第16話 白い絆と、優しい距離
「――おう、また森に行ってたのか」
街の門番が、少し慣れた様子で声をかけてきた。俺は背負った革袋の中で、ぷにぷにと動く感触を感じながら、できるだけ自然な笑顔を作る。
「ええ、薬草とか、スライムの核とか採ってきました」
「スライムか。まあ、この時期は森に多いからな。ゴブリンは出なかったか?」
「何体か出ましたけど、なんとか」
「そうか。気をつけろよ」
門番が軽く頷く。最初の頃よりは随分と話しやすくなった気がする。
「はい、ありがとうございます」
俺は小声で呟きながら、そそくさと門をくぐる。背中の袋が、ぷるんと揺れた気がした。
「……陽斗様、門番さんと仲良くなりましたね」
「そうかな? まあ、何度も通ってるからね」
リーシャが嬉しそうに微笑む。クロエは「まあ、顔ぐらいは覚えられるだろ」と素っ気なく言った。
「――ふう。なんとか宿まで来られた」
部屋の扉を閉めた瞬間、俺は大きく息を吐いた。ギルドには寄らず、最短ルートで宿屋へ直行。誰にも見られずに済んで良かった。
「無事に着けて良かったな」
「はい……途中、誰かに見つかったらどうしようかと」
リーシャがほっとした様子で胸を撫で下ろす。
「で、出してやれよ。袋の中、窮屈だろ」
クロエが革袋を指さす。
「ああ、そうだな」
革袋を開けると、中から白い塊がぽよんと飛び出してきた。
「おお、元気そうじゃないか」
「良かった……」
ホワイトスライムは、俺の手のひらの上で嬉しそうにぷるぷると震えている。
「……ん?」
ふと、俺はスライムの表面に小さな濁りがあることに気づいた。よく見ると、わずかに透明度が落ちている部分がある。
「どうした?」
「いや……ちょっと待って」
俺はスライムをじっくりと観察する。素人目には分からないだろうが、これは……傷? いや、疲労か?
「リーシャ、さっきの戦闘で、このスライムが何かダメージを受けた可能性は?」
「え……あ、そういえば、私の氷魔法の余波が……」
リーシャの顔が青ざめる。
「大丈夫、大丈夫。まだ軽傷だから」
俺はアイテムボックスからAランクポーションを取り出した。
「ちょ、ちょっと待て。Aランクポーション!? スライムに!?」
「だって、せっかく仲間になってくれたんだから」
「仲間って……お前、まさか」
「うん。一緒に旅をしたいと思ってる」
クロエが呆れたように肩をすくめる。リーシャは、どこか安堵したような表情で俺を見ていた。
ポーションを数滴、スライムに垂らす。すると、濁っていた部分がみるみる透明になっていく。
「……おお」
「すごい……」
スライムが嬉しそうに、ぷるぷると震えた。まるで「ありがとう」と言っているみたいだ。




