第6話 売ったらバレた。ギルドにマークされました
「では、まずお名前からお聞かせいただけますか?」
「た、田中陽斗です」
俺は緊張で声が少し震えた。目の前の受付嬢が、予想以上に美人すぎるせいだ。
金色の髪、透き通るような青い瞳、整った顔立ち。そして何より、その立ち居振る舞いには凛とした気品がある。まるで雪国の貴族令嬢みたいな雰囲気だ。
「タナカ……ヒナト様ですね。珍しいお名前ですね」
「あ、はい……そ、そうですね」
やばい。緊張しすぎて変な返事になった。
「それから、ご職業は?」
「ポーション職人……です」
瞬間、受付嬢の手が止まった。
「……ポーション、職人?」
「はい」
彼女は驚いたように、俺の顔を見つめた。その視線が真剣で、思わずドキッとする。
「本当に……ですか?」
「ほ、ヒャい!」
声が裏返った。最悪だ。
受付嬢は少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかい笑顔に戻った。
「あ、あの……本当です」
俺は慌ててベルトからポーションを取り出し、カウンターに置いた。
受付嬢は瓶を手に取り、じっくりと観察した。光にかざし、液体の色や透明度を確認している。
「これは……素晴らしい品質です。透明度が高く、不純物が一切見られません。Eランクポーションでこの品質は、めったにお目にかかれません」
「そ、そうなんですか?」
「はい。私、ギルドで三年働いていますが、こんなに綺麗なポーションは初めて見ました」
受付嬢は目を輝かせている。その表情を見て、俺は少し安心した。
「では、ヒナト様。こちらのポーションを査定に出させていただいてもよろしいですか? 同時に、身分証の発行手続きも進めさせていただきます」
「はい、お願いします」
「承知しました。少々お待ちください」
受付嬢は奥へと消えていった。
俺は待合スペースの椅子に座り、深呼吸をした。
「やっぱり美人に弱いな、俺……」
一人になったことで、ようやく冷静さを取り戻す。というか、声が裏返ったのは恥ずかしすぎる。
しばらくすると、ギルドの奥から複数の足音が聞こえてきた。
「おい、本当か!?」
「ああ、間違いない。この品質は、一級品だ」
男性たちの興奮した声が漏れ聞こえる。
「すぐに確保しろ。絶対に他のギルドに取られるな」
「承知しました」
……なんだか、すごい話になってる気がする。
やがて、受付嬢が戻ってきた。その後ろには、貫禄のある中年男性が立っている。
「ヒナト様、お待たせいたしました。こちら、商業ギルドの班長、ダリウスです」
「初めまして、田中殿。素晴らしいポーションをありがとう」
ダリウスと名乗った男性は、俺に深々と頭を下げた。
「え、あ、いえ……」
「このポーションは、Eランクとしては最高品質です。うちのギルドで、ぜひ買い取らせていただきたい」
「あ、はい。お願いします」
「ありがとうございます。では、こちらが買取金額になります」
ダリウスは紙を差し出した。そこには『200シルバー』と書かれている。
「にひゃく……」
「相場の倍以上ですが、この品質なら妥当です。いかがでしょうか?」
「はい、ありがとうございます!」
俺は思わず頭を下げた。200シルバーが高いのか安いのか、正直よくわからないけど、相場の倍と言われたら十分すぎる。
「それから、田中殿。もしよろしければ、定期的にポーションを持ち込んでいただけませんか?」
「え?」
「ポーション職人は今、非常に不足しています。特に、あなたほどの腕を持つ職人は貴重です。ぜひ、当ギルドと継続的な取引をお願いしたいのです」
ダリウスの目は真剣だった。
「わかりました。また作ったら、持ってきます」
「ありがとうございます! では、受付のリーナに詳しい説明をさせますので、よろしくお願いします」
ダリウスは満足そうに頷き、奥へと戻っていった。
「リーナ……」
俺は受付嬢を見た。彼女は少し頬を赤らめて、微笑んだ。
「はい。私、リーナ・フロストと申します。改めて、よろしくお願いします、ヒナト様」
「こ、こちらこそ……」
また声が裏返りそうになったが、なんとか堪えた。
「では、こちらが身分証になります」
リーナは、小さなカードを俺に渡した。名前と職業、そして『商業ギルド登録済』と書かれている。
「これで、街の出入りも自由にできますし、ギルドの施設も利用できます」
「ありがとうございます」
「それから……もしよろしければ、週に一度、ポーションを持ち込んでいただけると助かります」
「週に一度……ですか?」
「はい。もちろん、無理のない範囲で構いません。ただ、今は本当にポーションが不足していて……」
リーナは少し困ったような表情を浮かべた。その顔が、またドキッとするほど可愛くて、俺は思わず頷いていた。
「わかりました。週に一度、持ってきます」
「本当ですか!? ありがとうございます、ヒナト様!」
リーナは満面の笑みを浮かべた。その笑顔に、俺の心臓が跳ねた。
「じゃ、じゃあ、また来ます!」
「はい。お待ちしております」
俺は慌ててギルドを出た。
外に出てから、ようやく深呼吸をした。
「やばい……めちゃくちゃ可愛かった……」
俺は顔を押さえた。完全に一目惚れだ。
一方、ギルドの中では——。
「リーナ、どうだった?」
ダリウスが尋ねると、リーナは頷いた。
「はい。週に一度、持ち込んでくれるそうです」
「そうか。よくやった」
「ただ……」
「ただ?」
「彼、本当にポーション職人なんでしょうか。あまりにも若いし、装備も粗末です。それに、緊張しすぎて声が裏返ってました」
リーナは少し心配そうに言った。
「まあ、若い職人もいるだろう。それに、品質が全てを物語っている」
「そうですね……」
リーナは窓の外を見た。
「もし本当に、あの品質のポーションを安定して作れるなら……」
彼女は小さく呟いた。
「……結婚してもいいかもしれない」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
リーナは頬を赤らめ、書類に目を戻した。




