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9

 悠祐は目的の人物を見つけ、戸惑っていた。

 まさか、本当にいるとは思わなかったからだ。

 以前会った時、紅架の制服を一目見て言い当てたから、もしかしたら……とは思っていた程度だった。


 後ろをついてくる気配に気を配りながら、関係者以外立ち入り禁止の札がかかったロープをくぐり屋上へ向かう。

 彼女は困惑しているようだったが、大丈夫だと言い聞かせて手を引いた。


 そう、あの時のように。


 屋上のドアを開けると、夕暮れの風が吹いていた。


「ちょっと上るぞ」


 入り口の横の壁に付いた梯子を上り、悠祐は手を差し出す。

 彼女も恐る恐る梯子を上り、目を丸くした。


「意外と、綺麗なんですね」


「俺がいっつも使ってるからなー。汚くなりようがない」


 そう答える悠祐に、彼女はクスクスと笑う。

 少しは緊張が解けたようだった。


「こんなとこまで連れてきて悪かったな。とりあえず、座って」

「え、でも……」

「あ、良かったらこれ使って」


 悠祐は隅に置いてある大きめの箱の中からカラフルな一人用のピクニックシートを取り出す。箱は雨にぬれても大丈夫なように、プラスチック製である。


「これ、まだ使ってないから汚れてないはず」

 あとこれは重し、と石を取り出す悠祐に、彼女は再び目を丸くした。


「あの……ここに住んでらっしゃるんですか?」


 今度は悠祐が目を丸くする番だった。


「いや……住んではないな。屋根ないし。ただ、一日に最低一回はここに来てるから、管理人的な感じ?」


 なるほど、と彼女は納得顔で頷き。


「くっ……ははは!」

「ふっ……ふふっ」


 二人で顔を見合わせて笑った。


 何でこんなことまじめに話してるんだろうな、と悠祐は笑い、彼女も笑いながら頷いて、ではお借りしますとピクニックシートの上に腰を下ろす。

 先輩もどうぞ、と勧められて、悠祐も隣へ腰を下ろした。


「いやー、悪いな。何にも考えずにここに来たから、何にも気遣えなかったわ。梯子大丈夫だったか?上るの大変だっただろ」


 彼女はいえ大丈夫です、と答える。その顔には未だに先ほどの笑みが残っていた。


「それより、自己紹介が遅れてすみません」

 彼女は悠祐に向き直ると軽く会釈をしながら言う。


「紅架高校一年E組、神月(こうづき)絢理(あやり)といいます。よろしくお願いします」


「俺こそ、ごめんな。前は名乗りもしなかった。俺は山波悠祐。二年C組だ」


 悠祐も答えるように自己紹介する。


 こうして二人は、お互いの名を知ることとなった。


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