第24話 襲撃
「――昨夜の件、正式に報告させてください」
朝、俺はギルドの小部屋で治安班の職員と向き合っていた。ダリウス班長も同席している。
「革油の匂い、足音、視線……二日続けて同じ気配を感じました」
「なるほど。尾行の可能性が高いな」
職員が書類に記録していく。
「当面の対策として、単独行動は避けて欲しい。外套を着用し、目立たないようにする。動線も毎日変える。それと、裏口ルートを覚えておくと良いな。」
「わかりました」
「何かあったら、すぐに門番かギルドに連絡して欲しい。治安班が動く」
「ありがとうございます」
森に入ると、いつもの静けさがあった。薬草を採取し、ハクの訓練も兼ねて軽く魔物狩りをする。
「けはい〜ぷるぷる〜」
ハクが俺の肩の上で震える。
「どこから?」
「ひだり〜うしろ〜」
「……クロエ、リーシャ。警戒して」
二人が即座に構える。
その瞬間――
ヒュンッ。
何かが空気を切り裂いた。
「っ!」
俺の腕に、鋭い痛みが走る。見ると、矢が腕をかすめていた。傷口から、黒ずんだ血が滲む。
「毒矢……!」
「陽斗!」
クロエが前に飛び出す。リーシャが杖を構えた。
「待て!まず、止血と解毒を!」
俺は素早く傷口を圧迫する。血が止まらない。毒が回り始めている。
「ポーション……!」
アイテムボックスからポーションを取り出し、一気に飲む。苦い液体が喉を通る。
数秒後、痛みが少し引いた。毒の進行が止まった。
「包帯……」
リーシャが慌てて駆け寄り、俺の腕に包帯を巻いてくれる。
「大丈夫ですか……!」
「ああ、なんとか……」
「――出てこい!」
クロエが叫ぶ。茂みから、5人の男たちが姿を現した。全員、革の鎧と武器を持っている。
「へへ……あんたら、いい稼ぎになるぜ」
先頭の男が、下卑た笑みを浮かべる。
「クロエ、リーシャ……頼む」
「任せろ」
クロエが地面を蹴る。一瞬で、先頭の男の懐に潜り込む。
「なっ――」
男の言葉が終わる前に、クロエの拳が炸裂した。男の体が木に叩きつけられ、動かなくなる。
「凍てつけ――【アイスランス】!」
リーシャの魔法が、残りの男たちを襲う。氷の槍が次々と突き刺さり、3人が倒れた。
残りの2人は、膝をついて降伏した。
「く……くそ……」
「動くな」
クロエが二人を拘束する。
「――証拠を集めないと」
俺は深呼吸して、現場を見回す。毒矢の頭、矢筒、罠具、靴底の防音加工……全てを記録する。
「ハク、これ……わかる?」
「わかる〜ぷるぷる〜」
ハクが、倒れた男たちの装備に近づく。でも、遺体には触れない。代わりに、装備や血痕に残る魔力残滓に触れていく。
『――【素材分離】【痕跡解析】起動』
ハクの体が、淡く光る。
『――スキル獲得:毒耐性(中)』
『――スキル獲得:静音移動』
『――スキル獲得:罠識別』
『――スキル獲得:遠聴』
「……スキルを……」
俺の脳内に、情報が流れ込んでくる。ハクは、装備や血痕に残った技能の痕跡から、スキルを学習したんだ。
「すごい……」
「陽斗、大丈夫か?」
クロエが俺の肩を掴む。
「ああ……大丈夫」
門番を通じて、治安班に連絡した。彼らが現場に到着し、証拠と拘束者を引き渡す。
「正当防衛だな。お前たちに落ち度はない」
治安班のリーダーがそう言ってくれた。
「ありがとうございます……」
宿に戻る途中、俺は道端で嘔吐した。
「うっ……」
「陽斗……」
リーシャが心配そうに背中をさする。クロエが、無言で水筒を差し出してくれた。
「水、飲め。手が震えてる」
「……ありがとう」
俺は震える手で水を飲んだ。喉が渇いていた。心も、体も。
「わ、私……焼き過ぎて……ごめんなさい……!」
リーシャが涙ぐむ。
「いや……みんなが守ってくれたから、俺は生きてる。ありがとう」
二人が、静かに頷いた。
夜、俺たちは酒場に立ち寄った。店内は静かで、いつもの賑わいがない。
「どうしたんだ? 今日は静かだな」
「ああ……歌姫のカナリアさんが、声を失ったらしいんだ」
店主が、重い口調で言った。
「声を……失った?」
「ああ。呪いか、毒か……わからないが、もう歌えないらしい」
「……そうか」
部屋に戻り、俺はベッドに座った。ハクが、俺の膝の上で静かに震えている。
「――人を殺すために、この力をもらったわけじゃない」
俺は、小さく呟いた。
「俺は……救うために来たんだ」
「すくう〜ぷるぷる〜」
ハクが、小さく声を発した。まるで、俺の言葉を繰り返すように。
「……そうだな。救おう」
俺は、ハクを優しく撫でた。
明日、歌姫カナリアのことを調べよう。
もしかしたら、俺のポーションで……救えるかもしれない。
そう思うと、少しだけ、胸の重さが軽くなった。




