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Cの強襲 上

第二の地球(セカンド・アース)」の静止衛星軌道にある宇宙都市群。

建造物は『copy』でいくらでも増やせる。

そのせいで、良くも悪くも宇宙都市の外装は画一的な球体をしている。

遠くから見ると、宇宙都市群はまるでブドウ畑。

同じ大きさの球形がいくつも並んで、房のようにぶら下がっている。

中心を通るのは太陽光発電の電力供給や通信等のインフラライン。

ひとつひとつの球形が、それぞれ数万人の活動を想定して設計されている。

外見こそ画一的だが、中身は巨大なマンションや、オフィス街、ショッピングモール等用途に応じて千差万別。

ここ静止衛星軌道は、地表からの距離が数万キロ。

地球圏の『move』ネットワークの範囲内なので、地表から訪れる人でにぎわう。


ブドウの一番下の球体に、宇宙船の総合ドックがある。

プロはこういう所でも手を抜かない。

自動操縦頼みにせず、俺は手動で縦列駐船を成功させた。

誤差10センチ未満!会心の出来栄えだ。

「わ~い、何を買おうかなぁ」

誰にも見られていなかった。


管制センターに連絡し、積荷を郵便公社所有のステーションに移送してもらう。

運送中の「手紙」の運送料として、いくばくかの報酬を受け取った。


現在の懐具合。

・繰越     20万通貨

・謎の男の報酬 300万通貨

・郵便公社報酬 3万通貨

ちなみに、宇宙船(中古)代 1万通貨

 (但し、登記料10万通貨)



■数時間前のこと。

「リナ。お前、これからどうするんだ?」

「あたし?この船と一緒に居るよ」

「いや、親とか心配してるだろ」

「親?う~ん、強いて言えばこの船が親かなぁ」

「言ってる意味がよくわからんのだが……」

「こういうこと」

リナはひとつ深呼吸してから、目をつぶる。

何故か、操縦室の灯りがひとつずつ消えていく。

ありえないことだが、非常灯まで消えた。

いつも操縦室を流れている、風を感じなくなる。

空気循環システムまで止まったようだ。

船内は暗闇と無音。窓から見える星の光だけが、唯一の灯り。

自分の呼吸音だけがうるさいほどに聞える。


リナが目を開けると、灯りがつき、全てが元の操縦室に戻った。

「あたしは、この船の深くまで寄生してる。

あたしが居なくなれば、この船は動かないし、

この船が動かなくなれば、あたしも消える」


腕を組んで考える。

うーん、はっきり言えば、わからん。

わからんが、公務員は大嫌いだ ということが俺の持論。

さらに嫌いな、警察官と話すなんてことは、まっぴらごめんだ。

何れにせよ、リナは「向こう側」の地球出身だろうから、

次の仕事で向こうに行ったら考えるか。

カネはあるから小娘を数日養ってもお釣りがくる。

曰くありげな金は、パーっと使うに限る。


「まぁ、いいか。ちょっと買い物があるから、

ショッピングモールによるぞ」

「え!?服とか買ってくれるの?」

「まぁ、しょうが無いだろ。俺の服じゃ着れないだろ」

第一、そんなに枚数持ってないし という言葉を飲み込む。

「何を買おうかなぁ」

早速、ネットを立ち上げて物色するあたり、普通の女子高生にしか見えない。



無人の搬送タクシーに乗って、駐船場の中心部を目指す。

中心部でタクシーを降りると、目の前で『move』BOXの扉が閉まる所だった。

「待ってくれ~、乗ります」

リナの手を掴んで、強引に閉じかけている扉を押し開け、BOXに乗りこんだ。

「おやおや、元気なお二人さんですな」

「はは、ありがとうございます」

BOXの中では、背広をぴしっと着こなした、初老の男性が「開」ボタンを押して、待っていてくれた。

礼を言ってから、ショッピングモール行きのボタンを押す。


BOXの扉が閉まり、BOX内のディスプレイに、制御命令(コマンド)が表示される。

『mv ./DOG03/* ./SHOP12/』

制御命令(コマンド)『move』で、BOXは数キロの距離を移動した。

BOXの扉が開くと、そこは光に満ち溢れた空間、ショッピングモールだった。


ここのショッピングモールは若い家族連れやカップルが多く、

俺とリナが2人で歩いていても違和感は無い。

「リナ、しばらく客室に泊めてやるから、服とか必要なもん買ってこい」

手頃な金額の1枚のマネーカードをリナに渡す。

「お~。気前がいいねぇ、タクヤ。これはデートか?」

「違うよ」なんとなく頬が赤くなる。

「まぁ、いいや。流石にいろいろ付き合わせるのは悪いしね。

ちょっと、行ってくる」

リナはツインテールを上下させながら、走って行った。


あっさり振られると、それはそれで悲しいものがあるが……

こっちはこっちで買い物に行く。

パンツの換えが切れていたし、コーヒーも買い溜めておきたい。

飯も、カップラーメンは飽きた。

金なら、ある!

いくつもの店を回って、物欲衝動を満たしていく。

少し買いすぎたので、船まで宅配を頼む。

約束の時間にはまだ余裕があるが、これ以上ここにいると、

無駄なものまで買いそうだ。

早めに待ち合わせ場所まで向かうことにした。


ちょっとリッチにスタバのコーヒーを飲みながら、待ち合わせ場所で時間を潰す。

今日はいろいろな事があった。

ふと、数時間前の事を思い出す。


制御命令(コマンド)『remove』

リナは、確かにそう言った。

制御命令(コマンド)は、『copy』と『move』の2種類しか無いはずだ。

そもそも制御命令(コマンド)は、国連が厳重に管理している。

制御命令(コマンド)発動システムは、それなりに場所を取るし、

(その効果に比例しては微々たるものだが)多量の電力を消費する。

そして、核心部分はブラックボックス化されている。

魔法の呪文のようにお手軽に使えるものではない。


「おーい!タクヤ、タク坊~」

髭だらけの爺さんの呼ぶ声で、我に返った。

ちょっと薄ら暗いけど、そのぶん儲かる仕事をあっせんしてくれる、

ブローカー兼宇宙船のエンジニアのゴン爺さんだ。

「ゴン爺さん、1月ぶり、まだ生きてたのか?」

爺さんは、俺が初めて宇宙船を運転した時の乗客だ。

右も左もわからない俺に、いろいろと教えてくれた。

昔は、国連からも引き合いのあった、凄腕の技術者だったらしい。

出会ってから2年。いろいろと世話になっている。

今から思えば「腕のいい若造」のつてを増やすために

うろついていたんだろうと思う。

単に、「使いっぱしり」がほしかっただけかもしれんけど。


「お前の船、確か作業用のマニュピレーター付いてたよな。

すまねぇが、急ぎでちょいと仕事を請け負ってくんねぇか?」

「やるぞ!タクヤ」

いつの間にか現れたリナが、背後から即決した。

「タク坊、知り合いか?可愛い子だな」

「まぁ預かってるようなものだ。で、ゴン爺さん、どんな仕事だ?」


爺さんの話を纏めると、よくある「スペースデブリの排除作業」だった。

普段は専門の業者が行っているが、今回は特殊な背景がある。

現在、それなりに規模の大きな隕石群が近くに来ているらしい。

そのうちの一部が危険宙域に入るので、防護網を構築したものの、

想定以上にスペースデブリが多く、作業が進展していない。

そのため、急遽スペースデブリの排除作業を突貫で行うことになり、

人手(船手?)が不足している。


「他の人に取られると嫌だから、さっさと始めよう」

「う~ん、でも俺一人じゃ作業出来ないよ」

スペースデブリの排除には、操船とマニュピレータの操作で2人が必要になる。

誰か、ヘルプが必要だ。

「あたしがいる」

「いや、お前免許無いだろ……」

「タクヤは知らんのか?

操船には免許が居るが、マニュピレータの操作だけなら免許要らんぞ?

免許保持者の指示のもと という但し書きがあるが」

「そうそう」リナがドヤ顔でうなずく。

嵌められた感がある。

「じゃ、お爺さん、そういうことで。船にデータを送っておいてね」

「おうよ。ところで嬢ちゃん、名前を聞いて無かったな」

「リナックス。リナでいいよ」

「……、そうか、リナ嬢ちゃん、よろしくな。

おい、タクヤ。最近船のメンテしてねぇだろ。

この仕事が終わったらちょっと寄れ。無理言ったからサービスで見てやるよ」

「お、ありがてぇ」

宇宙船のメンテナンスは結構手間暇がかかる。

新品にしてしまった方が値段的には安いのでやってくれるドッグがあまり無いのだ。

俺の船は、ゴン爺さんに「ちょこっと」改造してもらっているところもあるし、

愛着もあるので、これからも使っていきたい。

「よ~し、船に戻るぞタクヤ!」

リナに引っ張られるようにして、俺は引きずられていった。


爺さんから送られたデータに従って、デブリ排除作業に赴く。

大本の雇い主は、国連の宇宙治安維持軍。

俺の船の数十倍はあるようなどでかい戦艦と、10倍くらいの大きさの高速巡洋艦が出動している。

艦の色やマークから見て、戦艦は普通部隊、高速巡洋艦は制御命令(コマンド)管理部隊所属のようだ。

制御命令(コマンド)管理部隊所属は、エリート部隊。

そして、船乗り泣かせでも知られている。

いきなり臨検されてパンツの中まで検査されたというのは船乗り仲間では有名な話。


まぁ、その辺の元請けの話は、下っ端の俺たちには関係ない。

直接的な雇い主は、デブリ回収を生業にしている、個人商店スズモト工業。

「スズモトさ~ん、手伝いにきましたよ~」

スズモトさんちの宇宙船に通信を入れる。

「タクちゃん、助かるわぁ。じゃ、ここの領域のデブリを回収して。

報酬は質量の出来高払いね。今は、いつもの2割増し!」

「おおぅ、太っ腹」

スズモトさんの奥さん(45)の指示に従って、指定領域へと向かう。

仕事は、いわゆる「ゴミ拾い」と同じ。

宇宙船にくっつけた「ネット」に、えっちらおっちらマニュピレータでゴミを入れていき、集めた質量で報酬が決まる。


150年前、「第二の地球(セカンド・アース)」が複製されたとき、

地表と衛星軌道を結ぶ「軌道エレベータ」が『copy』領域に全て入りきらず、

途中で寸断された。

大半は、複製されたばかりの無人の地球に落下したが、

一部が宇宙に流れ出し、スペースデブリとして今も周回を続ける。


目的地に到着。

監視役の国連軍(せんせい)は、遥か遠く。

気楽に作業ができるのがうれしい。

目の前には、ぽつぽつとゴミが落ちている空間が広がる。

「よ~し、ゴミ集めするか」

『rm ./X01Y00Z00/*』

一瞬で目の前の宙域のゴミが全部無くなった。

「あたしにかかれば、朝飯前ね」

髪の毛をかきあげながら、リナがポーズを決める。

「リナぁ、持って帰ったゴミの量で報酬が決まるんだよぉ」

「え、そうなの?」

しょうがないから、違う場所を掃除するか。手ぶらじゃ帰れない。

そう思って、奥の方へ移動を始める。

しばらく移動したとき、異変が起こった。


進行方向の星の光が歪曲し、空間がねじれていく。

「何か、来る!」

『sed -e "s/BXCDRTUW/AHOMANUKE/g" me 』

リナが叫び、咄嗟に何かの制御命令(コマンド)を使用する。


何も無かった空間から、唐突に巨大な宇宙船が現れた。

国連宇宙治安維持軍、制御命令(コマンド)管理部隊所属、高速巡洋艦クシャトリヤ。

通常の国連軍は艦体はブルーで塗られ、「UN」の文字が書かれている。

しかし、制御命令(コマンド)管理部隊のみ、グリーンで塗られている。


目の前のグリーンの巡洋艦から、音声のみの通信が繋がる。

「そこの、識別番号AHOMANUKEの宇宙船、即座に船体を放棄して投降しなさい。

動きが無い場合、100秒後に破壊します」

クシャトリヤの砲塔が動き、こちらに照準をあわせる。

あの制御命令(コマンド)は、偽装工作用なのかぁ。

いろいろあるもんだな と、こんな状態でありながら感心してしまった。

慌てて操縦席から立ち上がる。

こいつらは悪名高い制御命令(コマンド)管理部隊だ。何をしてくるか解らない。

慌てて立ちあがったせいか、バランスを崩し、服の裾がスロットルに引っかかる。

船は全速力で加速をはじめた。

ご丁寧に、ゴン爺さんの試作品「ロケットスターター」(違法改造)まで起動し、

異常なまでの加速で、クシャトリヤの前から俺たちは逃げ出した。

クシャトリヤの砲撃が、船を掠めて宇宙に消えていく。


あれ、犯罪者、確定?


偽装を行う制御命令(コマンド) 『sed』

次回「Cの強襲 下」

SFならではの、宇宙空間戦闘

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