく言った。

「偉大なる戦士長、彼がそう呼ばれる日も遠くないわ」

「行くぞ」

 ライフルを持ち直し、私は馬に乗った。

 キャンプ地のすぐ近くで馬を下り、そこでユパカが見張りに気づかれる。

 何か言うより先に、その見張りの喉にはナイフが突き立っていた。

 落ちてきた死体を避け、ユパカは意味ありげに私に目をむけた。

 構っている暇はない。

 フェナーブ達は何軒かの家に押し込められている。

 そして男達は、酒場となった家で騒いでいた。

 男達の野卑な声と銃声、そして時折、慰み者にされている若い娘の悲鳴が響いてきた。

 酒場のドアが開き、二人の男が死体を持って出てくる。

 そして荷馬車の荷台に死体を放り込み、酒場に戻ろうとした。

 私は一人で広場に出て、ドアが開いたところでその二人を射殺する。

 二つの死体が倒れ込むと、酒場からの音が一瞬、途絶えた。

 銃を手に駆け出してきたごろつき達は、簡単に撃つ事が出来た。

 窓ガラスを割って突き出された銃の弾は、先ほどまで私がいたところを空しく通り過ぎる。

 別の家からも走り出してくる男達の一人も倒し、建物の陰に飛び込む。

 何発もの銃弾が、建物の壁を削っていった。

 こちらも撃ち返す。ごろつきの銃が沈黙した一瞬をついて、走る。

 走る方向は、ユパカ達が向かった家とは逆の方向だった。

 男達は私が引き付ける。そう、話は決まっていた。

 しかし、脱走の途中で声を上げたフェナーブがいた。

「逃げやがったぞ!」

 ごろつきの一人が叫び、何人かの男が怒声を上げる。

 こちらに背を向けた男を撃ち倒したが、すぐに銃弾の返礼が来る。二人のごろつきが、ユパカ達の方に向かおうとする。


 その時、フェナーブのときの声が響いた。


 忍び寄っていたフェナーブの戦士達が、蹄の音も高く村めがけて駆け下りてくる。

 ごろつきたちが慌ててフェナーブの戦士に向かおうとするが、幾つもの銃声がごろつき達を襲った。

 私は走り、自分の馬に乗ると、村の外を回ってユパカ達の元に急ぐ。

 そちらでも、銃撃戦が始まっていた。

 すでに何人か、フェナーブが死んでいる。戦士の若者とユパカは、石の塀に身を隠して、銃を撃ち返していた。

「交代だ。拳銃は使えるか」

「ええ」

「持って行け」

 ユパカの持っていたライフルを、私の拳銃と替える。

 しかし、生き残ったごろつき達も、一筋縄で行く男達ではなかった。

 もっともこの後に及んで、連中を始末する必要はない。

 脱走する時間さえ稼げれば、あとはレッド・ブルが片付ける。

 しかしその、脱走する時間が、問題だった。

 恐怖で足の竦んだフェナーブ達は、なかなか動けない。あるいは、ただがむしゃらに走り出そうとする。

 仕方が無い。

 私は魔力を揮い、誰もいないはずの家を一軒、ごろつき達に向かって倒壊させた。

 悲鳴が上がり、あるいはぐしゃりという音が響く。

「いまだ、行け」

 若者と互いに援護しながら下がった私は、ユパカにそう声をかけた。

 若者も、捕虜誘導に加わる。

 ライフルの弾が残り少なくなったところで、ユパカが駆け寄ってきた。

「もう、あなただけだわ」

「それは違うな。おまえさんもいる。……援護する、脱出しろ」

 倒壊した家から這い出してきた男達は、広場の方の騒ぎなど忘れたように、こちらめがけて銃弾の雨を降らせつづけていた。

 ユパカから拳銃を受け取り、いつでも手に出来るように側に置く。

「今だ……行け!」

 ユパカが走り出す。


 しかし、ユパカは間違っていた。


 ごく幼い少年が、泣きながら空になった家から走り出してきた。

 ユパカがその少年を抱え、なんとか物陰に潜り込んだ。

 ライフルを空になるまで撃ち、私もユパカと同じ陰に飛び込む。

「……残っていたな」

「援護して」

 ユパカが派手に弾を使ったライフルは、もう役に立たない。拳銃一丁で切り抜けるより他には無い。

「走れるか。銃だけが頼りになるぞ」

「魔法使い。……無理をしたわね」

「何の事だ?」

「浄化よ。あれで……」

「来たぞ」

 何か言いかけたユパカを制止し、私は銃を突き出した。

 馬を待たせたところまで後退するのに、しばらくかかる。

 その間に、弾が一発、ユパカの肩をかすっていった。

 しかし、腕に抱えた少年は放そうとしない。

「行くぞ」

 馬が見えたところで私は敵を牽制し、走った。

 ユパカをまず馬に乗せ、少年を手渡す。

「乗って!」

 ユパカが叫んだ時、ごろつきの一人が走り出してきた。


 間に合わない。


 熱い衝撃が私の胸を貫き、すぐに暗黒が私を飲み込んだ。

次回更新は1月6日21時を予定しています

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