表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

10

「それで先輩、私を探してたみたいですけど……」


 悠祐は緩んでいた頬を引き締める。


「そうそう、聞きたいことがあったんだよ。あのさ、神月……おまえの母さん、今どうしてる?」


「母、ですか?」

 絢理は首をかしげる。


「母がどうかしましたか?」


「いや、なんて言うか……最近体調崩してるとか、そんなことないか?」


 悠祐の問いに、絢理は瞳を揺らすと曖昧に笑った。


「……よく、わかりましたね。やっぱり先輩は不思議な人ですね」


「じゃあ……」


「母は、妹が亡くなってから、体調を崩して。妹と同じあの病院に、いま入院してます」


 やっぱりか、と悠祐は思う。あの扉の前。脳裏に浮かぶ顔は、確かにあの母親のものだった。


「すみません……ほんとは誰にも言うつもりなかったんですけど……」


「いや、言ってくれてありがとう。俺こそごめんな。辛いこと言わせて……」


「いえ……」



 二人は黙りこむと、広いグラウンドを眺める。

 雲は朱く染まり、少し紫が混じり始めていた。



「あのさ、こんなこと言って信じてもらえるかわかんねーけど……」


 悠祐は言葉を選びながらポツリポツリ話し始める。


「あの扉の前でさ……おまえの母さんに、会った。顔色が悪くて、今にも消えそうだった。っていうか、精神体だったから消えちまったんだけどさ……」


「母が、あの扉の前に……?」

「ああ」

「そう、ですか……」


 絢理は視線を下に落とすと、考え込むように目を伏せた。

 膝の上で組まれた手は心なしか震えているように見える。


 早春の冷たい夕風が二人の髪を揺らし、彼女はふと目を開ける。


「先輩。きっと先輩が会ったのは、母だと思います。母は妹が亡くなってからふさぎこんで……全て自分のせいだと、責めて」


 絢理の手に力が籠もり、関節が白く浮く。


「今入院しているのも、意識がないからなんです。お医者さんは目が覚めない以外は異常はないって。きっと精神的なものだっておっしゃってるんですけど……」


 悠祐は絢理の声が震えているのに気が付き、顔を覗きこむが、絢理の手がそれよりも早く顔を覆う。


「私、どうしたらいいのかわからなくて。私は先輩の、あの空間のおかげで前に進もうと思えたけど、お母さんが苦しんでるのにただ側にいることしかできなくって。呼びかけても返事をしないお母さんに、どうしたらいいのか、もう」


 指と指の隙間から溢れる水滴が、絢理のスカートを濡らしていく。


 堰を切ったように、絢理の涙は止まらず流れ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ