第46話 契りの稲妻、走り出す四つの影 その1
翌朝。
空気がしっとり重い。窓辺で鼻をひくつかせていたライが、低く「ウォフ」と鳴いた。尻尾の先で、ぱち、と小さな火花。
「どうした?」
「雷雲が近づいています」
リーシャが空を見やる。遠い稜線の向こう、雲が黒く寄り合っていた。
「雷雨か。——訓練には悪くない」
クロエが腕を組み、にやりと笑う。
「ライズ・サーベルは雷と育つ。帯電制御の練習をさせよう。ただし安全第一でな」
俺はライの額の稲妻模様を撫で、いつもの合図——胸に手を当てた。
ライが小さく喉を鳴らし、額を俺の胸にすり寄せる。
「行こう、ライ」
ぱちん。稲妻の尾が、嬉しそうに弾けた。
街外れの空き地。周囲に建物はなく、地面は平坦で見通しもいい。
「まずは帯電の鎮めから。ギルド推奨の導電ミスト(市販応急用)だ。過剰な帯電を地面へ逃がす」
小瓶を霧状に噴くと、タイムと金属の香りがふわり。数秒で、ライの体表のさざ波が落ち着く。
「この合図で落ち着く」
俺は胸に手を当てる。ライがすり寄る。
「よし」
次はダッシュと停止の関連づけだ。
「リーシャ、目印を三点」
「風杭、立てますね」
地面に小旗が揺れる。俺は手を開いて構えた。
「ライ、旗まで走れ。この手で止まれ」
ライの脚に細い電光がまとわり——
「雷閃!」
一歩が稲妻に変わる。次瞬、旗の前。速い。だが止まり切れず、砂を引いて滑った。
「制御が甘い。止めの合図を叩き込むぞ」
クロエが頷く。
走る→止まる。走る→止まる。合図と身体が噛み合うまで、何度も繰り返した。
三巡目、ライは砂塵一つ立てずにピタリと俺の前で静止する。
「いい子だ」
撫でる掌に、ぱち、と小さな約束の火花。
「次は吸雷。ただし注意がある」
俺はライの目を見た。
「雷球は一度に一つだけ。過充電は痺れが心臓に回る。必ず俺の合図でやるんだ」
「はい、弱めに出します」
リーシャが杖先に小さな雷球を咲かせる。
「ライ、吸え」
ライが跳ぶ。雷は糸のように口内へ吸い込まれ、脚へ、鬣へ、ほの蒼い輪郭光が灯る。
「——雷閃!」
砂を蹴らず、空気だけが裂けた。弓を引く影がいたなら、もう背後だ。
停止合図。ピタリ。視線だけが、俺の掌に固定されている。
「上出来」
クロエが口笛を鳴らす。
「……来るぞ」
クロエの耳がぴくりと動いた。
茂みの陰から、五人の男たちが現れた。弓三、罠二。昨日の密猟者どもの増援だ。
「しつこいな」
俺は一歩前へ。ライがわずかに唸る。
「そいつは高く売れる。返してもらおうか」
矢羽が光った。




