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 校舎裏、日陰になった場所はやはりまだ肌寒い。

 人気のないその場所に、二人は立っていた。


「あの、先輩……?」


 絢理をここに連れてきた悠祐は、絢理に背を向け立ち止まったままだ。

 その手はまだ絢理の腕を握っている。


「神月」


 やっと悠祐が声を発する。緊張感が絢理にも伝わった。


「は、はい」


 緊張が増して少し裏返る声。絢理が恥ずかしさに下を向いた瞬間、腕を引かれ地面に引き倒された。



 突然のことに声も出ず目を見開く。



 その視線の先にはしゃがみ込んで後ろを振り返る悠祐の姿。


「悪い、巻き込んだ」


 その顔は今にも舌打ちしそうなほど険しかった。





「葛城先輩!」


 悠祐と絢理が去った教室は、今起きたことに興奮する生徒達のざわめきで満たされていた。

 その筆頭とも言えるのが、目の前で絢理を連れ去られた里佳子である。


「ちょ、ちょっとどういうことですか!まさか、これがあの脈ありってやつですか?!このまま二人で駆け落ちなんてことにはならないですよね?!」

「里佳子、落ち着いて」


 色んな過程をすっ飛ばした里佳子が啓太に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。

 それを押さえる友人がどうどう、と里佳子をいなす。


「脈ありなのか、駆け落ちなのかは帰ってきたら彼女に聞いたらいいよ。ところでさ、俺、ここで飯食ってもいい?腹減ってんだよねー」


 そう言うと、啓太は手に持った弁当箱を掲げる。

 里佳子が絢理の弁当を素早く片付けたのは言うまでもない。





 ザクッと土に物が刺さる音がする。


 それは悠祐に抱きしめられて地面を転がった絢理のすぐ側で鳴った音だった。

 恐る恐る横を見ると、鈍く光る刃物が刺さっている。


「ひっ…!」


 のどの奥で空気が音を立てる。

 それが悲鳴にならないのは、彼に叫ぶな、と言われたから。


「ったく、今度はどこのどいつだよ」


 呟きながら悠祐は絢理を抱きしめたまま再び転がった。

 その後を追うようにナイフが一列に並ぶ。



「あー……もう、限界。目、閉じて」



 それは、絢理にしか聞こえない声で。

 絢理の目を見ながら言った悠祐は、この状況にそぐわない、ほんの少しの色気を含んでいて。

 思わず、目を閉じた。


「いい子だ。待ってて」


 体の上から重みと温もりがなくなる。

 無防備になったようで、少し寂しく感じた。

 けれど、繋がれた手が安心感を与えてくれる。


 その後聞こえたのは風の音と、パチン、という指鳴りの音だけだった。



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