南アリスの神隠し
アリス宅前。
既に夕方になっていたので、配給を受け取りに行ったアリスや、独自の手法で調査するとかほざいた雄二も既に帰ってきているはずである。
沙耶と美樹は家事全般をしているので、この家には合計4人がいるはずだ。
それなのに家の中からは不自然なまでに音がしないのである。
いや、正確に言えば音はある。
一人分の、随分とドタバタとした足音だ。
危険な予感。
中を警戒しつつ、慎重に扉を開ける。
家の中に目をやると、沙耶と美樹の二人がうつぶせで倒れていた。
「美樹! ......沙耶!」
部長も二人の姿を見て短い悲鳴をあげた。
俺は急いで二人のもとに駆け寄る。
「......巽君」
沙耶が俺に気づくと、弱弱しく目を開けた。
「沙耶! どうしたんだ、何があった!」
「......見つけて......。彼女は......」
そこまで行ったところで沙耶はまた目を閉じ、言葉を紡がなくなった。
「沙耶ぁぁぁぁぁぁ!!」
「はい、近所迷惑だから茶番はそこまでね」
せっかく気分が最高に盛り上がったところで部長に盛大に水を差された。
「美樹から事情は聞いたわ。アリスとかくれんぼをしてたら見つからなくて疲れたので休んでた、と。
「部長はクールすぎますよ。それに美樹も。せっかく俺と沙耶で雰囲気作ったのに台無しじゃないですか」
「かくれんぼに一々少年漫画的な熱血さを持ち出さないで頂戴」
まあともかくも、そんな感じでアリスを探すことになったわけである。
「どこだ......、どこにいる......。このまま俺の目を欺き通せると思うなよ......」
そしてドタバタ音の正体、雄二はブツブツ呟きながら二階を動き回っていた。
完全に危ない人だ。そとに出れば間違いなく警察呼ばれるやつだ。
「うわ......」
部長もドン引きしている。
「誰だ! ん......なんだ、巽と部長か。帰ってきたか」
「叫びながら振り返るのやめろ、ホラーになるから。それよりアリス探してるんだよな、俺達も手伝うよ」
「あいつを見つけるのは俺だ。お前には」
「というわけで部長、俺は二階探すんで一階をお願いします」
「分かったわ。なるべく静かに探して頂戴ね」
雄二の言葉を無視して二階の捜索を開始する。
美樹と沙耶の説明によれば、アリスはなかなかのかくれんぼの名手であり、鬼一人で見つけることは不可能と判断。鬼三人体制で捜索しているのだが、それでも見つからず、ここに十分近く探しているのだが手がかりも無いようだ。
いくらここがホームグラウンドとはいえ、南アリス。恐ろしい少女だ。
基本的に捜索は女子二人組が一階を、雄二が二階を行っていたらしい。
つまり一階と二階、どちらかと言えば二階にいる可能性が高いはずである。
雄二が探していないような箇所を中心に、一部屋一部屋集中してアリスを探す。
十分経過。
見つからない。
二階はアリスの部屋、男部屋、女部屋の三つの部屋があるのだが、そのどこにも見当たらない。
ベットの下や衣装ダンスの中、鏡の裏などもれなく探したのだがどこにも居ないのだ。
「何故だ......、消えたのか?」
「お前には見つけられないさ。俺に任せて休んでな」
雄二が途方に暮れている俺の後ろから声をかけてきた。
偉そうなことを言っているが、こいつも未だ手がかりすら見つけられていない。信頼0だ。
「よくそんな大口叩けるよな。お前のメンタルにはいつも驚かされるぜ」
「ふ......。俺の精神力はそこらの奴とは鍛え方が違う。お前も俺の域に到達したいならもっと鍛えることだな」
褒めたつもりはミジンコほども無いのだが何故か得意げだ。わけがわからん。
だがまあこいつのメンタルをちょっとばかし見習うか。
「......捜索再開」
口に出し、自分を奮い立たせて、アリスを再び探し始める。
「ここにいるはずだ......」
アリスの部屋にもう一度戻る。
ここはアリスにとってホームの中でも更にホーム、ホームオブホームだ。
一番隠れやすい場所のはず。
普通に探しても見つからないということは、普通じゃないところに隠れているはずだ。
俺は四つん這いになり、床に僅かにでもおかしなところが無いか、徹底的に探す。
何の変哲もないただの床だ。
ベッドの下も入念に探したが、何一つ見つからなかった。
「無いのか......。せめてエロ本の一つくらい......」
どうなんだろう。10歳の一般的少女はエロ本を持っているものなのだろうか。
まあアリスの場合、やましい物を持っていないから家でかくれんぼを出来るわけだが。
そんなことに思いをはせながらベッドを眺める。
この中も探して......。
「うわぁぁぁ! 女の子のベッドの中を探したら変態じゃねぇか!」
そんな姿、誰かに見られたら誤解待ったなし!
だがもしかしたらベッドの中にいるかもしれない。
だから探さなければならない。仕方ないよね。
ベッドに顔を近づけ痕跡をさが......。
「駄目だ! 社会性が! 俺のこれまで築きあげたキャラが壊れちゃうのぉぉぉ!」
ひっくり返って床の上を転げまわった。
冷静になると我ながらアホだ。
下の階から部長に黙れと叱られた。
反省しつつ天井を眺める。
「......ん?」
天井になにやら金属の取っ手のようなものがあるのが見えた。
そしてそれはちょうどベッドの上に位置していた。
ベッドの上に届けば子供でも手が届きそうな高さだ。
「......謎は、全て解けた。叔父ちゃんの名にかけて、真実はいつも一つってな」
俺はかがみながらベッドの上に上り、金属の取っ手に手をかけた。
そして慎重にそれを引っ張ると、そこは屋根裏部屋への入り口に早変わりした。
ご丁寧に階段も用意されている。
「見つけたぜ、アリス」
屋根裏部屋は小奇麗に整理されており、灯りもついていた。
十分に部屋として使えるほどの広さだ。
そこにアリスが膝を抱えてうずくまっていた。
「見つけるまで時間掛かっちまったな。悪い、寂しい思いをさせて」
「ううん、皆必死に探している声は聞こえてきたから、寂しくなんて無かったよ」
アリスは顔を挙あげて笑顔を見せた。
だが、その目は真っ赤で、潤んでいた。
「ただね、隠れている内に、昔お父さんとお母さんとかくれんぼしたこと思い出して、その時もここに隠れてたこと思い出して。その時は、結局お父さんたちは私を見つけられなくって、降参だってお父さんが言ったから、隠れるの止めて下に降りたらお父さんもお母さんもいて、それで......」
アリスは話している途中から涙が止まらず、しゃくりをあげ始めた。
懐かしくも暖かい家族の記憶。
それを最初からそれを持たない持っていないことと、一時持たされ、それを奪われることはどちらが悲劇なのだろうか。
初めから持っていない俺と違い、皆それを理不尽に奪われてしまった。
沙耶もアリスも、そして美樹も。
だがアリスの家族は今の俺達にも取り返してやれる。
目の前で泣く少女をみる。
俺は、絶対にアリスの家族を解放してみせる。
例え、どんな手を使ってでも。




