5
悠祐は道を走っていた。
闇を背に煌めく大小様々な光の球。その中を通る、一本の青い道。
誰であっても、扉にたどりつくためには通らねばならない道。
道を駆けるその脳裏には、心の目を通してみた先ほどの扉の傷がよぎる。
正確には扉自身には傷はないが……。
それにしても、紅架はなにをやっているのか。
危険があるなら真っ先に来て確かめるのが筋だろうに。
悠祐は苛立たしさとはやる気持ちを抑えながら道を駆け抜けた。
そして、扉の前に辿り着く。
ぽっかりと開けた空間に佇む大きな扉。
それ自体は淡く光を放っており、その前にある台座が逆光で暗く映る。
その台座の横に、人影が見えた。
悠祐は人影を見つけるや否や、自身に与えられた力を解放する。
一瞬でその人物の側に移動すると、その勢いを利用して強烈な回し蹴りを放った。
人影は蹴りを受けて飛ばされ、扉から離れた所に落ちる。
「さっきから何してくれてんだよ。どっか行きたいからって、錠は壊しちゃダメだろー」
悠祐は蹴りの余韻を残したまま人影に話しかける。その表情は声とは裏腹に冷たい。
蹴りを放った足をゆっくりと下ろすと、その人影へと歩を進めた。
「俺はさ、扉に害なす全ての者に対して容赦できないの。そんなことしたら俺死んじゃうし。だから、いきなり蹴っ飛ばしたからって怒らないでくれると嬉しいなー」
ダメージを受けながらも起き上がろうとする人影の前で立ち止まると、その姿を上から見下ろす。
「そもそも、人んちに入る時は、ノックなりチャイム押すなり挨拶するなり何かあるだろ普通。ここまで来れたのは褒めるけどさ、いきなり錠壊そうとするとか何、泥棒ごっこ?いや、むしろ本業?いったいどういう神経してんのさー……?」
その人影の顔を覗き込んだ悠祐は息をのんだ。
「何でこんな所に……」
見知った顔。つい、この間会ったばかりの人。
その人は悠祐を通り越した後ろ、扉を見つめ、起き上がろうとあがいている。
「ここで、何してるんですか……?あなたがいるべき場所じゃないでしょ?」
そう問いかけた悠祐に人影はちらりと視線を向けるが、すぐに扉へと戻してしまう。
「……質問に答えてください!なんで、こんな所に……あ」
悠祐が動こうとした相手を押さえようと手を伸ばすと、その手は容易に宙を掻く。
「消えた……」
何もない空間で、伸ばした手を握りしめる。
「なんで……」
驚きと疑問とがないまぜにになったまま、悠祐はその場に立ちつくすのだった。