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出会い

 放送を聞いた俺達は、地図を見ながら警察本部へと向かった。

 俺達は市民ではないため、指示に従う理由は無いわけだが、刑の執行、腐敗した警察、警察本部前に集合などといったワードは俺達の興味をひいた。

 無論、興味といってもそれは不安と言っても差し支えないような良く無いものではあったが。

 

「たぶん、あそこの建物よ」


 麻子部長の先導のもと、目的の建物についた。

 そこは日本では一般的なビル。

 パトカーが少々多く止まっていることと、警官が多く集まっていることを除けばシティならよくある建物だ。

 その正面玄関の前、そこに大勢の人が集まっていた。その数およそ数百人。

 俺達も人ごみの中へと入っていく。

 視線は二人の男に向けられていた。

 一人は若い警察官、もう一人は手錠をかけられ、ボロボロの服を着て、顔中が腫れあがった男である。


「巽君、まさかこれって......」

「多分、そういうことだろうな」


 横にいた沙耶が息を呑んだ。

 その時、建物から50代くらいの小太りの男が現れた。

 その男の顔を見るとすぐに他の警官は敬礼をした。

 どうやら偉い人らしい。

 多分この居住区のトップ、本部長だろう。

 その腐敗した警察の本部長が高らかな声で宣言をする。


「隣近所の人間でここに来ていない人間はいないか。いるのに報告を怠ったら連帯責任をとらせる。身に覚えにあるものは報告するように」


 一言話しただけで分かるやばさ。

 どうやらこの町はこの男が実質支配しているようだ。

 警察のトップがこんな自由気ままなことができるようになるとは。居住区という閉鎖空間は恐ろしいものである。

 少し待って誰も名乗り出ないことを確認し、本部長は話を続ける。


「よし。ではこれより罪人、石嶺浩介の死刑を執行する。この男は生意気にも我が警察に抗議書をだし、警察庁に報告をしようとした者だ。そのような行動をすればどうなるか、貴様らも目に刻んでおけ」


 この展開は読めていた。が、まさか本当にこの日本でそんなことが起こるとは。

 そしてこの居住区の末期感を示しているのは周りの人間の無表情さである。

 少し右にいた少女にはこれから起こることに対する怯えがあった。目が潤み、声を必死に押し殺しているようだ。子供にはこのように人間らしい感情をもっている者は何人かいたのだ。

 しかし大人たちはみな一様に無表情なのである。

 罪状からして明らかに理不尽なことが起きようとしているのに怒りも憎しみも見られない。

 無気力な目で刑が執行されるのを虚ろに見ているのである。

 

 罪人とされる男の隣にいた警官がゆっくりと拳銃を抜いた。

 

「皆、全力で目を逸らせ。あと声を挙げないようにな」


 沙耶と美樹が俺の服の袖を掴んだ。

 両手に華の状態だ。

 普段なら舞い上がるところだが、そんな状況では無い。

 警官が拳銃を罪人の頭に向ける。


 パァン。

 よくある発砲音。

 真っ赤な液体が噴出。

 両袖を握る力が強まるのを感じる。

 右側から小さく悲鳴があがった。

 右袖を掴んでいる美樹を見ると、美樹も右の誰かを見ているようだ。

 その視線の先には、慌てて口を手でふさいでいる少女がいた。

 しかし警察側もそれを見逃さない。

 その少女に警官が歩み寄ってくる。


「君、今悲鳴をあげたよね。何かなそれは、反抗的な態度だねぇ。ちょっと署まで来てもらおうか」

 

 なかなか凄いこじつけと共に、警官は少女を連行しようとしている。

 よく見ると年齢は10歳前後、服装も顔立ちも整っているがどこか質素、悪く言えば暗めな雰囲気だ。

 子供なら溌剌としていてほしい、という大人の願望には応えられないような子だ。

 だからといって、周りの大人たちはその少女を助ける気が無いこの現状はちょっと酷すぎやしないか。


 雄二がアイコンタクトで、「ここは俺に任せておけ」と伝えて、そのまま警官のもとに歩いていこうとする。

 俺は、「止まれ、俺に任せろ」と伝える。

 雄二は「何故だ」と目で訴えかけてくる。

 アイコンタクトでここまで会話できる俺達は正直凄いと思う。

 俺は、「お前に任せるとバトルが始まるから」と伝え、警官のもとへと歩き出した。


 

「こんにちは、腐敗した権力の狗に付き従う哀れなお猿さん。その少女を自宅にでも連れ込んで心行くまで遊ぶおつもりですか?」


 なるべく丁寧な口調で爽やかな挨拶。これが初対面の人と上手くやっていく秘訣だ。

 前にいる警官は困惑の表情を浮かべていた。

 まあ人見知りのコミュ障さんなのだろう。

 向こうの緊張が収まるまで暖かく見守ってやろうではないか。

 やがて警官は戸惑いながらも口を開いた。


「何だね君は。何やら失礼な言葉で散々な罵倒を受けた気がするが、一旦それはおいておこう。この少女をどうするか、と聞いたのか。この少女は我々に反抗的な態度をとった。だから逮捕する、それだけだが文句はあるかね」


 正確に言えばこの少女をどうする気かとは聞いた覚えがないのだが、まあいいや。

 見ると少女は潤んだ目でこちらを見て、いつの間にやら袖を掴んでいる。

 実に庇護欲をそそる少女だ。

 安心しろ、お兄さんが守ってやるぞ的なスマイルを見せた後、警官の方に向き直った。


「いえいえ文句など滅相も無い。実に職務熱心な態度、大変結構だと思っております」


 警官は少し誇らしげな表情を見せた。


「ただこの娘、メアリーは親戚でして、私がよく叱っておきますから、この場は勘弁していただけませんか」

「メアリー? この娘は日本人ではないか」

「最近流行りのキラキラネームとやらです」


 嘘です。突如メアリーと名付けられた少女は戸惑っていたが、先程までの悲壮感は薄まっていた。

 しかし警官は厳しい。


「ふん、貴様が親戚かは知らんが、そのようなことは認められん。大人しく娘を引き渡せ。さもないとお前も逮捕する」


 まあ予想は出来ていた。

 ここで交渉は次のフェイズへと移行する。

 俺は警官の目の前に移動し、耳元に囁きかけた。


「ここで見逃していただけたら、これをあなたにプレゼントしますよ」


 警官にだけ見えるよう、札を30枚手元で広げた。

 勿論全て諭吉先生。すなわち30万である。

 警官はそれを見て目を丸くし、考え込み始めた。

 行ける、そう確信した俺は、更なる攻勢を仕掛け始めた。


「ほら、早く決めないと金額が減っちゃいますよ。時は金なりです。30、29、28......」


 カウントダウンとともに一枚ずつお札をポケットに戻していく。

 警官が決断したのは、カウントが24になったところでだ。


「仕方ない、ここは勘弁してやろう。だがこの娘はしっかりしつけておけ。次は無いぞ」


 警官は俺の手から24万をひったくり、他の人にばれないように慎重にポケットに忍ばせながらこの場を去った。

 

「ありがとうございます」


 少女は俺に深々と頭を下げた。

 

「気にすんな。困っている人を助けるのはヒーローの定めだからな」


 少女は頭をあげると、ニコッと笑った。

 少し前まで抱いていた暗い雰囲気を跳ね飛ばすかのような満面の笑み。

 24万円でこの笑顔を買ったと思えば安いものだ。


「ヒーローか。良い言葉だ」


 振り返ると、雄二達四人もこちらに歩み寄ってきていた。


「そうね。番組名はヤマブキ戦隊ワイロジャーとかどうかしら」

 

 ばれてた。

 まあいい。ワイロの力だろうが武力だろうが人助けは人助けだ。

 横で少女が、この人たち誰? と首を傾げていた。


「そうだな、まずは自己紹介をしようか。俺は神河巽。それであの人は......」


 一通り自己紹介が終わるころには、少女もすっかり俺達の緩い雰囲気に打ち解けていた。

 

「それじゃあ私たちの自己紹介も終わったし、お姉ちゃんの名前も教えてほしいな」


 美樹はかがんで、少女の目線に合わせながら聞いた。

 こういう細やかな配慮を自然とするあたり、美樹は子供好きのようだ。

 

「私は南アリス。よろしくね」


 キラキラネームという線は間違っていなかったようだ。

 アリスに俺達は旅行者で家が無いことを話すと、彼女は目を輝かせた。


「なら私の家で一緒に暮らしましょ!」


 渡りに船だ。

 俺達はアリスの先導に従い、彼女の家へと向かった。

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