第4話 初ポーション、そして牙 その2
ゆっくりと振り返ると——そこには、真っ黒な毛並みの野犬のような生き物がいた。いや、野犬じゃない。目が赤く光っていて、牙が異様に鋭い。
「魔物……!?」
瞬間、その生き物が跳びかかってきた。
「うわあああ!」
俺は咄嗟に横に飛び、全力で走り出した。心臓が爆発しそうだ。
「やばい、やばい、やばい!」
後ろから、バタバタと足音が追ってくる。しかも、めちゃくちゃ速い!
「戦えないって、こういうことか……!」
背中に迫る足音。振り返る余裕もない。
「ガウッ!」
「ぐっ……痛っ!!」
次の瞬間、ふくらはぎに激痛が走った。魔物の牙が、俺の足に食い込んだ。
「うああああ!」
俺は転倒し、地面に叩きつけられた。魔物はすぐに離れ、再び唸り声を上げながら俺を睨んでいる。
「く、そ……」
足を見ると、ズボンが破れ、血が滲んでいる。痛い。本当に痛い。
魔物が再び飛びかかってくる——!
「やめろ!」
咄嗟に、俺は手に持っていたEランクポーションを魔物に投げつけた。瓶は空中で砕け、液体が魔物の顔にかかる。
「キャウン!」
魔物が怯んだ隙に、俺は立ち上がって再び走り出した。足が痛い。でも、止まったら死ぬ。
「はあ、はあ、はあ……!」
必死で走り続け、ようやく魔物の気配が遠のいた。俺は草むらに倒れ込み、荒い息を整えた。
「助かった……のか?」
足を見る。血が止まらない。このままじゃ、出血多量でやばいかもしれない。
「そうだ……ポーション!」
俺はもう一度、スキルを発動させた。
『Eランクポーション生成』
再び手のひらに瓶が現れる。俺は震える手で栓を開け、傷口に液体をかけた。
「!!」
瞬間、温かい光が傷を包み込んだ。
痛みが消えていく。血が止まり、破れた皮膚が——繋がっていく。
「嘘だろ……」
たった数秒で、傷が完全に塞がった。まるで最初から何もなかったかのように。
「これは……魔法だ」
俺は呆然と、自分の足を見つめた。Eランクでこれなら、Sランクは一体どれほどの力を持っているんだろう。
「すごい……本当に、すごいスキルだ」
だが同時に、恐怖も感じた。
「戦えない俺が、この世界で生きていくには……もっと慎重にならないと」
俺は立ち上がり、遠くに見える城壁をもう一度見つめた。
「とりあえず、街に行こう。人がいれば、何かわかるはずだ」
ポーションを握りしめ、俺は再び歩き出した。
この世界で生き延びるために。
誰かを救うために。




