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15

 風が窓から吹き込み、カーテンを揺らす。

 時折垣間見える太陽の光が、教室を細く照らしていた。

 

「それにしても、先輩は噂とはちょっと違う感じですね」


 それまで弾丸のように喋り続けていた里佳子が、一息つくと興味津々と言った様子で啓太に問いかけた。

 ん?と顔を上げた啓太の髪が太陽に反射する。


「その、金髪は噂どおりですけど……」

「なに、俺噂ではどんな感じなわけ?」


 里佳子はうーん、と悩む仕草を見せながら、隣で無表情にお弁当を食べている友人へ視線を送る。


「いや、なんて言うか……ね、恵子」

「ちょっ……ゴホッ、急に私に振らないでよ!ゴホッゴホッ」


 恵子は「びっくりして変なとこ入っちゃったじゃない!」と言いながらしばらくむせ込むと、口元を引き攣らせ里佳子を見る。


「私は嫌だからね」

「えー、まだ何も言ってないのにー」

「何年の付き合いだと思ってんの!私に言わせる気満々でしょ!」

「ばれてらぁ……ちぇっ」

「『ちぇっ』てキャラじゃないでしょ、あんた……」


 里佳子に呆れ顔を向けながら、恵子はため息をつく。


「待って、俺そんなに噂になってんの?ってかどんな噂になってる訳?すっげー気になるんだけど」


 啓太はその二人の様子を見ながら、自分の頬が引き攣るのを感じていた。 


「じゃあ、先輩。心して聞いてくださいね」


 里佳子が啓太に向き直る。


「お、おう」


 啓太も心持ち姿勢を正す。


「その前に、一つだけ約束してください」


 里佳子が人差し指をすっと伸ばす。


「もし、今から聞く話が先輩の気を悪くしたとしても、絶対に、ぜーったいに、私たちを恨まないでくださいね」


「え……」


「絶対ですからねっ!」


「は、はい」


 里佳子の剣幕に押されて、啓太は首を縦に振る。


「じゃあ、言いますよ。先輩は噂では……」

「うわさ、では……?」



「『超』がつくほどの不良です」



「……は?」



「だから、触らぬ神には祟り無し的なアレですよ。先輩は見た目的にもガッツリ不良ですし、今はこうして笑ってお話してくださってますけど、眼力強いからまぁ、皆色々誤解しちゃうんじゃないですか?(睨まれると実際怖そうですし。)あと、そうですね。近隣校のヤンキーの頂点に立ってる(むしろ恐れられてる)とか、喧嘩で負けたことない(どんな手を使っても)とか、裏で黒い人たちと繋がってるとか繋がってないとか」


 一気に捲し立てた里佳子は、はっとして口元を押さえる。


「里佳子……カッコの中まで言わなくていいから……」


 隣で恵子が頭を抱えた。


「うわ、やだ、あたしってばつい!すみません、思ったことがうっかり口から滑ってました!」


「いや……色々と真実が知れたからいいよ……」


 啓太は机に突っ伏して答える。


「先輩、完全ダメージ受けてるじゃないですか」


「もう、ほっといてくれ……」


「あ、でもでも、そんな噂も流れながら、本当はすっごく優しいって誰かが言ってましたよ」


「ほんとか?!」


 机で8の字を書いていた啓太は、ガバッと起き上がる。心なしか目が輝いていた。


「か、かわいい……」


 思わず里佳子は呟いた。幸運なことに啓太までは届かない。

 恵子はその様子が何かにそっくりだと頭の中で考えを巡らす。


「いや、俺優しいとか言われたことないからすっげー嬉しい!」


「あ」


「なんだ?」


「いえ、なんでもありません」


 思わず声を上げた恵子に啓太は視線を移すが、恵子が首を横に振るのを確認すると再び里佳子へ視線を戻した。


「先輩は優しいですよ!あたし、噂はやっぱ噂だなって思いましたもん」

「そっかぁ」

 

 里佳子とにこにこと話す啓太の横顔を見ながら、恵子は確信していた。



 あれだ。


 ご近所のポチがご主人に褒められた時にそっくりだ。

 ごはん前の待てもあんなキラキラした瞳をしていた気がする。



 気のせいか、耳と尻尾が見えた気がした。



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