8
放課後。悠祐は校内をぶらぶらと歩いていた。
当てがないわけではない。
ただ、確信があるわけでもない。
あの侵入者が消えた後。悠祐を追って扉の前に来た啓太には侵入者の正体を伝えた。
そしてその侵入者につながる手掛かりを、悠祐は探している。
今いるのは一年生の教室。
まだ入学して一週間経つか経たないかという頃。
部活も授業も本格的に始まっていないため、教室の中は閑散としている。
黒板にはうっすらと「入学おめでとう!」の文字や色とりどりの花やメッセージを書いた跡が残っていた。
そんな教室を、一つ一つ見て回る。
数人が残っている教室もあったが、彼が探している人物は見当たらなかった。
最後の教室を覗く。
誰も、いなかった。
開いた窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる。
悠祐ははぁ、と息をつくと来た道を戻ろうと廊下を振り返った。
そこに。
「あ……」
声を発したのは自分か相手か。
そこには髪を揺らしながら立つ、彼女がいた。
先に声を発したのはどちらが先だろう。
彼女は目の前に立つ男子生徒を見つめる。
私の方が少し早かったかもしれない。
いや、向こうかな?
やっぱり同時かも。
そんなどうでもいいことがぐるぐると頭の中を駆け巡った。
彼を、知っている。
風に揺れる色素の薄い髪に、
彼が纏う雰囲気に、
彼女は覚えがあった。
「この間は、ありがとうございました」
何よりもまず伝えたかった。
彼女と彼女の妹を、あのキラキラした世界に導いてくれた人。
妹の分まで感謝を込めて、頭を下げる。
「いや、俺がしたくてしたことだから……頭上げてくれ」
彼が慌てたように言ったけれど、彼女は頭を下げたまま床を見つめる。
きゅっきゅっと上靴が音を立て、彼が近づくのがわかった。
「顔上げて。ここ廊下の真ん中だしさ。それに俺、聞きたいことがあるんだよ」
はっとして彼女が顔を上げると、彼は困ったようにはにかんでいた。
「すみません……」
彼は俯く彼女の頭をポンポンと撫でると、ついてくるように言って歩きだす。
彼女が頬を赤く染めていることにも気付かずに。