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「誰かが道にいる?」
私立紅架高校の一角。
休み時間の喧噪を避け、人通りの少ない廊下の壁にもたれかかる金髪にピアスの男子生徒は眉をひそめた。整った顔が険しくなる。
目の前には茶色く髪を染めた女生徒と、頭に手を当ててため息を吐く短髪黒髪の男子生徒。
「さっきから怜華がうるさいんだよ。もう、ほんとどうにかしてくれ」
「だってピキピキするんだもん!あたしの防御センサーが危険危険って言ってるから淳兄に言ってるのに、そんな言い方ないじゃない!」
淳兄と呼ばれた生徒は、はぁとため息をつくと金髪の生徒にこっそり耳打ちをした。
「さっきまで『あたしの頭が割れる!ピギャーー!』って言ってたんだぜ。ほんと変態扱いしないだけましだよな」
「聞こえてるんですけど!」
こそこそ話す淳也の頭をガシッと掴んだのは、般若の形相をした怜華である。
「まあ落ち着け、葉山。それで、どんな奴だ?」
二人のやり取りを呆れた面持ちで眺めていた男子生徒は零架を宥めながら問いかけた。
「それが分かんないんですよ。道守のこのあたしが、あの道にいる誰かを把握できないなんて異常事態としか思えないわけで。だから鍵守の葛城先輩に相談しようと思って」
「そうか…」
金髪の生徒、葛城啓太は腕を組み心を落ち着けると、目を閉じる。脳裏に三人が「道」と呼ぶ空間を思い浮かべた。
闇の中に無数に煌めく光。そこに青白く光る筋が浮かぶ。それは、道だった。
意識体の啓太はそこへ降り立つと、その道をたどっていく。道は緩やかに曲がっているが、前後十メートルほどしか見渡すことはできない。そして、ある時開けた場所に出る。円状の広場とも呼べる場所。
そこには、大きな大きな白い扉がそびえていた。
扉はぼんやりと光を放っている。その前に足のついたグラスのような形をした台があるが、逆光でそれは真っ黒に見える。啓太はそれが、本当は扉と同じく真っ白であることを知っていた。
啓太は辺り気配を探り始めた。人の気配はしたが、それは残り香の様に儚い。
そして扉を注意深く見る。扉にかかる白い錠と鍵穴も含めて、目立った異常は見つからなかった。
目を開くと啓太の様子を窺っていた怜華を見る。
「今、まだ反応してるか?」
怜華は一瞬間をおくとふるふると頭を振る。
「葛城先輩が入ったと同時くらいにどんどん小さくなって、今はもう消えてます。なんだったんだろ…」
「俺も残り香は感じたが、何も見当たらなかった。扉に異常はなさそうだけどな。迷い子、か?だが葉山が感知できないのも気になる。一応池田と…あいつにも確認しとくか」
怜華と、そして淳也も神妙な顔をして頷いた。