132話:関税
帝国中央。
旧貴族派閥。
大商会連合。
保守貴族。
彼らは焦っていた。
理由は単純。
レオハルト改革領が。
強すぎる。
酒。
調味料。
農産物。
魔導具。
布。
全部売れる。
しかも。
安い。
品質が高い。
物流速度が異常。
勝負にならない。
旧来商会は。
次々と潰れ始めていた。
会議室。
巨大な円卓。
老貴族が怒鳴る。
「このままでは終わる!」
「市場を全部奪われるぞ!」
別の商人。
「価格競争では勝てません!」
「物流速度も違いすぎる!」
「品質も高い!」
さらに。
「民衆人気まで高い!」
「酒まで美味い!」
誰かが机を叩く。
「だから関税だ!」
静まる。
「帝国北部物流税を上げろ!」
「改革領の商品に重税をかけろ!」
「流通を止めろ!」
全員が頷く。
それしかない。
もう。
正面から勝てない。
だから。
旧国家側は。
“関税”という壁を作り始めた。
しかし。
その頃。
レオハルト改革領では。
全く別の空気が流れていた。
朝。
街道。
大量の人。
整列。
農民。
工房職人。
教師。
兵士。
子供。
老人。
全員並んでいる。
街全体が掃除されていた。
石畳。
磨かれている。
魔導灯。
整備済み。
花壇まである。
その中央。
巨大門。
帝国旗。
改革領旗。
風に揺れていた。
そこへ。
重厚な馬車列が現れる。
帝国皇帝。
到着。
空気が張り詰める。
だが。
民は恐怖していない。
緊張はある。
しかし目は違う。
誇り。
自分たちの街を見せたい。
そんな空気だった。
馬車が止まる。
扉が開く。
老皇帝。
年老いている。
しかし威圧感はある。
周囲には近衛。
高官。
中央貴族。
全員。
改革領を見る。
そして。
違和感を覚えた。
静かすぎる。
いや。
違う。
“荒れていない”。
帝都では。
皇帝が来れば。
民は怯える。
視線を逸らす。
跪く。
今。
違う。
民が自然に頭を下げる。
恐怖ではない。
敬意。
しかも。
顔色が良い。
子供が痩せていない。
服が綺麗。
老人が立っている。
貴族たちは動揺した。
「……なんだこれは」
皇帝も無言だった。
その前へ。
レオハルトが進み出る。
片膝をつく。
「皇帝陛下」
「ようこそ、レオハルト改革領へ」
皇帝は静かに頷く。
そして言う。
「……案内しろ」
視察が始まった。
最初に向かったのは。
中央市場。
そこには。
大量の商品。
肉。
魚。
野菜。
酒。
布。
全部並ぶ。
しかも。
民衆が普通に買っている。
飢えていない。
奪い合いもない。
皇帝は歩きながら見ていた。
一人の母親。
大量のパンを買う。
子供が笑う。
さらに。
老人が酒を飲みながら笑っている。
帝都では見ない光景だった。
近衛騎士が呟く。
「……帝都より豊かだ」
誰も否定できない。
その後。
皇帝は農地へ向かう。
巨大だった。
雪国。
それなのに。
農地が広がる。
温水路。
灌漑。
循環農法。
全部整備済み。
農民たちは笑いながら働いている。
その姿を見て。
老皇帝は立ち止まった。
「……民が」
「笑って働いている」
横の貴族が答えられない。
以前の帝国。
労働は苦役。
今。
違う。
未来へ繋がる仕事。
だから顔が違う。
さらに。
工房地区。
鍛冶。
木工。
魔導具。
紡織。
全部稼働。
ゴーレムが資材運搬。
職人たちが連携。
速度が異常。
品質も高い。
しかも。
現場の多くが元農民。
元平民。
老貴族たちは青ざめる。
「平民が……」
「魔導具を……」
「ゴーレムを……」
常識が崩壊していた。
その後。
皇帝一行は。
巨大宴会場へ案内される。
そこで。
さらに空気が変わった。
香り。
圧倒的。
肉料理。
魚料理。
発酵料理。
焼き料理。
蒸し料理。
全部並ぶ。
料理人たち。
大量。
しかも。
全員。
調理スキル覚醒者。
包丁捌き。
火加減。
香り管理。
全部異常。
皇帝の専属料理人たちですら。
息を呑んでいた。
料理長が震える。
「……こんな技術」
「帝城厨房以上だ……」
さらに。
酒。
黄金色のラガービール。
深い香りのウィスキー。
甘いラム。
透明な焼酎。
全部最高級。
皇帝へ注がれる。
老皇帝は。
まずビールを飲んだ。
静まる会場。
そして。
皇帝の目がわずかに開く。
「……美味い」
誰も動けない。
さらに。
料理。
口へ運ぶ。
肉。
柔らかい。
香辛料。
発酵調味料。
旨味。
全部異常。
皇帝は静かに食べ続けた。
無言。
だが。
止まらない。
周囲の高官たちも理解した。
これは。
贅沢ではない。
技術。
文明。
教育の結果。
食文化そのものが進化している。
宴の途中。
皇帝は突然。
窓の外を見る。
夜。
街。
魔導灯が輝く。
民が笑う。
酒場。
市場。
全部生きている。
その時。
皇帝は静かに言った。
「レオハルト」
全員が顔を上げる。
レオハルトが前へ出る。
皇帝は彼を見る。
長い沈黙。
そして。
言葉を放った。
「帝国中へ広げろ」
空気が凍る。
老皇帝は続ける。
「教育」
「農業」
「物流」
「魔導通信」
「全部だ」
さらに。
静かな声。
だが。
絶対の威圧。
「反対する者は」
「国家反逆とみなす」
完全沈黙。
貴族たちの顔色が消える。
理解した。
終わった。
もう。
止められない。
皇帝自身が決断した。
帝国は。
変わる。
その時。
遠方。
旧国家側。
対抗関税が正式発表されていた。
改革領商品へ高税率。
物流規制。
市場封鎖。
彼らは。
まだ理解していない。
もう。
流れは止まらない。
教育が広がった時点で。
文明は止まらない。
誰か一人を潰しても意味がない。
民が変わり始めたから。
その夜。
レオハルトは高台に立っていた。
隣にはピーター。
遠く。
街の灯り。
さらに増えている。
レオハルトが呟く。
「……帝国全土か」
重い責任。
以前なら恐怖していた。
今。
違う。
彼には。
宰相スキル。
仲間。
教師。
民。
全部ある。
ピーターが静かに言った。
「出来ます」
レオハルトは苦笑した。
「簡単に言うな」
「でも」
「やるしかないか」
その時。
遠くで歓声が上がる。
酒場。
市場。
工房。
全部動いている。
民が笑う。
働く。
学ぶ。
生きる。
その光景を見て。
レオハルトは理解した。
これはもう。
一領地の改革ではない。
文明そのもの。
そして今。
皇帝が。
正式にそれを認めたのだった。




