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Cの強襲 下

宇宙空間を切り裂いて、小型の宇宙船と高速巡洋艦が追いかけっこを行っている。


宇宙船の識別番号を偽装した というだけで犯罪。

制止を振り切って逃げだしたという事との合わせ技で、捕まったら牢獄行き。

識別番号が誤魔化せている以上、タクヤが「頑張って逃げ切り」を選択するのに、

それほどの時間はかからなかった。

彼にとって幸いなことに、隕石群が近くに来ている。

タクヤの操縦する小型船は、なんとか隕石群までたどり着き、中に逃げ込んだ。

クシャトリヤの方が船体が大きいため、小回りの利く小型船は、

隕石群の中で、徐々に距離を開けていく。



■小型船、操縦席

2隻の間に、音声のみの回線が再度開く。

「久しぶりだね、リナックス。居るのは解ってるんだ。

さっさと投降してくれないか?ハードウェアの差は歴然としているよ」

さっきの事務的な通信とは違った、幼い男の子の声で通信が繋がる。

「あなた、誰?」

「バカにしているのか?リナックス。僕は、セントだ」

リナックスは、リナの本名。

「で、せんとくんが何の用ですか~?」

「船を止めて土下座しろ」

「ヤダ」

「くくく、そんな強がりもここまでだよ」

一方的に回線が切れる。

「知り合いか?」タクヤがリナに尋ねる。

「う~ん、思い出せないんだけど、何故かムカつく」

「あぁ、ウマが合わないってやつか。あるある」



■巡洋艦クシャトリヤ ブリッジ

国連宇宙治安維持軍、制御命令(コマンド)管理部隊所属、高速巡洋艦クシャトリヤ。


クシャトリヤのブリッジでは、十数人の乗組員が忙しく立ち働いている。

ブリッジを見渡す一段高い位置に、初老の船長と若い副官、

そして軍艦には不似合いな、頭を丸坊主にした少年の3人が居る。

副官は、必死になって攻撃命令を下すが、

クシャトリヤのレーザー砲もミサイルも、小型船をとらえる前に隕石にあたってしまう。

時折、ブリッジが揺れるのは、隕石をかすめたからだ。

徐々に彼我の距離が開いていく。

「ははは。君たち、まるでついていけてないねぇ」

少年が、周りの大人たちをあざけるように笑う。


武器としての制御命令(コマンド)。それは、最凶の兵器と化す。

どんなに巨大で堅牢な艦船であっても、ブリッジやエンジンに爆発物を『move』されると一撃で沈む。

乗組員たちは、制御命令(コマンド)の違法使用を取り締まることを役職としている。

制御命令(コマンド)にさらされる覚悟を持って任務に就いているエリート集団。

厳しい訓練をやり遂げた、選ばれし精鋭。


だが、そんな彼らの追跡をものともせず、目標の小型船は隕石群に逃げ込み、

小型であるが故の機動性を生かして、隕石の合間を巧妙にすりぬけ、逃げ切る。

隕石群の通過というのは、ゲームや映画といったエンターテイメントではよくあるシチュエーションだが、実地では行われない。

軍隊は物量で包囲するのが基本姿勢であって、

無駄に損害を出すことは行わないからだ。

クシャトリヤの操縦士はその点、上手くやっている部類に入るだろう。


「さぁて、君の無能な部下たちには任せておけないね」

せんとは、あざけるように、声を枯らす副官をつきとばす。

突き飛ばされた副官は、拳を固く握りしめ、せんとを睨みつける。


「攻撃やめやめ、君たちの腕じゃエネルギーの浪費だよ」

ぱたぱたと軽く手を振り、せんとは攻撃命令を解除。

そして、祈るように宙に手をかざし、制御命令(コマンド)を唱える。

『install 雷槍鳥(サンダーバード)

制御命令(コマンド)が、ブリッジの空気を重苦しく変える。

この船に宿った力が、否応なしに船を変質させていく。


「さて、ここからが本番だよ、リナックス」

せんとが手をかざすと、巡洋艦の前方に黄色い球体が現れる。

そこから光り輝く鳥が孵化する。

鳥は一瞬で超高速に加速し、ミサイルやレーザーで破壊できなかった、

巨大隕石を軽々と貫通、破壊していく。

あまりの速さに残像が残り、レーザー光のように見える。

そのレーザーは、追いかけている小型船の横をかすめ、虚空に消えて行った。

「これは、挨拶代りさ。さぁて、どんどん行こうか」



■小型船 操縦席

宇宙船をかすめて、黄色く、巨大な光の柱が宇宙を貫いていく。

今までのクシャトリヤの攻撃とは桁違いの破壊力だ。

「おい、リナ!なんだあれは?」

雷槍鳥(サンダーバード)ね。でも大丈夫、あっちの手は読めてる」

リナがコンソールに手をかざすと、

ディスプレイに次弾の予測軌道、予測到達時刻がどんどん表示されていく。

タクヤは、半信半疑でそれに従う。

光の柱は、何本も連射されるが、その軌跡は小型船をかすりもしない。

レーダーに表示されたクシャトリヤの反応が、徐々に遠ざかっていく。

「これなら、逃げられるかな?」



■巡洋艦クシャトリヤ ブリッジ

初老の船長が船長席からゆっくりと立ち上がり、せんとの隣に立つ。

その顔に刻まれた皺は、彼が歴戦の勇士であることを示す。

「苦戦されているようですな。せんと殿」

「うるさいな!」

かすりもしない雷槍鳥(サンダーバード)を、何本も連射し、

息切れをさせながら、せんとは叫ぶ。

「もう少し右を狙われては如何ですか?」

せんとは、しぶしぶパートナーである船長の意見に従い、雷槍鳥(サンダーバード)の照準位置を変えて発射する。

雷槍鳥(サンダーバード)は小型船をかすめ、わずかながらダメージを与える

「やった!さすが、僕のパートナー」

「チェスと同じで、お互いの手の内の読みあいです。

この手の事は、私は慣れていますからな」



■小型船 操縦席

まだ直撃は無いものの、徐々に雷槍鳥(サンダーバード)がかするようになっている。

一時はレーダーから外れそうなあたりまで稼いだ両船の距離が徐々に縮まっていく。

「なんか、急に狙いが正確になってきたぞ」

「向こうのパートナーが介入してきたみたいね。困ったなぁ」

腕を組んで考え込むリナ。


「ねぇ、どうしてあの時、逃げなかったの?」

「逃げてるだろ。現在進行形で」

「船を捨てて出てこい って言われたとき」

「あぁ、何でだろうな。勢いってやつかな」

「そう。ありがと……。覚悟が決まった。反撃行くよ!」

リナは、両頬をバシバシとたたき、気合を入れる。

そのまま宙に手を伸ばし、制御命令(コマンド)を唱える。

「これは、重いわよ。ちゃんと逃げてね。せんとくん

『install 煉獄鳥(インフェルノ・イーグル)』!」



■巡洋艦クシャトリヤ ブリッジ

船長が髭をなでながらディスプレイを注視する。

彼の戦術では、次の手で「詰み」。

長かった戦闘が終わり、強敵が消滅する。

微かな余韻に浸りながら、最後の手を指示する。

「さて、チェックメイト。

あのパイロット、うちの船に欲しかったですな」

船長が指したディスプレイの一点。

その指示に従い、せんとが雷槍鳥(サンダーバード)を放つ。

複数の巨大隕石で作られた牢獄の中心を、強烈な光が打ち抜く。

光は、狙い違わず、隕石をかわした小型船に直撃した。



しかし、雷槍鳥(サンダーバード)の光が消えた後も、小型船は宇宙を駆け続ける。



「『remove』で消した のか?」

「目標のエネルギー量が急激に増大しています!」

船長の自問が消えないうちに、オペレーターが絶叫する。

小型船から、赤い球体が放出される。

それはあっという間に巨大化し、小さな恒星と化す。

そして恒星の形が歪み、クシャトリヤの3倍ほどの大きさの、

炎に包まれた灼熱の鷲が孵化した。


「あれはIE(インフェルノ・イーグル)!なぜ、ゴドウィンの力を使える!?」

せんとは、ありえない事象に、混乱し、呆然とする。

「緊急回避。天底方面へ離脱しろ!

せんと殿、『remove』で障害物の除去を」

歴戦の船長はぶれることなく、冷静に退避命令を下す。

「何故、何故なんだ!」

だが、せんとは目前の事象にとらわれ、制御命令(コマンド)を使用できない。

「ちっ、多少の被害はやむを得ん!

バリア最大、ブースターが焼き切れるまで、噴射し続けろ!」

船長の命令に応えて、ブリッジの乗組員が動き出す。


灼熱の鷲は、ゆっくりと羽ばたく。

周囲の隕石が急速に溶解し、蒸発していく。

鷲はクシャトリヤを一瞥すると、追尾を始めた。

「来るなぁぁ!」

せんとが雷槍鳥(サンダーバード)を連射する。

宇宙では「重さ」は大きな力となる。

雷の属性を持ち、高速で飛ぶ雷槍鳥(サンダーバード)は、その性質上、軽い。

煉獄鳥(インフェルノ・イーグル)の桁違いの重さの前に、雷槍鳥(サンダーバード)は無様に霧散していく。


きっかり1分後、煉獄鳥(インフェルノ・イーグル)は消えた。


たった1分間の追いかけっこで、クシャトリヤの艦体は、航行不能になるほどの致命的なダメージを負った。

ブリッジには、オペレーターの悲鳴がこだまする。

「船底AからHまでの8ブロック、沈黙。連絡が取れません」

「推進機関、稼働効率が8%まで低下」

「船頂ブロック、外壁が完全に融解。温度計が振りきれています」


「維持できなかったか、消したか、何れにせよ、奴らの勝ちだ。

リナックスがゴドウィンの力を使える というだけでも、

貴重な情報になる。帰還するぞ」

船長は頭を抱えてわななくセントを一瞥すると、帰還命令を出す。


■小型船 操縦席

「もうついて来てないよな」

「ふ~ つかれたぁ」

「リナ、お前が挑発するから悪いんだろ」

「タクヤが逃げ出すからでしょ~」



属性を設定した従者を作り出す制御命令(コマンド) 『install』

次回「双方の幕間」


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