第18話 それぞれの視点
【クロエ視点】
(――陽斗って、変なやつだよな)
クロエは、窓辺に座りながら、膝の上のハクを撫でる陽斗を眺めていた。
(あたしを支配しようともしない。命令もしない。無理に距離を詰めてこない)
それが、どれだけ異常なことか。奴隷だった自分にとって、それがどれだけ驚きだったか。
(でも……あいつのそばにいると、気が緩むんだよな)
自分でも不思議だった。警戒心の塊だった自分が、こんなにも然体でいられるなんて。
(さっきの戦闘、褒められちまったし……)
頬が熱くなる。褒められることなんて、これまでの人生でほとんどなかった。
(……まあ、悪くねえけど)
クロエは無言で目をそらした。
だけど、耳の先が赤く染まっているのは、隠しきれない。
「……ば、ばか。そ、そんな顔で見るなよ……」
吐き捨てるような声とは裏腹に、彼女の拳はテーブルの端を小さくとんとんと叩いていた。
【リーシャ視点】
(――陽斗様は、本当に優しい方……)
リーシャは、自分のベッドに座りながら、静かに陽斗を見つめていた。
(いつも、さりげなく気遣ってくださる。私が困っていると、すぐに気づいてくださる)
それは、今まで誰もしてくれなかったこと。
(魔力の調節ができないことを、責めるどころか……褒めてくださった)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
陽斗様の穏やかな声を聞きながら、私はそっと瞼を閉じた。
ふと、薬草を渡してくれたときの、あの手の温もりを思い出す。
「陽斗様の手って……あんなに、温かいんだ……」
この時間が、ずっと続けばいいのに——そんなことを思ってしまう。
……だめだ、私。何を考えているの。
リーシャの胸に、温かい感情が広がる。それが何なのか、まだ彼女自身も分かっていなかった。
【主人公視点】
「――なあ、ハク」
夜も更けて、クロエとリーシャが眠りについた後。俺は、まだ起きているハクに語りかけた。
「お前、何者なんだろうな」
ハクは、俺の手のひらの上で、ぷるぷると震える。そして――
(――ん?)
一瞬、ハクが微笑んだように見えた。
いや、気のせいだろう。スライムが笑うわけがない。
「……まあ、いいか。これから、よろしくな」
俺はハクを優しく撫でて、ベッドに横になる。
明日からまた、新しい冒険が始まる。
そんな予感がしていた。




