異変の始まり
同日、白鳳県警本部。
「・・・・あ、はい、了解です。」
白鳳県警特別捜査部電網一課の課長である民野耀蔵は、電話を切った後、呟いた。
「は!?市長との面会が長引くだと?舐めてんのか!!」
「どうしたんですか?」
部下の質問に対して、答えた。
「あの、きまぐれ袖木市長の付き合いで、向こうから予約してきた面会を、ドタキャンしやがってきた!生意気な教育め!」
短気な民野課長に対し、部下の浅田が冷静な口調で言った。
「松下さんの事ですか?恐らく、春風祐樹の監視で忙しいのだと思われます。」
「春風祐樹なんて、あんなチンピラ、こっちが本気になれば、いつでも、引っ張ってくれるんだ!!大体なあ、教育局のやれることって、春風の娘をストーカーする程度の事じゃねえか!」
「まあ、お気持ちはわかりますが、落ち着いて・・・・」
教育局が、児童たちの携帯をハッキングしていることを言っているのだろう。美少女で有名な春風樹依莉がどこにいるのか、についても、常時監視しているという。
教職員達の行為とはいえ、本来なら『個人情報保護法』違反で捕まっても、おかしくない行為だ。
民野のところへ、面会の予約が入っていた。
松下教育長である。
しかし、いきなり、「市長と会う予定がある」というメールで、ドタキャンしてきた。
彼は、いつもこんな感じなのだ。自分を含め、父と息子と、親子三代続きでの東大出身のためか、思い上がった態度ばかり取る。警察の特捜部内では、「いつか、松下を捕まえてやろうかな?」と、冗談交じりで、みんな言っているものだ。
だが、そんな訳にはいかないのには、理由がある。
松下の父は、法務省の大物OBなのだ。これは、迂闊には手を出せない。
検事長に、人権擁護局長も務めた、大物なのだ。
松下の今の「仕事」は、教育行政でも何でもなく、自分のかわいい孫を、東大に行かせることであるという。馬鹿らしい話だ。
普段は、生徒のストーカーをしているだけに、余計、腹が立つ。
そういえば、教育局が一生懸命、春風家はいろいろと謎の多い家だ。
樹依莉は、父親にも母親にも似ていない。
その理由は、警察も知らない。恐らく、教育局も握ってはいないだろう。
ただ、警察も、春風家の特殊事情については、ちゃんと、握っている。
そんなことを考えていると、いきなり、携帯電話が鳴った。
慌てて、発信者を見ながら、民野は言った。
「どうしたんだ、カズキ!急ぎのようでもあるのか?」