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オペレーション・インベード

 深夜三時。

 この居住区の人間は食料不足のこともあって、夜はさっさと寝てエネルギーを無駄遣いしない。

 そのため建物は真っ暗だ。

 警察本部を除いては。


「そろそろ着くわ」

「それじゃあ始めるか。オペレーション・インベード、開始」


 

 話は一旦夕方、飯塚から話を聞き、アリス宅まで戻ったところまで遡る。

 

 


 家に帰ると、美味しそうな夕食の匂いが扉を開けた瞬間から香ってきた。


「あ、巽さんも麻子さんもお帰りなさい!」


 俺達が帰ってきたことに気が付いたアリスが台所から顔を出した。



「麻子?ってえーと......」


 横から無言のプレッシャーが。

 そうだった。俺達の部長のフルネームは伊吹麻子。

 忘れていたわけではないのだが、部長の二文字が無いとしっくりこない。


「ねぇ部長。これから伊月・A・部長に改名しません?」


 無言で叩かれたところで沙耶と美樹も台所から現れた。


「二人共おかえりなさい。丁度夕食出来たから、巽君は雄二君呼んできてくれない?」

「......分かった」


 痛めた側頭部を押さえながら二階へと向かった。


「この状況、デジャブだ......」


 二階。男部屋。

 そこでは雄二がいびきをかきながら爆睡していた。

 

「他の皆は夕食作っている中随分といいご身分だな」


 昨日同様に投げっぱなしにされている足を蹴る。

 

「全く、てめぇは、いつまで、寝てる気だ。起きろ!」


 ちょうど五発目のところで雄二は目を覚ました。


「おお、巽か。おはよう、どうしたんだ」

「飯だ。さっさと起きて下に降りてこい」

「分かった。あと昨日もだが、最近起きたら足が痛いんだ。これは病気か?」

「鍛え方が足りないんだ。もっと強くなるんだな」

「そういうことか」


 納得した顔の雄二をしり目に、俺は台所に戻った。


 そして夕食タイム。

 ご飯とみそ汁と、そしてサイコロステーキ。

 肉である。人間は大抵肉好きであり、俺も例外ではない。

 

「うめぇ......、うめぇよ......」

「良かったね、アリス」

「はい! じゃんじゃん食べてください」


 調理班の三人娘はとくに俺と雄二の食いっぷりに大変満足しているようだ。

 皆、アリスとすっかり仲良くなった。

 だが、この生活をずっと続けるわけにはいかない。

 アリスには両親が必要なのだ。

 そのための話をしなければ。

 一通り夕食が終わったところで俺は話を切り出した。


「それじゃあ今日得た情報をこれから皆に話す」


 警備体制や間取り、そして本部長の黒い行為まで全て話した。

 そこからは具体的な警察本部への侵入作戦の検討。

 どのようにして正面玄関を突破するかが焦点となった。

 検討の結果、二手に分かれて各個撃破という作戦が採用されることに。

 相手に声をあげさせないように慎重かつ迅速な行動が求められるが、今の俺達ならきっと出来るはずだ。

 そして決行日時は本日深夜に決定。

 飯塚が情報を漏らす可能性、本部長が俺達の存在に勘づく可能性などを考慮すれば、早いにこしたことは無い。


「わたしも行きたいです」


 作戦にアリスも志願してきたため、止めるよう説得するのには苦労した。

 残念ながら魔法を使えないアリスでは戦力にならないだろう。

 最終的には納得してくれ、家を守るという大事な任務に就いてくれることとなった。

 ということで夕食の場で大体の道筋はたてられたのだが、ただ一つ、不可解なことが残った。

 それは、本部長があの動画が出回るよりも前から、異世界側の者と接触していた、という疑惑である。

 その人類に対する重大な裏切り行為の是非についてはおいておいても、そのことから異世界とこの世界は動画がアップされる前から繋がっていたと考えられるではないか。

 だったら一体いつから?

 そして異世界サイドはあの日までずっと息を潜めたとして、その目的は?

 などといった色々な問題が浮かび上がってくるのだが、それらはどれも検討もつかない疑問だ。

 今は一旦考えるのを保留し、各自作戦開始時間まで装備を整えるなどして時間を待つこととなった。

 



 そして作戦開始である。

 全員今回は以前貰った軍服を着て、作戦行動をとる。

 軍隊っぽさがだいぶ高い。

 軍隊コスプレと萌えに関する考察をしている間に正面玄関前へとたどり着いた。


「よし、ここからは別行動だな。健闘を祈るぜ」


 俺と部長は陽動班として、一旦皆から離れて行動する。

 離れ離れで戦うのは学校襲撃の時以来か。

 今ではあの日が遠い昔のようだ。

 思い出に浸っていたいが、そんな暇は今は残念ながら無い。

 目的のポイントまで、気づかれないように移動した。



「ここでいいんじゃない」


 三人から十分離れたところで立ち止まる。

 正面玄関の警官二人が見え、パトカーが多く止まっている駐車場。

 条件に合致した場所。

 ここなら上手く行きそうだ。


「そうですね。それじゃ一呼吸おいたら始めます。準備お願いしますよ」


 一度深く深呼吸。

 そして懐中電灯を照らし、正面玄関前の警官に照射した。

 作戦スタートだ。



 正面玄関前の二人の警官、彼らが何かを話し、内一人が犬を連れてこちらに向かってきた。

 マニュアル通りの対応。

 侵入を試みている人間が一人の時は有効そうだが、二人以上の時はこうして分断されるリスクがあることには気が付いているのだろうか。

 まあ普通の人間相手では魔犬がいればそれだけで侵入者を排除できるので、マニュアルが適当だろうと外部に漏れようと問題ないのだ。

 普通の人間相手ならば。

 だが俺達は普通の人間ではない。

 

「見えてると思うけど、犬は真っすぐこちらに向かってきているわ。警官の方は車をよけながら来ているから犬との距離は徐々に開いてきているわね」

「了解」


 魔犬は脇目もふらず、この闇の中を真っすぐに俺達目がけて向かってきている。

 動物の嗅覚とは恐ろしいものだ。

 警察本部が放つ蛍光灯の光のおかげで俺達はなんとか警官と魔犬の姿を捉えているが、懐中電灯をきった俺達の姿はこの暗闇の中に完全に埋もれているはずなのに。

 人間は他の動物と比べ、純粋な戦闘スペックは相当低い。

 脚力も腕力も、例えばその辺のウホウホ言っている動物園のゴリラに挑んだらボコボコにされる、その程度だ。

 だがなぜこの世界の頂点に君臨し続けられているのか、それはただ頭脳による力であった。

 しかし、異世界と繋がって以降、新たに魔法の力も獲得した。

 これは頭脳だけでは勝てないと判断した人間の遺伝子が、それでも外敵を倒すために新たに発現させた力なのであろうか。

 ともかくも頭脳と魔法、この二つで俺達は魔犬と警官に挑まねばならない。


「それじゃあ俺の方も魔法かけとくから、部長も警官の妨害をお願いします」


 久しぶりの魔法。

 集中して、対象を観測する。

 ターゲットは魔犬ではなく警官。

 各個撃破のためには相手同士の距離をもっと引き離す必要がある。そのためには警官相手に魔法を使わねばならない。

 だが、そうなると魔犬は魔法無しで処理せねばならない。

 俺の魔法がまだ一体相手にしか使えないことが悔やまれるが、それは仕方ないことだ。

 今まではいつも魔法をかけて動きを鈍らせた魔犬を倒してきた。

 今回は全力勝負でいこうじゃないか。

 

「巽、上よ!」


 魔犬は目の前のパトカーを、障害物走のハードルのようにあっさり飛び越えてきた。

 俺は着地地点目がけてナイフを突き出す。

 渾身の力を込めて突き出したナイフは魔犬の右目の辺りに突き刺さった。

 が、仕留めきれていない。

 魔犬は怒り狂ったかのように頭を振り回す。

 腹に頭突きを受け、俺は数歩後ろへと突き飛ばされた。

 手にナイフは無い。魔犬に突き刺したままとなってしまった。

 やばい。

 しかし犬はお構いなく俺目がけて全速力で飛び込んでくる。

 

「くそっ。南無三!」


 喉を噛みつかんと開けた大口目がけて懐中電灯を突き出した。

 しかし魔犬の勢いは止めきれず、地面に押し倒される形となる。

 目の前直ぐに魔犬の口がある状況、ホラーである。

 魔犬の口から懐中電灯が外れればすぐに俺は奴の餌になってしまうだろう。

 必死に抵抗していると、徐々に魔犬の動きが弱まってきた。


「大丈夫?」


 懐中電灯に思いっきり力をかけると、魔犬の顔が砕け散り、その先に部長の顔が見えた。

 ナイス援護。

 

「ありがとうございます」

「油断しないで、次がくるわよ」

「了解」


 しかし、実のところ警官の方は単体ならそこまで問題ではない。

 

「くそっ、あの犬足早すぎだぞ! どうなってやがる」


 いまだにこの警官、自分が遅くなっていることに気が付いていないようだ。

 だが無理はない。

 相対性理論あたりの話によれば、そう感じるのも別におかしなことではないのだろう、多分。

 あんまりそこらへん突き詰めると魔法とはなんぞやとなるので考えるのはやめとこう。

 とりあえず俺は無自覚に遅くなっている警官の後ろに回り込み、突如現れた氷の壁に驚いている警官の首を手刀でトンとしてやることで、警官の意識を失わせた。

 一度やってみたかったんだよね、これ。

 ちなみに良い子の皆は真似しないでね。

 

「上手く行ったわね、さあ沙耶たちと合流しましょう」


 ここまではスムーズ。

 向こうも上手く行っているといいが。

 俺達は沙耶班のもとへ向かった。



「お疲れ、そっちも上手くいったみたいだね」


 正面玄関前には魔犬の死骸と気絶した警官。

 どうやら上手く行ったみたいだ。


「よし、後は本部に乗り込むだけだな」

「その前に、巽センパイケガしてるじゃないですか。ちょっと見せてくださいよ」


 美樹が俺の左肩に手をかざした。

 見てみると、確かに血がにじんでいるようで、赤く染まっている。

 どうやら犬ともみ合いになっている時に出来た傷のようだ。

 それにしても真夜中の暗闇の中、美樹と向かい合わせ。しかも顔が近い。

 ドキドキしない訳がない。

 少し頑張ればキスも出来てしまいそうな距離。

 どうする?

 これはもう行くしかないだろ。ばっきゃろー、そんなこと出来るか。

 頭の中で天使と悪魔が争い発生。

 最初は一体一の喧嘩が、互い仲間を呼んで、やくざの抗争ばりに。

 更にお互いの勢力は拡大して、いつの間にか川中島ばりの大決戦へ。


「あわわ。あわわ」

「? どうしたんですか? 治療終わりましたよ」


 丁度お互いに核ミサイルを飛ばし始めた辺りで美樹が離れた。

 戦争終了。大損害をだしながらどちらが勝ったとも言えない、無益な戦いであった......。


「どうしたんですか、残念そうな顔をして」

「何でもないさ......。それより、準備は整った今こそ出陣じゃ!」

「巽君が壊れとる......」


 ちょっとした休憩を挟んでしまったが、俺達は警察本部の玄関をくぐった。

 

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