神河巽の回顧録~初めての魔法~
あの魔獣の動画がネットに出る、全てが変わった日、その日は部室に5人集まっていた。
「麻子部長、今年の夏はどこでサバイバルするんですか?」
部室で扇風機にの前を占領しつつ、俺は麻子部長に尋ねた。
「今良い場所を探しているわ。活動費は一人3千円ほどになりそうね」
「えー。部長の親のつてでただにしてくださいよ」
「うるさい。これでも親にお金出してもらってるからこの値段なのよ。ホントは援助などしてもらいたくないのだけど」
夏休みのサバイバル部は例年夏合宿を行っている。
しかし別に本格的なサバイバルをしているわけではもちろんない。
釣りで取った魚をとって食べたり、火を起こして米を炊いたり、いわゆるキャンプだ。
これまでの先輩方は安いキャンプ場でやっていたらしいのだが、去年は麻子部長の親の金(と俺のワガママ)で無人島を貸し切りで行った。
あれは楽しかった。
今年もその規模の合宿をしたい。
「無人島貸切るってさすが麻子部長......。どんなことしたんですか?」
「うーん、釣りとか、ドラム缶風呂とか、あとサバイバルゲームもしたなぁ」
「くっ......。あの戦いを思い出させるな」
そう、サバイバルゲーム。
そんなこともした。
俺・麻子部長チームVS雄二・沙耶チームという構図。
森で、ゴムナイフを使った戦いだ。
「ここだ。沙耶、お前の命はもらったぁぁ」
「うわぁ、巽君いつの間に!」
開戦から7分。
雄二・沙耶チームが仕掛けた落とし穴などの妨害にあいながらも俺達二人は、周囲を警戒しつつ移動する二人を発見。
「おのれあの二人......。あんな卑怯なトラップを......」
ちなみに部長は道の途中の枝に引っかかって盛大に転び、土まみれになったためご機嫌ななめだ。
しかもそれを二人の罠だと思っているらしい。
盛大な誤解だが、俺には都合がいいので黙っていた。
「今こそ復讐の時です。部長、俺に策があるんです」
作戦はこうだ。
まずは俺と部長の二手に分かれる。
お互いに奇襲の準備が整ったら、俺が石を投げる。
石が枝を折る音がしたら、そこに敵二人は注意を向けるはず。
そこで俺は沙耶へ、麻子部長は雄二へ襲いかかる。
開戦から12分。上の作戦を実行。
俺は沙耶の首にナイフを突きつけた。
「はい、沙耶アウト」
「うわー、やられちゃった。ごめん雄二君」
「謝る必要はない。今頃はやつもこちらの手にかかっていることだろう......」
俺はカリスマ性の高い悪役のごとく、ニヒルな笑みを浮かべた。
「ふ......。それはどうかな」
油断しきってた俺の後ろからナイフが伸びてきた。
危ない。
一瞬反応が遅れていたらやられていた。
ギリギリのところで回避し、俺は後ろに向き直り、構えをとる。
「さすがだ巽。あれを回避するとはな」
雄二がそこにナイフを構えて立っていた。
「......麻子部長はどうした」
「部長は俺が手を下してやったさ」
「......貴様」
俺達はまるでアニメの最終回、主人公VS敵に裏返った親友の如き雰囲気で対峙した。
てか部長、奇襲しかけて負けたんか。
意外とあのひと残念系なのかなぁ。
「......隙あり」
少しぼやっとしているところを雄二は見逃さなかった。
ナイフを振りかぶり、一気に距離を詰める。
「終わりだ、巽!」
雄二のナイフは首に向かい真っすぐに振り下ろされる。
正直な軌道だ。
故に読める。
「させるかよぉ」
首に当たる直前、ナイフで受けた。
激しい火花が散った。(脳内エフェクト)
「ちっ......、だがこれからが本番。くらえ、疾風剣!」
疾風剣。
雄二の必殺技。
恐ろしい速さでナイフを振り回す。常人はそのナイフをみることすら出来ずに息絶える。
そんな設定。
実際のところそんな速くは無いのだが、それでも怒涛の猛攻に、俺は防戦一方になる。
「どうした、そんなものか」
「ぐぬぬ......」
雄二の得意な顔を見ると腹が立つが、実際かなり不利だ。
どっかで挽回したいが、なかなかきっかけがつかめない。
ぶっちゃけヤバい。
負けそう。
「ふ......もらったぞたつ......」
いよいよかと思ったところで、突然雄二が体勢を崩した。
そこは雄二たちのチームが仕掛けていた落とし穴があった場所。
奴は自分で仕掛けた罠に自分で嵌っていた。
「馬鹿な......。俺をはめただと......」
どうやらこいつは俺が罠の位置に雄二が来るように仕向けたと思っているらしい。
馬鹿だ。しかしこのチャンスを活かさないわけにはいかない。
「気づいてももう遅い。俺の勝ちだ」
落とし穴に嵌った雄二の首にナイフを突きつけた。
ゲームセットだ。
「確か雄二君、あの時から色々拳法をかじるようになったんだよね」
「あぁ......。巽にはナイフでは勝てない。だから俺はいつか拳法で奴を倒す。あの日、そう誓ったのさ」
「......センパイ達って、結構馬鹿ですよね」
「ちょっと美樹、私は一緒にしないで頂戴」
そんなことを言いながら、みんなで笑いあった。
輝かしい日々。
眩しい青春。
こんな時間がずっと続けばと願った。
その願いが、俺に魔法を与えた。
そしてその願いも虚しく、輝かしい日常は崩壊を始めた。
異世界による侵略。
魔獣の出現。
混乱。
沙耶と雄二は学校にあまり来なくなった。
部活は崩壊し始めていた。
繋ぎ止めるためには、皆で一緒にいる大義名分が必要だった。
内容はなんでもいい。だが、皆が混沌としたこのご時世に共にやれる何か。
それが居住区内の魔獣の討伐だった。




