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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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79話:市場支配

朝の市場は、以前とは別物になっていた。


石畳。

整備された排水路。

屋根付きの流通区画。


さらに、巨大な冷蔵倉庫群と接続された物流路。


荷車が止まらない。


魔物肉。

穀物。

薬草。

布。

加工素材。


全てが流れ続けている。


人が増えた。


生産が増えた。


そして今。


グロマールの村は、“市場”そのものを変え始めていた。


「価格、落ちました」


セレスが報告書を机へ置く。


中央管理棟。


既に行政庁のような規模になっている。


グロマールは資料を見る。


周辺都市の食料価格。

布価格。

保存肉価格。


全部落ちていた。


理由は単純。


供給量が違う。


さらに品質が安定している。


冷蔵倉庫。

冷凍倉庫。

通常倉庫。


保存技術が確立したことで、価格変動そのものを制御できるようになっていた。


ジミーがニヤリと笑う。


「市場支配、始まったな」


彼の前には大量の価格表。


在庫。

流通。

輸送時間。

消費量。


全て計算されている。


以前の商人は、“不足”で儲けていた。


飢えた時に高値で売る。

病の時に薬を吊り上げる。


この村は逆だった。


大量供給。


安定価格。


つまり、“暴利”そのものを潰している。


ジミーは楽しそうだった。


「食料価格、さらに落とす」


ミレナが眉をひそめる。


「利益減らない?」


「減らねぇよ」


ジミーは即答した。


「量が違う」


以前なら、一日で腐っていた肉。


今は違う。


冷凍倉庫で保存できる。


さらに狩猟班の回収効率が異常だった。


一班十人。


二十班。


各班へマジックバッグ支給。


大型魔物ですら、そのまま持ち帰れる。


さらに解体班が、牙・骨・爪・皮・角・肉・魔石へ完全分別。


無駄がない。


利益率が異常だった。


「魔石回収量も増えてる」


セレスが資料をめくる。


「冷却炉の維持コスト超え始めた」


「そりゃそうだ」


ジミーが笑う。


「魔物が全部金になる」


そこへグロマールが口を開く。


「価格はさらに逆操作する」


周囲が視線を向ける。


「塩、保存肉、布」


グロマールは淡々と言う。


「生活必需品を先に安定させる」


それが恐ろしかった。


市場を壊すのではない。


生活基盤そのものを押さえる。


食料。

衣類。

保存技術。


人間が生きるために必要なもの。


そこを支配する。


セレスが小さく息を吐く。


「……本当に国を飲み込むわね」


その頃。


教育区画では、新しい組織編成が始まっていた。


人が増えすぎた。


幹部たちが処理しきれない。


だから補佐役が必要になる。


「ピーター班、補佐五名決定!」


「セレス班、行政補佐五名!」


「ミネルバ班、治療補佐五名!」


「ジミー班、流通補佐五名!」


声が飛び交う。


以前なら、一人の天才へ依存していた。


今は違う。


育てる。


分担する。


循環させる。


ピーターは新しく集まった若者たちを見る。


皆、緊張していた。


「……先生、本当に僕たちが?」


ピーターは優しく笑う。


「できます」


昔、自分も同じ顔をしていた。


弱かった。


自信がなかった。


だから分かる。


“任される怖さ”を。


同時に。


“信じてもらえる強さ”も。


「教導スキルは才能じゃありません」


ピーターは言う。


「相手を理解しようとすることです」


その言葉に、若者たちは真剣に耳を傾ける。


教導スキル。


他者へ知識を伝える適性。


以前は稀少扱いされていた。


今、この村では増え始めている。


理由は単純。


教育される側が、教える側へ回り始めたから。


循環している。


その頃。


行政区画ではセレスが新任補佐へ怒鳴っていた。


「違う!」


机を叩く。


「帳簿は数字だけ見ない!」


若い補佐たちが震える。


「食料減少には理由がある! 病か、人口増加か、輸送遅延か! 全部読むの!」


行政スキル。


情報整理。

優先順位。

全体把握。


戦闘より地味だ。


だが国家運営には不可欠。


セレスは書類を積み上げながら呟く。


「私一人じゃもう無理なのよ……」


本音だった。


人が増えすぎた。


だから育てるしかない。


一方。


治療院ではミネルバが新しい治癒師たちへ教えていた。


「治癒魔法は万能じゃありません」


彼女は穏やかに話す。


「栄養、水、休息。それがあって初めて意味があります」


周囲の見習いたちが真剣に頷く。


ミネルバは以前より強くなっていた。


優しいだけでは、人を救えないと知ったから。


「病を見る時は、生活を見るんです」


貧困。

飢え。

疲労。


病の原因はそこにある。


だから環境を変える必要がある。


それが、この村の思想だった。


若い獣人の少女が手を挙げる。


「先生、熱だけ下げればいいわけじゃないんですね」


ミネルバは微笑む。


「はい。人は身体だけじゃありませんから」


その言葉を、周囲の難民たちは静かに聞いていた。


“治療されるだけ”ではない。


育てられている。


それを感じていた。


その頃。


ジミーの流通区画では、新しい商人育成が始まっていた。


「相場は数字だけ見るな」


若い補佐たちが帳簿を抱えている。


「人を見るんだよ」


ジミーは机を指で叩く。


「貧困が増えりゃ、安物が動く。病が流行れば薬草が跳ねる。飢えれば保存食が消える」


補佐たちが真剣にメモを取る。


「商売鑑定ってのは、物を見るだけじゃねぇ」


ジミーはニヤリと笑った。


「人間を見る力だ」


その能力もまた、増え始めていた。


環境がある。


教育がある。


だから才能が発現する。


夕方。


訓練場ではミレナが元騎士たちを見ていた。


没落騎士。

追放兵。

逃亡兵。


以前なら危険視された人間たち。


今は違う。


「剣を振る理由を変えなさい」


ミレナの声は静かだった。


「支配のためじゃない。守るために使うの」


彼らは黙って聞いていた。


ミレナは、自警団を組織していた。


防衛団とは別。


内部治安維持。


巡回。

避難誘導。

一般保護。


軍ではない。


“生活を守る組織”。


元騎士たちは最初戸惑っていた。


だが今は違う。


子供たちが笑っている。


市場が動いている。


病人が減っている。


守る意味が見える。


それが彼らを変えていた。


その頃。


索敵班では異常が起きていた。


「……また?」


セレスが資料を見る。


「全員、五属性適応?」


以前なら考えられない。


水。

風。

土。

光。

闇。


複数属性適性。


それも索敵班全体。


グロマールは静かに答える。


「索敵は感覚統合だからな」


つまり。


一属性だけより、多属性を混ぜた方が効率がいい。


水で生命反応。

風で振動。

土で地盤。

光で魔力。

闇で気配。


全部を合わせる。


結果。


索敵精度が異常な速度で進化していた。


索敵班の少女が目を閉じる。


「東側……三キロ先」


周囲が静まる。


「魔物群。大型二、小型十二」


さらに。


「人間も二人。隠れてる」


空気が変わる。


そこまで見えるのか。


少女は目を開ける。


「……分かります」


彼女自身が驚いていた。


今まで、自分は何もできないと思っていた。


違った。


教育されていなかっただけ。


夜。


巨大市場はまだ動いていた。


冷蔵倉庫から保存肉が運ばれる。


紡織工房から大量の布が出荷される。


薬草が整理される。


人が流れる。


金が流れる。


情報が流れる。


それを見ながら、セレスは小さく笑った。


「……もう後戻りできないわね」


グロマールは静かに答える。


「最初から戻る気はない」


市場。

教育。

治療。

防衛。

索敵。


全部が繋がっている。


個人ではない。


循環そのものが、強くなり始めていた。







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