表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

8

 放課後。悠祐は校内をぶらぶらと歩いていた。

 当てがないわけではない。

 ただ、確信があるわけでもない。


 あの侵入者が消えた後。悠祐を追って扉の前に来た啓太には侵入者の正体を伝えた。

 そしてその侵入者につながる手掛かりを、悠祐は探している。

 

 今いるのは一年生の教室。

 まだ入学して一週間経つか経たないかという頃。

 部活も授業も本格的に始まっていないため、教室の中は閑散としている。

 黒板にはうっすらと「入学おめでとう!」の文字や色とりどりの花やメッセージを書いた跡が残っていた。

 

 そんな教室を、一つ一つ見て回る。

 数人が残っている教室もあったが、彼が探している人物は見当たらなかった。



 最後の教室を覗く。


 誰も、いなかった。


 開いた窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる。

 悠祐ははぁ、と息をつくと来た道を戻ろうと廊下を振り返った。


 そこに。


「あ……」


 声を発したのは自分か相手か。


 そこには髪を揺らしながら立つ、彼女がいた。





 先に声を発したのはどちらが先だろう。


 彼女は目の前に立つ男子生徒を見つめる。

 

 私の方が少し早かったかもしれない。

 いや、向こうかな?

 やっぱり同時かも。


 そんなどうでもいいことがぐるぐると頭の中を駆け巡った。


 彼を、知っている。

 風に揺れる色素の薄い髪に、

 彼が纏う雰囲気に、

 彼女は覚えがあった。


「この間は、ありがとうございました」


 何よりもまず伝えたかった。

 彼女と彼女の妹を、あのキラキラした世界に導いてくれた人。

 妹の分まで感謝を込めて、頭を下げる。


「いや、俺がしたくてしたことだから……頭上げてくれ」


 彼が慌てたように言ったけれど、彼女は頭を下げたまま床を見つめる。

 きゅっきゅっと上靴が音を立て、彼が近づくのがわかった。


「顔上げて。ここ廊下の真ん中だしさ。それに俺、聞きたいことがあるんだよ」


 はっとして彼女が顔を上げると、彼は困ったようにはにかんでいた。


「すみません……」


 彼は俯く彼女の頭をポンポンと撫でると、ついてくるように言って歩きだす。


 彼女が頬を赤く染めていることにも気付かずに。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ