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色の違う瞳で


 次の目覚めはやたら豪華な部屋の中であった。

 目を開けた瞬間から差し込む蛍光灯の光が眩しい。

 視界には豪華な絵画も映る。

 成金嗜好な部屋。

 見覚えは大ありだ。


 「良かった......。おはよう、巽君」


 聞くと安心する声。沙耶の声だ。


 「そうか、俺、生きてたんだ。正直やばいかなって思ったけど」


 眠る前、気力を全て使い尽くしたような感覚があった。

 それなのに今は力がみなぎっている。

 体中の調子がいい。


 「あれ、ケガは......」

 「全部、美樹ちゃんが治してくれたの。自分も苦しい中で全員分のケガをね。ホントに凄いよね、この娘」


 沙耶が俺の右側を指さす。

 そこに美樹がすやすやと眠っていた。

 俺の右手を握りながら。

 

「ありがとな、美樹」


 そんな一言だけですむ程小さい恩ではないが、その言葉だけが、今できる唯一の恩返しだ。

 あぁ、また皆への恩が増えてしまった。

 生きているだけで恩がどんどん増えていく。俺はそれらを全て返しきれるのだろうか。

 沙耶の方を見る。

 とりあえずは、守れた。

 そうやって地道に一つ一つ返していくしかないのだろう。

 沙耶から見つめ返され、目と目が合う。

 すると、沙耶が何かに気が付いたように、一歩分顔を寄せてくる。

 近い。ドキドキするからそういう奇襲は止めてほしい。


「あれ、巽君、これ......」


 沙耶が顔を近づけたまま驚きの声をあげる。

 息がかかる程の距離。

 唇も近い。

 誘惑、されているのか。

 煩悩に支配され、全く話を聞いていなかったが、沙耶は何か重要なことを見つけたようだ。

 顔を離すと、スマホを取り出し、カメラモードにする。


「まてまて、写真で何を撮るつもりだ。待ち受けとかアイコンをキスショットに」する人とかいるけど俺そういうの恥ずかしいタイプなんですけど!」

「違くて、ほら、これみてよ」


 俺が動揺していることにお構いなく、沙耶がスマホを差し出してきた。

 カメラは持ち主側を映し出すモード、画面には俺が映し出されている。

 見慣れたいつもの顔。

 しかし、一か所に違和感が。

 

「あれ、俺の右目......」


 そう、右目。

 俺の目は一般的日本人らしく両方とも黒であった。

 しかし、今画面に映る俺の右目は、金色となっている。

 

「まじかよ......」


 漫画の世界にはよく見るオッドアイであるが、リアルで見るのは始めてだ。

 それもまさか俺がなるとは......。

 正直、カッコいいなどとは思えず、ただただ気持ち悪い。

 最初からオッドアイなのであればまた違ったのかもしれないが、見慣れた顔が突如右目の色が劇的に変わるなど、違和感と不快感しか感じない。

 悪質ないたずらかと思うほどに。


「どうした、巽」


 本部長室の机や本棚を漁っていた雄二がこちらに駆けつけてきた。

 そして俺の顔を見るなり一言。


「......そうか、遂に覚醒したか」


 雄二の中二脳的には覚醒するとオッドアイになるらしい。

 しかも羨ましそうに言っていたことも考えると、こいつはリアルでオッドアイを見てもなおカッコいいと思っているようだ。

 こいつは何処までも中二心を貫いているなぁ。

 まぁ気持ち悪いとか言われるよりは......。


「え? なにそれ。カラコンしたの? 似合ってないわよ」


 ザクッ!(脳内SE)

 

「俺がいつカラコンするんですか! さっきまで寝てたじゃん!」

「言われてみれば。でも目の色なんてあまり注目してなかったし、外では暗くて見えなかったし。作戦前にこっそりカラコンいれたとか......」

「違います!」


 部長は資料漁りから戻ってくるなり失礼なことを言ってきた。

 まったく、少しはデリカシーというものをだな......。


「本当にカラコンとかじゃないの? そういえば昔もそんな感じだったような......」

「違うから! それに今までもカラコンしたこともないし、オッドアイになんてしねぇよ、そこまで中二拗らせてねぇよ!」


 沙耶まで本気でそんなことを言い出した。

 しかし俺はカラコンしたことなど無い、......はず。

 記憶とは実に曖昧であてにならない物だ。

 俺と沙耶のどちらかの記憶は完全に改ざんされてしまっている。恐ろしや。

 

 それにしてもどうして突然こうなったのか、心当たりは一つしかなかった。


「魔法の使い過ぎかねぇ......」


 以前から魔法を使うと右目が痛くなっていたうえ、マンモスを倒した時には爆発したかのような強い衝撃と、何かが流れ出しているような感覚があった。

 となると十中八九、魔法が原因だろう。

 まあ考えようによっては失明とかではなくて良かったとも言えるかもしれない。

 これ以上くよくよ考えても仕方あるまい。


「眼帯とかつけたら強キャラ感でるかな」


 俺の提案は雄二以外からの強い反対により否決された。


 

「めぼしい資料はこんなところね」


 部長の言葉と共に本部長の家宅(?)捜索は終わった。

 彼の手帳や机の中の書類などから、異世界の者との取引や食料の独占、不満分子の強引な排除などの数々の言い逃れできない資料が見つかった。

 それらをとりあえずは居住区の外を守っている自衛隊に渡して、内政に干渉して頂く、というのが俺達のプランである。

 また、超重要アイテム、収容所の鍵も手に入れた。これでアリスの両親も助け出せる。

 手に入れた資料にあった処刑された人のリストの中にアリスの両親の名は無かったため、そこは一安心であった。

 苦難もあったが、無事目的達成、クエストクリアだ。


「この男もこれでもう終わりだわ」


 部長は部屋の傍らで縛られて気絶している本部長を見る。

 美樹の治療によって意識を取り戻した部長と雄二の二人がボコボコにしたようだ。


「もっと固く縛って、ついでに縄の辺りを凍らせて床とくっつけた方が完璧かしら」

「いいよいいよ、そこまでやんなくて」


 部長は更に本部長をカチカチに拘束する気だったが、止めておいた。


「俺達はさっさとこの資料を自衛隊のとこに持ってこうぜ」

「......そうね」


 だいぶ不満げであったが、部長は撤収の準備を始めた。

 この人、人を縛ったりするの好きなのかもしれない。

 女王的なオーラも持っているし、そっちの才能にあふれている気がする。

 

「美樹はまだ寝てるのか」

「あれだけ魔法を使ったから、だいぶ疲れちゃったんじゃない?」

「そうか、なら俺がおぶってやろう」

「駄目よ、私がおぶるから」

「何故だ......」

「雄二には何となく任せておけないから」

「......。」


 そんな平穏な会話。

 かなりの危険はあったが、それでも聖域は保たれた。

 どんな幸せな時もいつかは終わる。

 それは人間には覆すことのできない摂理だ。

 だからこそ、こんな一瞬一瞬を大切にしていかないといけない。

 たとえ学園から追われて、世界が危険なこの状況でも、まだ聖域はあるのだから。 

 

 本日の戦果。

 魔犬・5。

 人・3(気絶)。

 マンモス・1(大ボス)

 こちらの損害・0。


 十分な戦果と共に、俺達は部屋を出た。

 その間際、本部長の口の端が吊り上がっていたことには俺以外は気づいていなかっただろう。

 ともかくも、居住区を出てから初めての大きな活動は大成功に終わったのだった。

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