現代VS異世界、開戦
神河巽。 職業は高校生。どこにでもいる一般ピーポーだった俺の毎日は、ある日を境に急変した。
よくある夏の一日、インターネット上で全世界に向け、とある動画がアップされた。
その動画には、日本のよくあるビル街を、それには不釣り合いな大きな獣、ライオンの頭に山羊の胴体、毒蛇の尻尾といういわゆるキマイラが数体闊歩している姿が映されていた。
通行人もその異様な獣に気付き、スマホで写真を撮り始める。いつしかそこに大量の通行人が集まり、ちょっとしたイベントのようになっていた。
十分に人が集まったことを確認して、獣たちは狩りの時間へと移った。
そこからはもうめちゃくちゃだった。
悲鳴。血。ひちぎぎられた人体。泣き声。
数分して静まり返った都市に、誰かの声が響く。
「我は異世界の王。これよりこの世界との戦争を始める」
映像はそこで途絶えた。
この動画がアップされるや否や、日本の各地で魔獣の写真や人の死体がSNS上で報告されることになった。
かくして、この世界は異世界からの侵攻を受けることになった。
「巽センパーイ、ここの問題の答え教えてほしいんですけど~」
だというのに、俺は変わらずに部室で後輩である霧島美樹に宿題を教えている。
「まったく。美樹よ。世界は今混迷の時代を迎えているというのに宿題などとは。危機感が足りて無いのではないかね」
「え~。確かに魔獣とか出てきて大変ですけど、自衛隊とか警察とか、アメリカから軍が来て頑張ってるじゃないですか。そういうのはプロに任せておきましょうよ」
これぞザ・平和ボケだ。9条効果と呼ばれるものだ。まったく嘆かわしい。9条バリアも魔獣から命を守ってはくれないというのに。
「全く、これだからゆとりは。なっていないな」
「センパイも一つしか歳が変わらないんですからゆとり仲間ですよ~。それより宿題教えてくださいよ~。まさか分からないんですか」
「いやいやまさか。分からないわけなど......」
美樹が指さす宿題の問題文を見る。
数学だ。
数式いっぱい。見知らぬ記号もある。
なんだこれは。
暗号か。
「センパイ、やっぱり解けなかったですか」
美樹が残念そうな顔をする。
いかん。これは先輩としての威厳に関わる。
もう一度問題文を見る。
相変わらず暗号だった。
「......こんなもの、社会の役になど、たたん」
「うわぁ。センパイ突然どうしましたか」
「俺達は現実を見るべきだ。社会の役にたつこと、即ち魔獣問題について学ぶべきだ。そうは思わないかね、霧島君!」
「この人現実から目を反らし始めたよ......」
「こんな状況なのに、相変わらず騒がしいわね。さすがだわ」
そんなこんなで騒いでるところに、この部の部長、伊吹麻子が 現れる。
「あ、部長。お疲れ様です。ちょっとここの問題教えてほしいんですけど~」
美樹は麻子部長のところに行ってしまった。
まだ話の途中だというのにけしからんことだ。まあいいか。
「そういえば部長。雄二と沙耶から何か連絡きてません?」
氷川雄二と支倉沙耶。
このサバイバル部、通称駄弁り部の残る二人の部員だ。
「ああ、あの二人なら今日は休むって」
麻子部長は美樹の宿題をサラサラ解きながら答えた。
さすが部長。あの問題をあっさり解くなんて。
「連絡あったってことは無事なんですね。それならよかった」
ともかくも今日はこの三人で全部らしい。
少々賑やかさには欠けるが、たまにはいいか。
この日も夕方までとりとめのないことを話し、解散した。
「今日も一日疲れたな~っと」
帰り道の途中、コンビニで夜飯を買って家の近くの公園に向かう。
どうせ家には誰もいないのだ。最近は公園で夜飯を食べるのがマイブームだ。
「やっぱり今日も誰もいないか」
無人の公園につく。すっかり日も暮れていた。
ベンチに腰を下ろす。
見上げると、満点の星空が広がっていた。
今日は満月。最高の夜空だ。
「キレイだなー。こんな日は狼人間でも現れるかもな」
言ってみてから、この世の中では冗談にならないことに気づいた。
ありえないような魔獣もたくさん出ているようだし、その内本当にでるかも、いやむしろ既に出ている可能性だってある。
「ほんと大変なことになっちゃったな~」
コンビニ袋から弁当を取り出そうとしたところで、ふと前を見ると何かいた。
「えっ......」
思わず声を出してしまった。
目と目が合う。
そいつは犬だった。
訂正。ただの犬ではない。
今話題の魔獣。
いわば魔犬。
そいつと一対一になっていた。




