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名もなき者への挽歌  作者: 中崎実
第一章:草原の魔人
8/12

8.

 一晩の休息の後、ユパカは出発する事を主張した。


「落馬したら、置いて行く」

 そう言い渡しても、呪術師の意志は変わらなかった。

 先を急ぐ必要があるのは、ユパカも判っているようだった。

「警報はすでに出ているわ」

 馬を走らせながら、ユパカはそう説明した。

「見張りをしていた少年。あれも、警報が出たせいだな」

「そうよ」

「これは推測だが、おそらく、フェナーブ連合軍の一部が出動している」

「今まで、私たちは部族単位でしか戦わなかった。知らないの?」

 私たち。

 ブルケデム大陸の血を受けたユパカは、『大地の守り手』としての誇りを隠そうとしなかった。

「表向きは、そうだな。しかし、裏は違う。緻密な連絡網が出来上がっている」

「……あなた、絶対に賞金稼ぎじゃないわね」

「何に見える」

 危険の中に向かうせいだろう。私の口も、少し軽くなっているようだった。

「見た目は普通の人間よ。ただ、呪術師として言えば、あなた人間じゃないわね」

「なるほど」

「むろん祖霊たちとも違うけど、ウォルカターラの呪いは感じない。面白いわ」

「面白い、か……止まれ」

 丘の裾を巻くようにたどる道。左手に丘、右手は崖。

 その上に現れたのは、数人のフェナーブの戦士だった。



 とりあえず攻撃してくる意志が無いのなら、それでいい。

 フェナーブ達は見え隠れしながら付いて来ていたが、それだけだった。

 道はやがて渓谷に入り、目的の谷が見えた。

 谷の中にあるフェナーブ式の村を見て、ユパカが呪術師の無表情に戻った。

「遅かったな」

「……ええ」

 キャンプ地でだらけた格好をしている男達は、フェナーブではなかった。

「しかし、まだ間に合う」

「どういうこと?」

「全滅したわけではない」

 ごろつきばかりがいくらいても、金は取れない。

 金採掘のために奴隷にされているフェナーブ達の姿も少し、残っていた。

「生きていれば、救出は出来る。違うか」

「やるの?」

「後ろの御仁達は、そのつもりだろう」

 振り向かずに、指で示す。

 ユパカが振り向き、息を呑んだ。

 銃を構えた若いフェナーブの戦士が、我々に付いてこいとあごをしゃくってみせた。



 魔法使いをさっさと射殺しろ。

 そうわめく若い戦士を黙らせたのは、戦士長だと名乗ったフェナーブだった。

「呪術師の連れだ」

 戦士長は、私の銃を取り上げようとはしなかった。

 取り上げても無駄だ。そう、ユパカが宣言したからでもあった。

「理由はそれだけか」

「もう一つある。おまえは射殺できない」

「ほう?」

「撃っても死なないもの相手に弾を撃っても、無駄だ」

 戦士長はそう言いながら、彼らから離れたところにいた私に目をむけた。

 フェナーブ達の前にいるのは、私の馬と、幻影だけだ。

「なるほど。聞いていた通りだな、レッド・ブル」

「誉め言葉と受け取っておこう。それでどうするつもりだ、魔法使い」

「どうもしない。ただ、連中を叩く。賞金首も何人かはいるはずだ」

「賞金目当てには見えない」

「目に映るものだけを信じない方がいい」

「覚えて置こう。我々は今晩、行動を起こす」

 戦士長の発言に、男達から驚愕の声が上がった。

今回は2日間連続更新の予定です(次話は明日の更新を予定しています)

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