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「絢利に二階席で気づいて、声かけようと思ったんだ。だけど葛城と一緒だっただろ?僕、あいつ苦手で。どうしようかと思ったら絢莉一人で外に出ていくのが見えたから、追いかけたんだけど、その、泣いるみたいで中々声かけられなかった」


絢莉は真治と教室へ向かいながら、ごめん、と謝られた。

本当はそっとしておいた方が良かったのはわかってるけど、絢莉に気づいていながら声をかけずにはいられなかったと。


「ううん、いいんです。気が紛れるし。えっと、まーく、いや千葉君?あれ、先輩?は私のこと、よくわかりましたね。あの頃とはだいぶ変わったと思うんですけど」


久々の幼馴染にどう話していいのか戸惑いながら、絢莉は言葉を選ぶ。


「いや、昔通りまーくんでいいよ。俺から見たら絢莉は全然変わってない。あの頃と同じ可愛い女の子」

「え……」


先輩にまーくんとは呼べないと思っていた絢莉だが、可愛いと言われ言葉に詰まった。


「そんなに驚いた顔しないで。例え絢莉がすっごいギャルになってても見分ける自信あるから」


真治が微笑みながらさらに追い打ちをかける。

恥ずかしくなってうつむきながら、絢莉は脳裏に浮かぶ幼い記憶をたぐりよせた。

そういえば、あの頃もそうだった。

男子と遊ぶとからかわれる小学生時代。

近所で二人で遊んでいたら、通りがかった同級生に「お前ら付き合ってるんだろ!」とやはりからかわれた。それは翌日クラス中に広まって絢莉は皆から囃された。その噂を聞いたまーくんがやってきてこう言ったのだ。


『絢莉は僕の大切な幼馴染の女の子だよ。君たちはいないの?そういう人。そうやって揚げ足をとって人をからかって、自分が異性と話す照れ隠しにするの、やめたほうがいいよ』


と。今思えば小学生が言うには大人すぎる発言で同級生たちも理解できていたのか未だにわからないが、元々の落ち着いた雰囲気と一つ年上という条件が相まって同級生たちはみな口を閉ざした。ちなみに絢莉はまーくんの言っていることが最初以外さっぱりわからず、ぽかんとその様子を眺めていた。

その後はからかわれることはなかったが、クラスメイトの中で付き合ってるとかではなく婚約者扱いになってしまい、さらに絢莉に手を出すと上級生にしめられると学年の噂になってしまった。

もちろん、男子たちは絢莉と接触するのを嫌がった。

真治が転校するまでそれは続き、絢莉にとって気まずい小学校生活の思い出となったのだ。


「真治先輩も…昔から変わりませんね。恥ずかしいことを平気でさらっと言うのも」

「だからまーくんでいいのに。思ったことは口にしないと伝わらないんだよ、絢莉」

「いや、先輩にまーくんはちょっと……。なので間をとって真治先輩にしてみたんですけど」

「仕方ないなぁ。じゃあ、しばらくはそれで我慢するよ」


少しふてくされた表情の真治に昔の面影を見出して、思わず笑みが漏れる。


「やっと、笑ったね」


はっとして真治を見上げる。

彼は、柔らかく微笑んでいた。

その微笑みに思わずドキリとして、再びうつむく。

さっきまで悠祐のことばかり考えていたのに、今は真治と話して、こんな風にドキリとしている自分に戸惑う。


「絢莉は、山波のことが好きなの?」


一瞬で頭が冷えた。

さっきまでそのことばかり考えていた。

今は……。


「わかり、ません」


いや、本当は違う。

好きで。

側にいたくて。

けれど、自分にはあの女の子たちを超えるだけの器量も自信もない。

負けたのだ。

彼女たちではなく、自分自身に。


「違うでしょ。好きで仕方がないって顔に書いてある。絢莉は昔から思ってることがすぐに顔に出るからね」


でも、と真治は続ける。


「山波はやめたほうがいい。絶対に絢莉が傷つく」


その言葉に、絢莉は恐る恐る顔を上げた。そこには先ほどと打って変わって真剣な表情があった。

あまりの真剣さに、恐れさえも感じる。


「絢莉は僕の花だから、傷ついてほしくないんだ」


そう言って、立ち止まる。

気づけばもう絢莉の教室の前だった。

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