学校襲撃
翌日の学校。
教室に来る人の数が以前よりも明らかに減っていた。
ここ二日間、立て続けに魔獣が現れている。
その不安感からだろうか。
「おはよー巽君。......うわぁ今日は人少ないねぇ、これは授業も無いかもだね」
俺が登校して十数分遅れて沙耶もやってきた。
「こんだけ少ないと、先生来ても授業無しだろうな。どうする? もう部室行くか?」
「うーん......、そうしようか」
というわけで朝一番から部室へと向かった。
やってることはサボりと変わらないが、たまになら許されるだろう、きっと。
部室で少し時間をつぶしていると、続々と皆が集まってきた。
どうやらどこのクラスも授業が休みになったようだ。
「昨日今日と授業休みかー。こりゃ本格的に学校がまずいことになってきたな」
一見いつもと変わらない一日。
だが魔獣の侵入によって、そんな平穏な日々は緩やかに、だが着実に崩壊しつつあった。
「ここ二日間のことがあるから、最近は緊張感が増しているんでしょうね。これまでが平和だった分余計にね」
麻子部長が冷静に分析した。
そう、これまでが平和すぎたのだ。
魔獣が出現を始め、異世界の王なる者から宣戦布告されたというのに、日常を謳歌出来ていたのがおかしかった。
「そういえば部長、他の居住区はどうなっているんですか?」
「まぁ場所によるけど、ここは全体の中でも随分平和な方よ。居住区の中では連絡が途絶えているところもかなりあるようだし」
「連絡が途切れたって......」
「軍や警察がその居住区から撤退、あるいは壊滅したってことね。」
麻子部長の回答に美樹が青ざめる。
この日本には現在沢山の居住区が点在している。
その数は百個以上。
そのそれぞれに番号が振られていて、俺達の居住区は36という数字が与えられている。
ここは割と平和な方で、故に他の居住区からたまに移民が来たりする。
このご時世、わざわざ居住区外を出歩くなんていう危険を冒してまで移動するなんて人間は稀だ。
特別な理由がないとそれを試みないだろう。
......例えば、自分の居住区が壊滅した、とか。
平和な居住区に住んでいる俺達には見えないところで、平和はジワリジワリと崩れ始めていたのだ。
そしてその崩壊は、遂に俺達の居住区でも始まった。
「......私達、頑張らなきゃね......」
沙耶の言葉が俺達に重くのしかかった。
昼過ぎまで、俺達は今後のことについて話し合った。
居住区の地図を眺め、今後の活動場所や魔法の使い方についてなど。
なかなか建設的な話し合いだ。
これまではただ無駄話をするだけの集まりだったが、たまにはこうして目的を持ち、それに向かって頑張るのもいいものだ。
「そういえば雄二用に新しい武器が届いたわ。はいこれ」
話がひと段落したところで、麻子部長がバックから何かを取り出し、雄二に渡した。
「おぉ......。ありがとう、部長。これで俺はまた強くなった」
雄二専用の武器か。
羨ましいな。
何だろうと思って覗いてみると、なにやら穴が4っつと棘がついた金属製の手のひらサイズのものが二組。
メリケンサックだった。
「メリケンサック! 生で見たの初めてだよ! よくこんなの思いついたな」
思わず声を出してしまった。
「雄二にピッタリじゃない。それにただの拳よりはよっぽど強いわよ」
確かにその通りだ。
メリケンサックは使い方次第で立派な凶器になります。
皆さま、喧嘩などでの使用は止めましょう。
それにしても部長の家はメリケンサックもすぐ用意できるのか。
俺も今度両手剣とか頼んでみようか。
などと考えていると、突然部室のスピーカーからノイズが入り始めた。
「こんな時に校内放送なんて珍しい......」
美樹がそんなことを言っている間に、放送が始まった。
「皆さん、校内に魔獣が侵入しました。すぐさま学校から避難してください。繰り返します。学校に魔獣が、皆早く逃げて!」
女教師の必死の叫び声と共に放送は切れた。
「これって......」
沙耶がまだ事態が飲み込めていないような表情をしながら呟いた。
学校に魔獣が侵入。
最悪な事態だ。
いくら今日の授業か休みになったからと言って、まだ残っている生徒は沢山いる。
俺達が早くなんとかしないと。
「行くぞ皆!」
俺は皆を急かした。
一刻でも早く魔獣を倒さねば。
しかし麻子部長に静止される。
「待ちなさい巽。私達が皆一緒に行動するより手分けした方が効率的じゃない?」
冷静だ。
しかし全員がばらばらに動くのは危険。
ならどうするか。
俺は焦る気持ちをなんとか抑えつつ考える。
俺と雄二のどちらか一人は居ないと、女子三人だけでは危険だろう。
つまり2チーム、俺のチームと雄二のチームに分けよう。
残る女子三人の振り分けをどうするか。
いざケガをしたとき美樹が居ないと困る。
だがどちらかのチームは美樹が居ない。
つまり美樹が居ないチームはあまりケガしないよう戦力を充実させたい。
なら......。
チーム分けは終わった。
「了解部長。じゃあ部長と沙耶と雄二は3階と4階をお願いします。俺と美樹は2階と1階をまわるぞ」
「分かった」
誰も異論を挿む人はおらず、皆きびきびと準備をし、行動を始めた。
いざという時のこの一体感。素晴らしいチームワークだ。
「じゃあセンパイ、行きましょう」
俺は美樹と共に2階の見回りを始めた。
魔獣は予想よりも多く、この校内に侵入していた。
部室の正面の廊下にも魔犬が見える。
ここは二階だ。それなのにこんなに近くにいるなんて......。
「こいつらもう階段登ってきてんのかよ......」
「センパイはそれを知ってて他の先輩方を上の階に送ったんじゃなかったんですか?」
正直そこまでは考えていなかった。
二手に分かれるなら階で分けた方が効率がいいかなーとか考えただけだ。
しかし、それが功を奏した。
「も、もちろん知ってたさ。さあ美樹よ、俺の先見の明を褒めてくれ」
「馬鹿なこと言ってないで、まずは目の前の魔獣を倒しましょう」
美樹の言葉に促され、俺は正面にいる魔犬に向かっていった。
流石になれたもので、魔犬の一匹なら、一人で安定して倒せるようになっていた。
正面からなら相手が襲いかかってくるところに魔法をかけて、相手の勢いを利用し、喉にナイフを突きさす。
後ろを取れれば最大限気配を殺し距離を詰めて首を狙う。
回避のミスやちょっとした油断から多少の傷は受けたが、それも美樹に直してもらえば問題ない。
二階は大きな苦も無く制圧に成功した。
「センパイも結構レベルアップしてるみたいですね。順調に人間から外れてってます」
「いやいや、美樹も中々だぞ」
何度か美樹も襲われた場面もあったが、俺の魔法の効果もあってか、無事に魔犬の攻撃を回避し、それどころかナイフを犬に突き刺すなど、攻撃面でのサポートまでしてくれた。
ホントに逞しくなったものだ。(感涙)
「さあ次いこう、次」
俺達は階段を降りた。
「きゃあぁぁぁ!」
一階に降りるとすぐ、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
その方向へと俺達二人は無言で走る。
廊下を曲がると、その先に怪我を負った男と女の二人組と、そのすぐ近くに魔犬がいた。
「由香、ここは俺に任せて早く行け!」
「翔クンを置いてなんていけないよ!」
「そんなことしたらお前まで......」
「翔クンを置いて逃げるくらいならワタシも一緒に......」
アツいカップルだった。
アツアツだ。普段なら学校でいちゃいちゃするなと言いたいところだが今回はそんなこと言ってられない。
魔法発動。
右目はズキズキと痛み始めているが、まだ耐えられる。
魔犬はカップルを襲おうとしたところで、自分の体の異変に気が付き、混乱している。
魔犬が振り向いて、俺と目が合った。
遅かったな、既に射程圏内だ。
犬が避けようとする前に、俺は左手で犬の首を押さえ、ナイフも喉へと突き刺す。
随分と体がスムーズに動くようになったものだ。
数回とはいえ、濃い戦闘体験が、体を戦士へと作り替えたようだ。
ナイフが深く刺さる。
魔犬は少し暴れたが、直ぐに動かなくなった。
目が合っていた分、これまでよりは少し罪悪感はあったが、その程度だ。
もう無邪気に動物を愛せない。(元々動物をみてはしゃぐタイプじゃなかったけど)
「そこのお二人さん、大丈夫?」
「え、えっと......、ありがとうございました」
カップルの男の方(翔クン)から感謝を受けた。
イチャイチャカップルだが常識は弁えているようだ。
良かった。
見てみると、足に犬に噛みつかれたと思われるようなケガがあった。
それを美樹も見つけ、すぐさま治療を始めた。
美樹の魔法により、数分で傷は塞がった。
「ふぅ......。これで大丈夫なはずです......。だから早く逃げてください」
美樹はだいぶ疲れたような顔をしていた。
これまでこの規模のケガの治療をしたことはない。
今のでだいぶ体力を消費したようだ。
「え......ウソ......治ってる......さっきまで血も痛みも止まんなかったのに」
男(翔クン)は困惑していた。
美樹を怯えるような目で見た。
これは良くないな。
「また魔獣が来るかもしれません。早く逃げてください。そこの彼女さん、この人に肩かしてあげて直ぐ学校から離れてください」
「は、はい」
カップルの女の方(由香)も事態は飲み込めていないようだが、ここから逃げるのが優先と言うのは分かっているようだ。
直ぐに男を連れて避難を回避した。
「さぁ俺達も活動再開だ。美樹、まだ動けるか?」
「はい......、でもあんまり大ケガされると治療できないかも......」
だいぶ限界は近そうだ。
これほど魔法を使ったことは無いはずだし当然だろう。
そしてそれは俺も同じだ。
右目の痛みは先程よりも明らかに増している。
これ以上魔法の乱用は出来なそうだ。
だがお互いに消耗しているとはいえここで休んでいるわけにはいかない。
俺達は一階の見回りを再開した。
そして一階の理科室。
そこにそいつはいた。
「え......、これって確か......」
美樹の顔から色が消えた。
俺も衝撃で一瞬思考がフリーズした。
キマイラだ。
あの忌まわしき日の動画で人間を蹂躙したそいつが、目の前にいた。




