宇宙人
宇宙都市群では、お祭りの準備が急ピッチで進められていた。
『祝 地球複製 150周年!!』
地球が複製されてから、今年でちょうど150年。
毎年、複製祭りが行われているが、今年はさらに盛大に行われる。
宇宙の運び屋 としては、かきいれどき時がやってくる。
150年前、地球は大規模な『copy』で複製された。
すべての人類は、宇宙ステーションに一時避難したうえでだ。
避難するだけで5年の歳月がかかったという。
そして、特大の『copy』が行われた。
「第二の地球」には、海も陸も草木も雲も山も、
地球が持つ全てのものがある。
ただひとつ、南極に落ちた異星人の宇宙船だけが無い。
それだけは『copy』出来なかったのだ。
祭りの空気で浮かれるショッピングモールを一人で歩く。
気の早い店では、もう150周年記念商品の売り出しが始まっていた。
あちらこちらで「宇宙人」の姿をデフォルメした看板が立ち並ぶ。
宇宙人の『コマンド』のおかげで、地球人類は発展できた。
その感謝の意味も兼ねて、ということなのだろう。
しかし、俺はあの変な夢のせいか、何かが喉に絡むような不快な気分がする。
「お兄ちゃん、そんなに眉間にしわを寄せてると、
すぐに、お爺ちゃんになっちゃうぞ~」
何処へ行くと無しに歩いていると、
白と青のロリータ服を着た、10歳くらいの少女に呼び止められた。
「そんな顔してたかな」
眉間をなでてみると、ちゃんと皺の跡がある。
「お祭りは楽しまなきゃね」
少女は「150」と書かれた、黄色と赤の大きなキャンデーを頬張っている。
首元には、ストラップにかけた古臭い携帯情報端末がぶら下がっている。
その端末には、手書きの白い字で「3.1」という数字が書かれているのが見えた。
「お兄ちゃん、宇宙人って知ってる?」
少女は、祭りの看板を指さして尋ねる。
「知ってるよ。コマンドを作った人だろ?」
「うん。宇宙人にはね、頭が三角形のノーブルがいて、
他の宇宙人たちをこき使ってたんだって~」
確かに、宇宙人の看板の中には頭が三角形のものがいる。
少女は、そのまま、何処かへ走って行ってしまった。
宇宙人。
『コマンド』を身近に使いながら、人類は宇宙人についてほとんど知らない。
確かに、あの少女が言うように、宇宙人には複数の種族が居た。
作りが全く異なった宇宙服が見つかっているのがその証拠。
もちろん、お祭りの看板の宇宙人も、何種類かが描かれている。
我々地球人類のように社会全体単一種族というわけではなかったようだ。
ネットには、宇宙服の写真と、そこから想像された宇宙人の絵が描かれている。
その中には、頭が三角形の種族が居た。
ほかにも、マグロに手足をつけたような種族、タコのような種族もいる。
「宇宙人にはね、頭が三角形のノーブルがいて、他の宇宙人たちをこき使ってたんだって」
あの少女の言葉を思い出す。
心なしか、写真に写った三角形の種族の宇宙服は、高級そうに見える。
関節と思われる部分の作りでなんとなく判断できる。
地球人の宇宙服でも、高価なオーダーメイドの宇宙服と、
安物のコピー品ではそのあたりに違いがある。
宇宙人にも貧富の差があるんだな と思いつつ、改めて宇宙服を見比べる。
おかしい。
幾つか写真があるが、三角頭種族の宇宙服は全てが「高級品」。
サイズもまちまちで、オーダーメイドとしか思えない。
一方で、他の種族の宇宙服は、全てが「安物」
種族ごとの違いはあるものの、同じサイズのコピー品。
貧富の差ではなく、三角頭が貴族として、他の種族をこき使っていたのは本当なのか。
異星人の宇宙船には、壊れていはいたが、何百もの冷凍睡眠装置があった。
奴隷を管理するのに冷凍睡眠は格好だ。
普段は寝かせておき、必要になったら、起こせばいい……。
でも、「こき使う」と言っても、どのようにこき使えるのだろう?
掃除?洗濯?今の地球文明でさえ、ほば全自動になっているのだ。
もっと文明の進んで、多種のコマンドを操る異星人なら、そんな必要も無いだろう。
ふと、昨夜視たサイトの情報を思い出した。ずっと昔の、賢者の石の伝説。
不老不死に憧れる王は、国民を殺害し、その血と肉で「賢者の石」を作った。
背筋に寒気が走る。めまいがして立っていられない。
倒れこむように、近くのベンチに座り込む。
通りがかったカップルが俺のことを気味悪げに見て、遠ざかっていく。
しかし、殺害するといっても、殺害すれば賢者の石は作れるのか?
それに、血と肉なんて『copy』でいくらでも増やせるし、
そもそも、『copy』で賢者の石を増やせばいいじゃないか。
一瞬、周囲から音が消えたような気がした。
宇宙人の宇宙船は、『copy』出来なかった……
とすると、賢者の石も出来ないのではないか。
じゃあ、どうやって作り出す?
血と肉を『copy』で増やして、他のコマンドで変換していたのか。
いや、『copy』そのものが、本当は対象の血と肉を複製し、
「賢者の石」に変換するのが使い道じゃないのか。
賢者の石に変換できない場合、複製された物体だけが残る。
もし、自分が三角頭の種族なら。
コマンドを使うために、いつも「賢者の石」を持ち歩くだろう。
だが、何らかの理由で手持ちを使い切ったり、無くした時を想定したらどうするだろう?
きっと、非常用として、最低限『copy』に使う分くらいは別に確保しておく。
あとは、奴隷を保存している冷凍睡眠施設までの移動用に『move』の分も別にとっておくだろう。
それ以上は、奴隷から改めて作り出せばいい……
そう考えると、例の「エルレート財団」がコマ部隊からの逃走時、
『move』でなく『copy』を使った理由がわかる。
長距離『move』用の賢者の石が足りなくなったんで、
自分たちを『copy』して作れないか、チャレンジしたんだろうな。
でも、地球人類をいくら『copy』しても、賢者の石が作れなかった。
当然、肉体の組成がぜんぜん違うもんな。
だから、複製された血肉が「賢者の石」化に失敗して変な形で残っちゃったか。
傍目に見たら、完全にヤバイ殺人現場。
マグロ宇宙人やタコ宇宙人を思い浮かべる。
ちょっと美味しそうなところのある、彼らの血肉が賢者の石なのか。
そして、その賢者の石を使って、食料が『copy』されて、人々の食卓に並ぶ。
俺は日本人だから「マグロとタコのダシかぁ」で済むが、西洋人にはキツイもんがありそうだな。
三角頭も、自分や自分の同族の血肉が材料の賢者の石を使うのは精神的にキツかろう。
だから、(美味しそうな?)異種族から作ってたんだろうなぁ。
確かに内緒にしとかないと、社会的にやばそうだ。
なんか、ほっとしたら、タコ焼きが食いたくなってきた。
日本人だなぁ。