表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

素敵な朝、素敵な朝食

 翌朝、爽やかに起床。だが見知らぬ天井。

 ここどこ......としばらく考えた末、アリスに家へ招かれていたことを思い出す。

 連鎖的に、昨日の夜、沙耶との会話も思い出した。

 決意を新たに迎えた朝、台所に行くと、既に目玉焼きとトースト、サラダ、コーヒーという典型的朝食が出来上がっていた。


「こ、これは......」


 思わず絶句してしまった。

 こんな朝食が現れるなんて、予想もしていなかった。

 ここは楽園か天国か。 

 初体験だ。

 感動。


「あら、起きたの巽。」

「おはようございます!」


 麻子部長とアリスが俺に気づいたようだ。

 

「これ二人が作ったの?」

「そうよ。アリスにも野菜を切ってもらったわ」

「はい。ちょっと大きくなっちゃったかもしれないですけど......」

「そんなことないわ。上手く出来てたわよ」


 二人は随分仲良くなっているようだ。

 長女→麻子。

 次女→沙耶。

 三女→美樹。

 末っ子→アリス。

 の構造が出来あがっていた。

 微笑ましい。暖かい家庭的なものの片鱗が見えた。

 俺が二人を暖かく見守っていると、部長はそれに気づいた。


「何ボッと突っ立ってるのよ。もう朝食は出来たんだからお前は三人を起こしてきなさい」

「サー・マスター」


 俺はこの場を離れた。



 さて、朝のドキドキ起床タイムである。

 女が男を起こす場合、生理現象などの兼ね合いでちょっとえっちいイベントになったりする可能性もあるわけだが、今回は逆だ。

 そこは少々残念だが、かわりに無防備な寝顔を拝められるのである。

 しかも部長の指示であるため、堂々と女子部屋に侵入できるのだ。こんなチャンス、中々ない。

 二人が寝ている部屋の前に着いた。

 テンション上がる。同時に緊張。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと中に入る。


「えっと......、どうしたんですか、巽君?」


 突き刺さる視線。

 それも二つ分。

 沙耶と美樹が俺を不審者か変質者を見るような目で見つめている。

 ピロリン、ピロリン。

 キケンデス、スミヤカニコノバヲハナレナサイ。

 脳内の警報が鳴り響く。


「うわぁぁ、話せばわかるんだぁぁ」


 俺は意味不明な捨てセリフと共にこの部屋から全速力で逃げ出した。


「巽センパイがまさか変態だったなんて......。そんな予感はあったけど」


 後ろから美樹の言葉がおぼろげに聞こえた。

 俺の尊厳がザックリ傷つけられた。



「そんでテメエは爆睡かよ......」


 男部屋に戻ると依然として雄二は爆睡中である。

 いびきもデカいし、よっぽど快適に寝ていらっしゃるようだ。

 この男を起こすのはちょっと大変そうだ。


「おら、テメエ起きろ!」


 だらんと伸びきった足にキックをかます。

 起きない。

 

「なに熟睡してんだよ! この!」


 二発、三発とキックを重ねる。

 ヤバい、これ楽しい。

 

 サディスティックな快楽を覚え始めた辺りでようやく雄二は目を覚ました。


「ん......。巽か、おはよう」


 雄二の起床シーン。ぶっちゃけ見たくも何ともない。

 あと少しで美樹と沙耶の起床シーンが見れたというのに、期待外れと言わざるを得ない。

「む......、足が痛むな」

「筋肉痛か、鍛え方が足りないな。それより朝飯だ。さっさと台所にこい」


 それだけ言い残して、俺は台所へと戻った。




 その後、徐々に皆が集まり朝食タイム。

 始めは女子二人からの批難の目に心がズタボロにされたが、部長の説明でなんとか誤解は解けた。

 ありがとう、部長!

 さて、一般的家庭では食事のときに家族で色々な話をしていると国民的アニメで見ていたが、俺達も同様に食事の間に話し合いがなされることとなった。

 議題はこれからのここでの身の振り方について。

 まあ話し合う前から結論は出ていたのだが。


 あの警察共をぶっ潰し、警察に捕まっているアリスの両親を解放する。


 これが唯一無二の結論であった。

 問題はその手段である。

 一居住区の警察全員を敵に回すというだけでもなかなか困難なのだが、それ以上に厄介なことがあった。

 

 それは、なんとあの警察連中は魔獣を飼いならしている、というのである。

 アリスの話によれば、警察は毎日この居住区内を魔獣と共にパトロールしているようだ。

 そうして圧倒的な武力を誇示しているのだろう。

 恐ろしいことだ。

 

 さらに、警察は現在この居住区の食料も管理しているらしい。

 毎日住民は警察本部前で一定の量の食料を受け取る、というシステムだという。

 だが配給される食料は余りにも少なく、住民はこの制度になって以来腹いっぱい食べることは出来ず、いつもひもじい思いをしている。

 勿論抗議もあったが、そうしたものはもれなく捕まり、帰って来ることは無い。

 住民は次第に諦め、この状況のなかでいかに生き残るか、ということだけを考えるようになった。

 結果、お金を稼いでもどうせ警察に吸い取られるという諦めや、食料品の不足からお店は相次いで閉鎖。

 与えられた食料でギリギリ食つなぐだけの生活になっている。

 これが現在のこの居住区の現状だ。

 それだけに、この居住区で警察を敵に回すことは、捕まるリスクがあるだけではなく、ライフラインも完全に断たれることを意味するのだ。

 あな恐ろし。

 ちなみにあの警察共が旅行者のために食料を用意するなんてことは勿論ないため、持参した食料(とアリスが受け取る食料一人分)だけで暮らしていかねばならない。

 

「うーん、どうすっかねぇ......」


 食糧事情諸々を考えれば、出来るだけ早期に、且つ警察本部攻略は出来るだけ時間をかけずに行いたいものだが、いい案はでない。

 その辺りで朝食タイムはお開きとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ