第47話 契りの稲妻、走り出す四つの影その2
「——ライ、伏せ!」
同時にクロエの気功波が矢筋を叩き、リーシャの風刃が弓弦を裂く。
罠師が投げ網を展開——
「土杭」
リーシャの杭が網のリングを噛み、空中で凍った鳥籠が崩れ落ちる。
「ちっ、引け!」
一瞬で形勢を見切ったらしい。五人は深い茂みに散った。
「追うか?」
「追わない。証拠を拾う」
俺は落ちた矢羽を集め、網の縁から罠油を布に染み込ませる。足元の泥には独特の靴底パターンが刻まれている。
「矢羽の染料、罠油の匂い、足跡型。これで足がつく。現場を荒らすより、治安班に回す」
「ハク、記録を」
「痕跡解析〜ぷるぷる〜」
ハクが淡く光り、匂いと型を写し取る。
「行こう。ライを疲れさせないのが先だ」
ライは俺の脇に寄り、胸の合図を待っていた。俺が手を当てると、同じ所に額を押し当てる。
——落ち着け。ここに家族がいる。
合図の意味が、もう通じている。
ギルド。受付のリーナが顔を上げた。
「ヒナトさん——ライちゃん、可愛い……! 手続きはお持ちしました。保護テイム契約(暫定)です」
羽ペンを走らせる俺に、リーナが説明を添える。
「一週間後に飼養監査があります。屋内飼養規則と帯電制御義務、それから登録標識(絶縁首輪)の装着をお願いします」
「了解。後で装着しような、ライ」
「ウォフ」
治安班の職員がやって来て、俺の渡した矢羽・罠油・足跡写しを受領した。
「十分な証拠です。罠油の調合印が出れば、後ろ盾も辿れます。以後も単独行動は避けて」
「助かります」
リーナが別の書類を差し出した。
「ついでに劇場の避雷針点検、受けませんか? 依頼主は市の保安課。報酬は50シルバーですが……市政補助の承認待ちで、本来の上乗せは後日になるそうです」
「街の安全第一だ。引き受けるよ」
劇場の屋上。風が速い。避雷針の根元を、ライが慎重に嗅ぐ。
「どうだ?」
「……ウォフ」
低く唸り、前脚をそっと根元へ添える。火花が針へ吸い込まれ、周囲の空気が軽くなった。
「根元にヘアラインの亀裂。放置してたら危なかったな」
俺は補修の樹脂を充填し、金具を増し締めする。リーシャが乾式固着で表面を安定化。
「ライ、もう一度」
ライが同じ動作を繰り返す。今度は火花が針へまっすぐ流れ、違和感はない。
「やったな。雷導も上手い」
撫でると、ライの瞳が細くなった。
——強いだけじゃない。街の役にも立てる。
胸がじんわり温かい。
帰りにギルドへ寄ると、保安課のサイン入りの受領票と共に報酬が渡された。
「50シルバー、確かに。補助金が下り次第、差額が加算されます」
リーナが微笑む。
「ありがとう、リーナさん」
ライが受付台に前脚をちょこん。リーナが頬をゆるませる。
「——いい子ね。みんな、あなたを守るから」
ライは視線で俺を探し、俺は胸に手。ライは額を同じ場所に。
合図一つで、気持ちが通う。
夜。宿の部屋。
ライはベッドの端で丸くなり、ハクはその背にぷに、と寄り添っている。尻尾の火花が、絵本の灯りみたいに部屋を照らした。
「仲良くなったな」
窓辺のクロエが笑う。
「ライも、もう家族です」
リーシャが柔らかく言い、俺を見る。
「ヒナト、本当に——」
クロエが言いかけ、首をすくめた。
「……まあ、そういうとこだよ」
俺は照れ隠しに頭を掻き、ライの額をそっと撫でる。
——群れから離された孤独。罠に掛かった恐怖。
——それでも、今はここに帰る場所がある。
「これからも、頼むぞ。ライ」
「ウォフ」
胸に手。額が触れる。
小さな稲妻が、そっと約束を照らした。




