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体育館の入口へ入ると、そこはロビーになっており、ひんやりと涼しい空気が満ちていた。
体育館内でも部活が行われているのか、人のざわめきが遠くに聞こえる。
「あの、葛城先輩……?」
先を歩く啓太に、絢莉は戸惑いの色を隠せない。
敷地が広いだけあって、体育館自体もロビーだけでテニスコートくらいはありそうである。
その真ん中を突っ切って、啓太は二階席へ続く階段を上り始めた。
「ごめんね、こんなとこまで連れてきちゃってさ。もうちょっとだから、ついてきて」
啓太は苦笑いしながら階段を上り、その先にある扉を開けた。
かすかに聞こえていた喧騒が、突然身近になったような、特有の感覚。
「ここが目的地だよ、神月ちゃん。ほら、あそこ」
啓太が指差した先には、紺と白のユニフォームを着た男子生徒達が走っていた。バスケットボールの試合が行われているようだ。
「バスケ……?あっ!」
絢莉は里佳子が言っていたことを今更になって思い出した。
悠祐はバスケ部のエースだと言っていた。ということは、この会場にいるはずである。
その時、一際大きな歓声が上がる。
「山内先ぱーい!」
「山内ー!」
「いけー!!」
その歓声に混ざる名前に、絢莉は反応してコートを見る。
そこにはドリブルで相手をかわしていく、白のユニフォームを着た悠祐がいた。
色素の薄い髪が流れて、そこから目が離せなくて思わず絢莉は見入る。
一度味方にパスしたと思ったら、次の瞬間には悠祐が再びボールを持っていて、あっという間にボールがゴールへ吸い込まれた。
それと同時に割れそうな歓声が会場に響く。
「すごい……!すごい、あんなに相手がいっぱいいるのに!どうしてあんな簡単に入っちゃうの?どうしてですか!」
思わず興奮して、絢莉は啓太に詰め寄った。
「ちょ、神月ちゃん落ち着いて。あれ、そんなに簡単なことじゃないから。そう見えるだけで。悠祐がエースってそういうことなんだよ。それに、うちの学校バスケは強豪らしいから、他の奴らもうまいし」
絢莉は興奮を抑えようと深呼吸をする。
「私、私こんなにすごいの初めて見ました!うちの中学はバスケ部人気なくてあんまり強くなかったみたいだから……ほんと、体育の時にやってるの見てるくらいで。先輩、すごい人だったんだ……」
その時、ピリオドの終了を告げるアラームが鳴り響いた。
次の瞬間、女子生徒の黄色い声が幾重にも重なった。
「悠祐先輩!すごいです!」
「応援してます!」
「山内先ぱーい!」
絢莉はその声援に圧倒されて、しばらく呆然とする。
そして気が付いた。
普通の学校よりも広い二階席の割に人の密度が高いことに。
そして大半は女子が占めていることに。
「先輩、人気者なんですね……」
ぼんやりとした頭で口をついて出たのは、状況的に当たり前の一言だった。
「いや、悠祐っていうよりバスケ部自体が人気だからな。アピール強いのは悠祐んとこのファンが多そうだけど。それに今日は他校との練習試合でいつも以上に人が多いしって神月ちゃん?!」
啓太の慌てた様子に絢莉はハッとする。
頬を生暖かいものが流れていた。
「す、すみません!ちょっと顔、洗ってきます!」
そう言って踵を返そうとしたとき、目の端にこちらを見上げる悠祐が映った。チームメンバーと椅子に座り談笑しながら視線は二階席に向いている。
思わず足を止めて向き直った。
その目は誰かを探しているようだが、絢莉にはまだ気づいていないようだった。
探しているのが自分かもしれないと少し嬉しくなって口角が上がるが、悠祐が二階席を見上げたことで大きくなった歓声に、そんなわけがないと首を振る。
歓声を上げた女の子はみな、絢莉よりも可愛くてきれいな人たちばかりだった。
いたたまれなくなって、絢莉は再度踵を返す。
その後を慌てた啓太が追いかけてきたが、トイレに行くからと無理やり押しとどめて扉を閉めた。




