麺をすすれない男
「別れよう」
唐突に彼女から放たれた言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
―どうして?
彼女は後ろを向いて言い放った。
「麺をすすらないで食べる男と付き合えない」
彼女はその場から立ち去ってしまった。
―はぁぁぁぁ?!
地面に倒れ込む。
―どういうことやねん
しかし、このままというわけにもいかないのでとりあえず家に帰ることにした。
彼女から告げられた“麺をすすらないで食べる男と付き合えない”それは自分の心を深くえぐる言葉だった。
麺をすすって食べようと思ったのは小学 5 年生のころ。テレビを見ていて麺をすすって食べている大人たちにあこがれを抱いた。それから麺を食べる最初の機会にすすって食べ
ようとした。
すすれなかった
思いっきり吸い込んでも麺は言うことを聞いてくれない。周りの大人はつるつると口の中に麺が吸い込まれていく。自分は空気を吸い込んでいく。大人たちは麺で胃袋を満たす。自分は空気で胃袋を満たす。
その時は仕方がなかったので次の機会に期待してすすらないで麺を食べた。だが、悪夢の始まりは序章に過ぎなかった。いつ食べても、どこで食べても、何を食べても・・・麺をすすることがかなわない。自分は無残にも空気を吸い込んでいく。だから、自分は麺をすすらないのではない。“すすれない”のだ。
―はぁ~どうしよう・・・
電車の吊革をつかみ電車に揺られながら 1 人考えていた。
―考えていてもどうしようもない。今夜は麺を食べに行こう
次の停車駅で折り、お店を探した。駅近のお店を見つけすぐさま入っていく。店員がオーダーを取りに来るが時間をかけず即答する。店内はがらがらだったので料理がすぐに運ばれてきた。
―よし・・・
箸で麺をつかみ口へ持っていく。そして、息を吸い込む。
すすれなかった
「ありがとうございました」
―はぁ~
心身共に疲れ果てて、フラフラの足つきで店を出る。また電車に乗りスマホを開く。するとスマホの画面に麺をすすれない男はモテないと書かれていた。
―・・・明日から、特訓するか
翌日から朝昼晩 3 食麺生活を始動させた。頑張って麺をすすって食べられるように。彼女との関係を戻せるように。外食、お金は惜しみなく使用する。努力が報われるように、明るい未来を信じて、特訓を続けた。
努力は実らなかった
頑張ったけど、頑張ったけど。できるようにならなかった。すすれなかった・・・
―ごふっ・・・胃の中の空気が・・・
食べ物でなく空気を食している自分は最近少食になってきた。
―このまま、麺をすすれないまま人生を終えるのか・・・
部屋の中で絶望の淵にかられる。すると、スマホが点灯する。
―なんだろう
スマホを開くと、そこにはある文章が浮かび上がっていた。
「麺をすすれなくて損することなんてあるのですか」
それから数週間たったある日。自分は麺を食べられる店を訪れていた。料理が出され、箸を中に入れる。そして、麺を取り出し口に近づける。
―やっぱり・・・すすれないや・・・
でも、すすれなくても大丈夫さ




