変態とは紳士である。
変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態という名の紳士だよ
――綱渡高校の変態紳士
欲望というものは基本的にどんな時代でも忌避される傾向にある。
貪欲、色欲などいわゆる「7つの大罪」にも欲の文字が入るし、実際欲望のままに行動する人物がいたとしたらそいつは確実に「悪人」だろう。
ただ、それは「欲望」=「悪」という方程式を成り立たせるものではないと、そう思わないか?
人間であるなら、多少の欲は確実に存在するし、その欲というものは人間が生きていくのに必要不可欠なものだろう。
そんな大切なものを汚点として敵視し続けるのはどうなのだろうか?
ただし、欲望に忠実なのが許されるといっても、獣ののように暴力でそれを表現したのでは、それこそ「最悪」の事態になるだろう。
重要なのは欲望がいかに強力な力で、それだけに身を任せてはいけないということ。
かつ自分の欲で自分を滅ぼすことがないよう、欲に対して冷静であること。
それと同時に欲を持っていることに恥を感じないこと。
それを実践できれば何も怖くなくなるだろう。
事実それは自分が歩んできた道のりとたどり着いた境地。
それが、自分が変態紳士をなのる理由だ。
というわけで自分、大谷 清正は現在進行形でわれらが綱渡高校生徒会長である錦 憩による叱責および凍り付くような視線をたしなんでいるのである。
「どうしてこんなところに呼ばれているか、わかってるわよね?」
「はい、もちろんです。ただ、お言葉ですが女生徒の上履き盗難事件は一切自分とは関係ありません!」
「・・・・・・まあ、私はあんたが犯人だとは思ってないんだけどね。よくあるいじめだと思うし。でも昔私の上履き盗んだことあったでしょ。あんたが学校の中でも有名な変態ってこともあるし、もしかしたらって思って」
「変態とはなんとありがとうございます、おっと失敬言い間違えました。失礼な!そこら辺の節度は適度にわきまえていますよ、私は。紳士ですからね。あなたのを盗んだのは多少の事情があってのことで個人の欲望とは多少関係ありませんよ?」
「うん、今自分でよくこんな奴と15年近く友人でいられたなと自分に感心している。まああんたにもいろいろあるってことで、ここはあんたの『紳士道』とやらに免じて不問にしといてあげましょう。その代り、いつも通りよろしくね?それじゃ、解散!」
しっしっと憩は自分を追い払うと黒色の長髪をひるがえし、自分の机へと戻っていった。
才色兼備、容姿端麗。
とまではいかないがみんなの理想の生徒会長になりうるだけのスペックは持っている。
綱渡り高校自慢の生徒会長にして頼れる幼馴染、それが憩だ。
とある事情があって、友人という壁を超えることは自分はもちろんどんなイケメンにも不可能のだが、それでも自分風情と友好関係を持ってくれるあたり相当の人格者、人気があるのもうなずける。
整った、可愛いというよりは美しいに分類される顔。
すらりとした四肢に流れるような曲線美。
「で、主に胸部が完璧な流線型の委員長殿。いつもどおり、とは今回も自分が問題解決に向かえということで?」
「そういうことよ。今回は相当厄介な問題だから引き受けてくれるなら私の胸に関して何か言ったことについて先生に報告しないで上げるわ」
「いやいや褒め言葉ですって。それで、今回報酬としてほしいものがありまして」
「なに?いつものジュース一本じゃなくて?私にできることで私に損にならない事であればいいわよ。もちろん一般常識の範囲内でね」
やや怪訝そうな顔をする憩に、ポケットから同好会の新設に関する書類を手渡すと
「却下」
「即答ですか。なんでだめなんです?素晴らしいじゃないですか、紳士同盟」
「こんな怪しげな団体まず学校が許さないでしょう!なに?この活動内容の『崇高なる意思に基づく各種創作活動』って」
「わかりやすく言うと同人誌の製作ですね」
「却下」
無情にも憩は自分が頑張って書き上げた書類をシュレッダーにかけると、自分を生徒会室から締め出した。