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風が窓から吹き込み、カーテンを揺らす。
時折垣間見える太陽の光が、教室を細く照らしていた。
「それにしても、先輩は噂とはちょっと違う感じですね」
それまで弾丸のように喋り続けていた里佳子が、一息つくと興味津々と言った様子で啓太に問いかけた。
ん?と顔を上げた啓太の髪が太陽に反射する。
「その、金髪は噂どおりですけど……」
「なに、俺噂ではどんな感じなわけ?」
里佳子はうーん、と悩む仕草を見せながら、隣で無表情にお弁当を食べている友人へ視線を送る。
「いや、なんて言うか……ね、恵子」
「ちょっ……ゴホッ、急に私に振らないでよ!ゴホッゴホッ」
恵子は「びっくりして変なとこ入っちゃったじゃない!」と言いながらしばらくむせ込むと、口元を引き攣らせ里佳子を見る。
「私は嫌だからね」
「えー、まだ何も言ってないのにー」
「何年の付き合いだと思ってんの!私に言わせる気満々でしょ!」
「ばれてらぁ……ちぇっ」
「『ちぇっ』てキャラじゃないでしょ、あんた……」
里佳子に呆れ顔を向けながら、恵子はため息をつく。
「待って、俺そんなに噂になってんの?ってかどんな噂になってる訳?すっげー気になるんだけど」
啓太はその二人の様子を見ながら、自分の頬が引き攣るのを感じていた。
「じゃあ、先輩。心して聞いてくださいね」
里佳子が啓太に向き直る。
「お、おう」
啓太も心持ち姿勢を正す。
「その前に、一つだけ約束してください」
里佳子が人差し指をすっと伸ばす。
「もし、今から聞く話が先輩の気を悪くしたとしても、絶対に、ぜーったいに、私たちを恨まないでくださいね」
「え……」
「絶対ですからねっ!」
「は、はい」
里佳子の剣幕に押されて、啓太は首を縦に振る。
「じゃあ、言いますよ。先輩は噂では……」
「うわさ、では……?」
「『超』がつくほどの不良です」
「……は?」
「だから、触らぬ神には祟り無し的なアレですよ。先輩は見た目的にもガッツリ不良ですし、今はこうして笑ってお話してくださってますけど、眼力強いからまぁ、皆色々誤解しちゃうんじゃないですか?(睨まれると実際怖そうですし。)あと、そうですね。近隣校のヤンキーの頂点に立ってる(むしろ恐れられてる)とか、喧嘩で負けたことない(どんな手を使っても)とか、裏で黒い人たちと繋がってるとか繋がってないとか」
一気に捲し立てた里佳子は、はっとして口元を押さえる。
「里佳子……カッコの中まで言わなくていいから……」
隣で恵子が頭を抱えた。
「うわ、やだ、あたしってばつい!すみません、思ったことがうっかり口から滑ってました!」
「いや……色々と真実が知れたからいいよ……」
啓太は机に突っ伏して答える。
「先輩、完全ダメージ受けてるじゃないですか」
「もう、ほっといてくれ……」
「あ、でもでも、そんな噂も流れながら、本当はすっごく優しいって誰かが言ってましたよ」
「ほんとか?!」
机で8の字を書いていた啓太は、ガバッと起き上がる。心なしか目が輝いていた。
「か、かわいい……」
思わず里佳子は呟いた。幸運なことに啓太までは届かない。
恵子はその様子が何かにそっくりだと頭の中で考えを巡らす。
「いや、俺優しいとか言われたことないからすっげー嬉しい!」
「あ」
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
思わず声を上げた恵子に啓太は視線を移すが、恵子が首を横に振るのを確認すると再び里佳子へ視線を戻した。
「先輩は優しいですよ!あたし、噂はやっぱ噂だなって思いましたもん」
「そっかぁ」
里佳子とにこにこと話す啓太の横顔を見ながら、恵子は確信していた。
あれだ。
ご近所のポチがご主人に褒められた時にそっくりだ。
ごはん前の待てもあんなキラキラした瞳をしていた気がする。
気のせいか、耳と尻尾が見えた気がした。




