第9話 猫耳の少女と、始まりの予感
すいません。カクヨムへ投稿するストックが足りなくて執筆に集中していました。ここから再開いたします
翌朝、俺は宿屋のロビーで朝食を済ませ、ギルドへ向かおうとしていた。
手には、昨夜のうちに作っておいたEランクポーション2本。今日はこれを納品して、また少しお金を稼ぐ予定だ。
「よし、行くか」
俺は扉に向かって歩き出した——その瞬間。
「にゃあああ!」
「うわっ!」
突然、目の前に小柄な影が飛び出してきた。俺は咄嗟に身を引いたが、間に合わず——ドンッ、と衝突。
「痛っ……」
「ご、ごめんにゃ! 大丈夫にゃ!?」
尻餅をついた俺の前に、猫耳の少女が立っていた。
いや、正確には猫の耳と尻尾を持つ、獣人の少女だ。
小柄で華奢な体つき。茶色の髪に、ぴょこんと立った三角の耳。瞳は琥珀色で、不安そうに俺を見つめている。
「あ、ああ……大丈夫」
俺は立ち上がり、服の埃を払った。
「本当にごめんにゃ! 急いでて、前見てなかったにゃ……」
少女は何度も頭を下げている。その尻尾が、申し訳なさそうに垂れ下がっていた。
「気にしないで。怪我もないし」
「ありがとうにゃ……優しい人にゃ」
少女はほっとした表情を浮かべた。
「それより、そんなに急いでどうしたの?」
「あ、えっと……探し物してるにゃ」
「探し物?」
「うん。大事なものを……でも、気にしないでにゃ! これは私の問題にゃから!」
少女は慌てて手を振り、そのまま駆け出していった。
「あ、ちょっと……」
俺が声をかける間もなく、彼女は宿の外へと消えていった。
「……なんだったんだ?」
俺は首を傾げながら、ギルドへと向かった。
商業ギルドに着くと、いつもより人が多かった。
ロビーには冒険者らしき男たちが何人も集まっていて、何やら話し込んでいる。
「おい、聞いたか? あのEランクポーション、めちゃくちゃ効くらしいぞ」
「マジかよ。Eランクなのに?」
「ああ。俺の知り合いが使ったんだが、切り傷が数秒で治ったって」
「嘘だろ……それ、Cランク級じゃねえか」
俺のポーションの話をしてる。
俺は少しだけ気まずくなり、カウンターへと急いだ。
「あ、ヒナト様!」
カウンターの向こうから、リーナが笑顔で手を振った。
「おはようございます、リーナさん」
「おはようございます。今日も納品ですか?」
「はい。Eランクを2本持ってきました」
俺はポーションをカウンターに置いた。リーナは瓶を手に取り、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。本当に助かります」
でも——その笑顔の奥に、少しだけ疲れが見えた気がした。
「リーナさん、大丈夫ですか?」
「え?」
「なんか……疲れてるように見えて」
リーナは少し驚いた顔をした後、小さく笑った。
「ばれちゃいましたか。実は、ちょっとギルド内で……いえ、大丈夫です。ヒナト様に心配かけるようなことじゃありません」
「そうですか……」
俺は深く追及しなかった。でも、何か問題があるのは確かだ。
「では、こちらの買取金額は400シルバーになります」
「400……! ありがとうございます」
2本で400シルバー。昨日と同じ単価だ。これなら、しばらくは生活に困らない。
俺は代金を受け取り、ギルドの奥にある掲示板へと向かった。
冒険者たちが依頼内容を確認している掲示板には、さまざまな張り紙が貼られている。
『薬草採取依頼』『護衛募集』『討伐依頼:ゴブリン』——。
その中に、一枚だけ目立つ張り紙があった。
『緊急:近郊の村に魔物出没。被害拡大の恐れあり』
「魔物……か」
俺は張り紙を見つめた。村人が襲われているなら、ポーションが必要になるはずだ。
「でも、俺は戦えない……」
その時、後ろから声がかかった。
「お前、ポーション職人だろ?」
振り返ると、剣を腰に下げた冒険者風の男が立っていた。
「あ、はい……」
「なら、護衛つけた方がいいぞ。ポーション職人は狙われやすいからな」
「護衛……ですか」
「ああ。冒険者を雇うか、それとも——戦闘奴隷を買うか、だな」
「戦闘、奴隷……?」
俺は思わず聞き返した。
「ああ。この国じゃ合法だからな。戦闘特化の奴隷を一人買えば、護衛は完璧だ」
男はあっけらかんと言った。
——奴隷。
その言葉に、俺は少しだけ胸が痛んだ。
「まあ、考えとけよ。戦えないポーション職人なんて、格好の餌食だからな」
男はそう言い残して、去っていった。
俺はその場に立ち尽くした。
「奴隷か……」
正直、抵抗がある。でも、この世界では"普通"のことらしい。
「神様は、仲間を見つけろって言ってたな……」
ふと、朝ぶつかった猫耳の少女を思い出した。
彼女は、何を探していたんだろう。
「もう一度、探してみるか」
俺はギルドを出て、街へと繰り出した。
街を歩きながら、俺はあの少女のことを考えていた。
急いでいた様子、どこか不安そうな表情——。
「大事なものを探してる、か」
その時、路地の奥から声が聞こえた。
「だから、お前の問題じゃないって言ってるにゃ!」
!?
あの声。
俺は急いで路地へと向かった。
そこには、猫耳の少女と、何人かの男たちが立っていた。
「おいおい、借金踏み倒して逃げるつもりか?」
「踏み倒してないにゃ! ちゃんと返すにゃ!」
「いつだよ。もう待てねえんだよ」
男たちが、少女を囲んでいる。
俺は——迷わず、前に出た。
「ちょっと、待ってください」
男たちが一斉に俺を見た。
「あんた、誰だ?」
「関係ない人です。でも——」
俺は少女を見た。彼女は驚いた顔で、俺を見つめている。
「彼女を困らせるのは、やめてください」
男たちが笑った。
「言ってくれるじゃねぇか。……金もないくせに、口だけは達者だな?」
男の一人が、剣の柄に手をかけた。
背中に冷たい汗が流れる。でも——俺は下がらなかった。
この街には、何かがある。
そして、この少女との出会いが——きっと、何かの始まりなんだ。




