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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、宗教国家まで改革された  作者: 慈架太子


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22話:村人全員魔法使い

朝霧が水路の上を流れていた。


夜明け前。


冷えた空気の中で、水だけが静かに動いている。


かつて干からびていた土地は、少しずつ色を変え始めていた。


茶色だった畑は湿りを取り戻し、草が増え、土が柔らかくなっている。


リードル村。


飢えと病に沈みかけていた村は、確実に変化していた。


だが、グロマールは満足していない。


畑を見る。


村を見る。


人を見る。


まだ足りない。


水路ができても、井戸が浄化されても、それだけでは村は残れない。


守る力。


維持する力。


継続する力。


それが必要だった。


だから彼は村人たちを集めた。


朝日が差し込む広場。


子供から老人まで、全員がいる。


マイクは眠そうな顔で槍を担ぎ、セレスは腕を組み、ミレナは真面目な顔で立っていた。


ジミーは途中でパンを食べている。


ミネルバは子供たちを落ち着かせ、ピーターはノートを抱えていた。


グロマールが口を開く。


「今日から連携を教える」


マイクが首を傾げる。


「連携?」


「一人で魔法を使うな」


「は?」


村人たちも不思議そうな顔をする。


魔法。


それは普通、“個人の才能”だった。


使える者は少ない。


だから強い。


だから特別。


それが常識。


しかしグロマールは違った。


「魔法は技術だ」


静かな声。


「才能だけで使うから弱い」


村人たちが黙る。


誰も反論できない。


実際、村は変わっている。


魔力循環。


身体強化。


水操作。


全部、教えられて初めてできた。


つまり。


今まで“知らなかっただけ”なのだ。


グロマールは地面へ棒で線を書く。


「一人の火は弱い」


次に線を繋ぐ。


「二人なら維持できる」


さらに増やす。


「三人なら制御できる」


マイクが目を丸くする。


「魔法って一緒に使えんのか?」


「使える」


「そんな話聞いたことねぇぞ」


「教える奴がいなかっただけだ」


それが、この世界の歪みだった。


貴族。


王都。


魔法学院。


知識を独占する。


だから民は弱い。


弱いまま使われる。


グロマールはそれを理解していた。


だから教える。


循環を止めないために。


「まず水属性」


前へ出たのはミネルバだった。


まだ不安そうだ。


でも逃げない。


以前とは違う。


彼女は“できない自分”から逃げなくなっていた。


グロマールが言う。


「水を出せ」


ミネルバが集中する。


小さな水球。


以前より安定している。


「維持しろ」


「……はい」


グロマールは次にピーターを見る。


「お前は風」


「ぼ、僕?」


「できる」


ピーターは緊張しながら手を出した。


風。


弱い。


不安定。


それでも発生した。


グロマールが指示する。


「水の周囲へ流せ」


「え……?」


「包め」


ピーターが必死に風を動かす。


水球が揺れる。


崩れそうになる。


ミネルバが慌てる。


「きゃっ」


「止めるな」


グロマールの声は冷静だった。


「流れを見ろ」


「流れ……」


ピーターの顔が変わる。


風を“押す”のではない。


支える。


回す。


循環。


風が水の周囲を回り始める。


水球が安定した。


村人たちがざわつく。


「おお……」


「回ってる……」


ミネルバが驚いている。


「崩れない……」


グロマールが頷く。


「これが連携」


単純。


しかし強い。


一人の魔力負担が減る。


維持が安定する。


制御も向上する。


つまり――弱者でも強くなれる。


それが重要だった。


マイクが前へ出る。


「俺もやる!」


「土属性を出せ」


マイクが地面へ手を置く。


土壁。


まだ粗い。


歪んでいる。


しかし以前より圧倒的に強い。


グロマールがミレナを見る。


「水」


ミレナが頷く。


水流を発生。


それを土へ流し込む。


土が変わる。


締まる。


硬化。


村人たちが息を飲む。


「硬ぇ……!」


マイクが壁を叩く。


以前とは別物。


崩れない。


グロマールが説明する。


「土だけでは脆い」


「水で圧縮する」


「循環させれば強度が上がる」


セレスが笑う。


「なるほど。壁役と補助役を分けるのね」


「そうだ」


ミレナは少し悔しそうだった。


「……私、一人でやろうとしてた」


「それでは限界が来る」


グロマールは事実しか言わない。


しかし責めない。


だからミレナは反論できなかった。


その頃。


子供たちも真似を始めていた。


小さな火。


弱い風。


水滴。


不格好。


でも、確かに“魔法”だった。


以前なら考えられない。


村人全員が魔法を使う。


そんな光景。


老人の一人が震える声で言う。


「俺たちは……魔法使いだったのか……?」


グロマールが答える。


「違う」


村人たちが静まる。


「お前たちは最初から人間だった」


「魔力はあった」


「使い方を知らなかっただけだ」


沈黙。


その言葉は重かった。


才能が無かったわけじゃない。


落ちこぼれだったわけじゃない。


最初から、教えられていなかった。


それだけ。


ミネルバの目が潤む。


ピーターも俯く。


長年、自分を“弱い”と思っていた。


でも違った。


環境。


教育。


それが無かっただけ。


セレスは静かにグロマールを見る。


「……残酷ね」


「何がだ」


「こんな簡単に変わるなら、今までの人生が馬鹿みたい」


グロマールは少しだけ空を見る。


「そういう世界だ」


知識を持つ者が支配する。


知らない者は搾取される。


だから彼は教える。


循環を止めないために。


その時だった。


見張り台から声が上がる。


「魔物!」


空気が変わる。


村人たちが振り向く。


森の奥。


小型魔物。


群れ。


数は多くない。


だが以前の村なら脅威だった。


マイクが槍を握る。


「やるぞ!」


以前なら恐怖しか無かった。


今は違う。


全員が動く。


役割がある。


理解している。


グロマールは前へ出ない。


見ているだけ。


ミレナが指示を飛ばす。


「第一列、土壁!」


マイクたちが動く。


土属性。


壁形成。


以前より速い。


そこへミネルバが水を流す。


圧縮。


強化。


壁が完成する。


ピーターが風を重ねた。


風圧。


壁の表面を安定化。


魔物が突撃する。


激突。


止まる。


村人たちが目を見開く。


止めた。


本当に。


ジミーが叫ぶ。


「今だ!」


火属性持ちが前へ。


小さな火球。


しかし風属性が加速。


火が伸びる。


炎線。


魔物へ直撃。


爆ぜる。


悲鳴。


村人たちが息を呑む。


連携。


一人では弱い。


でも合わせれば強い。


魔物が壁を越えようとする。


その瞬間。


ピーターが叫ぶ。


「水を!」


ミネルバが反応。


水流。


マイクが土を操作。


泥。


拘束。


魔物の足が止まる。


そこへ火。


風。


連続。


魔物たちが倒れていく。


短い戦闘だった。


静寂。


村人たちが立ち尽くす。


自分たちで勝った。


グロマール一人ではない。


村人全員で。


マイクが笑う。


「すげぇ……!」


セレスも笑っていた。


「本当に村全員魔法使いね」


ミレナは呆然としていた。


怖かった。


でも、戦えた。


守れた。


それも“みんなで”。


グロマールは静かに言う。


「一人の英雄はいらない」


村人たちが彼を見る。


「全員が動ける方が強い」


その言葉は、村へ深く沈んだ。


誰か一人に頼る村は壊れる。


でも。


全員が支え合うなら。


循環するなら。


人は育つ。


村も育つ。


夕暮れ。


水路が赤く染まる。


畑には緑が増えていた。


食料充足率。


まだ百五十には届かない。


紡織産業も始まっていない。


病も消えていない。


貧困も終わっていない。


それでも。


村はもう、“何もできない村”ではなかった。


誰かが救うのを待つ場所でもない。


リードル村は、自分たちで立ち始めていた。







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