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「璉、大丈夫か?」
声に反応して璉は瞼を開ける。ぼんやりとした光と、淳也の顔が目に飛び込んできた。徐々に焦点が合ってくると、淳也の後ろに板張りの天井が見えた。
「私……あ、扉が……」
「今、葛城達が行ってる。あいつも行ってるから大丈夫だろ。それより体の方はどうなんだ?」
淳也の眼には心配の色が揺れている。
「ん……大丈夫。さっきは体が痛みがないのに引き裂かれるみたいな変な感じがしてたけど、今は消えてるみたい。ゆーすけくん達がうまくやってくれたんだね。良かったぁ」
璉はほっと溜息をつく。安心したのかゆるりと眠気が押し寄せてきた。
「淳也、今日はありがとう。隔離してくれて助かった……もうちょっと、寝る…ね……」
最後は寝息に変わっていた。
規則正しく紡がれるそれを聞きながら、淳也もふーっと息を吐く。
璉があそこまでダメージを受けながら、気付くのが遅れた自分に腹が立っていた。璉が目覚めて一安心、といったところだが、璉を守るという自分の役目を果たせていない。
「ここに連れてきただけだ……」
璉を寝かせてある布団の側から淳也は立ちあがった。辺りには畳の青い匂いがほのかに漂っている。そして、部屋の障子を音を立てずに開けた。
そこには、広々として池が広がっていた。正しくは、庭園の中にある池なのだが、淳也の場所から庭園全体を見ることはできない。
巨大な岩と岩の間から清水が流れ、滝となり、庭を流れる小川に変わっていく。
ある時は庭に茂る木々を映し、ある時は丹色の橋の下を流れ、そして大きな池を作る。
その池の中の島に、淳也達のいる家屋が建てられていた。
通称「秋の宮」。
陸地と繋がる橋のない、文字通り離れ小島。
池に面した縁側に出て、淳也は外を眺める。
池の中にはいくつかの小島が見えた。
それぞれに建物が建っている。淳也は、それが見せかけであり、池を渡ったとしてもたどり着けない異空間であることを知っていた。
視線を池の中央へ移す。そこにも小さな島が浮かんでいる。
紅葉の大木が見事に色づき、静かに佇んでいた。
そよそよと風に揺れて紅い葉が舞う。
淳也は目を閉じて、秋香る風を感じる。
しばらくそうしてから、淳也は目を開いた。
「終わった、か」
「ああ」
隣には啓太の姿がある。
どうやって入ったのかとか、いつからいたのかとか、淳也はそういったことを今更聞く気にもなれなかった。
「璉、起こしてくるわ」
淳也はそう言うと、先ほどの部屋へ踵を返した。