反省と決意
初めての仕事を終え、俺達は部室へと戻った。
本日の反省会。
反省というのはとても大事なものだ。
得た経験を活かすためには自分の行動を振り返らなくてはならない。
そうすることで初めていい経験となるのだ。
勉強でも同じ。
テキストを解くことよりも間違い直しの時間が重要なのだ。
話がそれた。
ともかく俺達は部室で今日の活動の振り返りを始めた。
「というわけで今日実際に魔獣退治をしてみたわけだがいかがだろうか」
俺は美樹に右手の治療をしてもらいつつみんなに聞いてみた。
本当は治療など必要ないのだが、炎の中に右手を突っ込む様子を見ていた美樹が、治療すると言って聞かなかったため、好きにさせてやった。
「非情に有意義な活動だったな。あれこそまさに俺達がやるべきものだ。俺達の生きる意味だ」
まずは雄二君。大変充実感を得ているようです。
まあ今日の奴の活躍は認めざるをえない。
奴が居なければどんな大惨事が起きていたか、容易に想像出来る。
「そういや雄二、よくあの時間に合ったな」
雄二が沙耶を助けたあの時、間違いなく雄二は魔犬より沙耶から離れた位置にいたはずだ。
なのに沙耶を助けられた。
それはつまり魔犬を追い抜いたということだ。
「お前ってそんなに足速かったっけ?」
「いや......あれが俺の魔法ってわけだ」
なるほど。風の魔法で自分に追い風を吹かせたと。
「あれ、センパイ昨日は魔法の力で疾風拳を完成させたー、とか言ってませんでしたっけ? 足速くなるが疾風拳なんですか?」
「違うぞ美樹よ。疾風拳は俺の奥義。そんな地味な技ではない。風の力を纏いし拳だ」
「つまり雄二はその疾風拳とやらを使う時は拳に魔法をかけていて、今回は体全体にかけた、と。随分器用ね」
麻子部長が上手くまとめてくれた。
つまり魔法は応用して使うことが出来るというわけだ。
俺の魔法や美樹の魔法は応用が難しそうだが、ある程度任意の場所を発火させる沙耶の魔法や、手元を冷やす(しょぼいな)部長の魔法も応用すればもっと凄いことが出来そうだ。
それにしても雄二の奴、自由自在に魔法を使いこなしているようじゃないか。
もしかしてもともと頭がファンタジー世界の住人だから、魔法とかそういう非現実的なものに適応しやすい、とかか。
「雄二君はホントに凄いなぁ。見直しちゃったよ。私も魔法を使いこなせるようにならなきゃだね」
沙耶がしみじみと言った。
沙耶の魔法はこれから魔獣討伐していくとすればとても重要なものになる。
だからやる気を出してくれることは大変ありがたい。
だが......。
「沙耶、良いのか。あんな目にあったのに付き合ってくれるのか?」
俺はつい口にしてしまった。
沙耶は死んでいてもおかしくないほど危険な目にあったのだ。
俺は皆と一緒にワイワイと活動したい。
それが危険なことであっても。
だがそれは俺のワガママだ。
他の皆を巻き込む権利はない。
だから今日、もし危険だから魔獣討伐を止めようという者がいたら、俺は止める気だった。
「確かにあの時死ぬかと思ったし、ホントに怖かったよ」
「でもね、だからこそ、この活動は必要だって思ったんだ。だって普通の人が襲われたら、直ぐに殺されちゃう。でも私達が協力すれば倒せる。だったら私達が頑張らなきゃ。さっき雄二君も言ってたけど、それが私達のやるべきことだと思うんだ」
沙耶の瞳には強い意思が宿っていた。
沙耶がこんなに強かったなんて、知らなかった。
「それにさ、私たちが頑張ることで、ちょっとでも警察の人や軍の人の負担を減らせるならさ、やりたいって思うんだ」
「そういやお前の親って......」
思い出した。
沙耶の両親は二人とも警察官だ。
今は魔獣と戦っているはず。
だから、少しでも二人の負担を減らしたいと思っているのかもしれない。
「沙耶センパイもやる気ですか。なら、私ももっと魔法を磨かないとですな」
俺の治療を終えた美樹が明るい表情で決意を述べた。
意外だった。
これまではもっとも消極的だったというのに。
「まじか美樹......。そんなに逞しい子になったなんて、俺驚いちゃったよ」
つい声に出てしまった。
美樹はそれを聞くと心外そうな顔をした。
「やだな~センパイ。この美樹をちょいとなめてやいませんか? 雄二センパイや巽センパイはともかく沙耶センパイの決意を聞いてまで怖気づく女ではありませんよ」
そういうことらしい。
さて残るは麻子部長なわけだが......。
「で、どうするんです? 部長?」
麻子部長の方を向く。
やれやれといった顔だ。
「分かったわよ。私も付き合ってやるわよ」
「いやならいいんですよ? じっさい危険ですし」
今日のことがあった以上、無理やり付き合わせることは出来ない。
覚悟をもってもらわないと。
部長は少し考えたが、直ぐに口を開いた。
「何言ってるの。私は部長よ。あなた達に何かあったら私が責任とらされるの。そんなの嫌よ。だったら私がしっかり見張ってないといけないじゃない」
「......それに私だけ仲間外れにされたくないし......」
後半部はよく聞こえなかったが、とりあえず全員の決意が固まった。
「よし、それじゃあ改めて、皆これからもよろしく!」
激動の一日は終わった。
そして、新しい日々がこの日から始まることになった。




