第15話 初陣、そして白きもの
「さて、じゃあ行こうか」
俺は二人を連れて、北の森へと向かった。
リーナさん、なんか機嫌悪かったな……。まあ、忙しかったのかもしれない。
「ヒナト」
クロエが声をかけてきた。
「この依頼、本気でやっていいか?」
「え? ああ、もちろん」
「わかった」
クロエは森の入口で立ち止まり、拳を握りしめた。
その瞬間——。
目の前に、青いスライムが現れた。
「じゃあ、行くぞ」
クロエは一歩踏み込み——拳を振り下ろした。
ドゴォッ!
空気が爆発したような音が響き、スライムは一撃で粉砕された。
「すご……」
俺は思わず呟いた。
「まだだ」
クロエは手のひらを前に向け——。
「はっ!」
気功波が放たれ、周囲のスライムを次々と吹き飛ばしていく。
「これが……鋼の肉体と気功の力か……」
俺は圧倒されていた。
「次、私の番ね」
リーシャが前に出た。
「え、でも……」
「大丈夫です。私、一応……魔法使いですから」
彼女は少し震えた声で言った。
前方に、ゴブリンが三体現れる。
「怖いけど……やるわよ」
リーシャは手を掲げ——詠唱を始めた。
「炎よ、我が敵を焼き尽くせ——【火炎嵐フレイムストーム】!」
次の瞬間——。
巨大な炎の渦が、ゴブリンたちを包み込んだ。
爆発音とともに、ゴブリンは跡形もなく消え去った。
「…………」
俺とクロエは、言葉を失った。
「あ、あの……やりすぎ、でしたか?」
リーシャが不安そうに尋ねた。
「いや……すごいよ、リーシャ」
「本当に?」
「ああ。すごく強い」
リーシャは顔を赤らめて、うつむいた。
「ありがとうございます……」
しばらく森を進むと、薬草が生えている場所にたどり着いた。
「これが……依頼の薬草か」
俺は膝をついて、薬草を確認した。
「ヒナト様、それは違います」
リーシャが横に座り込んだ。
「え?」
「これは毒草です。こっちが、依頼の薬草ですよ」
彼女は隣の植物を指差した。
「見分け方、わかります?」
「いや……わからない」
「葉の形と、茎の色で判別できます。毒草は茎が紫がかっていて、薬草は緑色です」
「そうなんだ……」
「私の師匠が、うるさくて……色々叩き込まれました」
リーシャは少し懐かしそうに笑った。
「師匠がいたんだ」
「はい。でも……もう会えません」
彼女の表情が、少しだけ曇った。
「……そっか」
俺はそれ以上、聞かなかった。
薬草を集め終えた俺たちは、森の奥へと進んだ。
「これで依頼は全部クリアだな」
「ああ」
クロエが頷いた。
その時——。
「おい、あれ……」
クロエが岩陰を指差した。
そこには、白く光る何かがいた。
「スライム……か?」
俺は近づいた。
それは、透明に近い白色のスライムだった。普通のスライムとは違い、弱々しく、まるで消えそうなほど儚い。
「これ……珍しいですね」
リーシャが驚いた声を上げた。
「ホワイトスライム……伝説級の希少種です」
「伝説級?」
「はい。滅多に見つからないと言われています」
ホワイトスライムは、俺たちをじっと見つめていた。
敵意はない。ただ、怯えているようにも見える。
「どうする?」
クロエが尋ねた。
「……持って帰ろう」
俺は静かに答えた。
「こんな弱々しいスライム、このままじゃ他の魔物に襲われる」
「優しいのね、ヒナト様」
リーシャが微笑んだ。
「そんなことないよ」
俺はホワイトスライムに手を伸ばした。
スライムは、ゆっくりと俺の手のひらに乗ってきた。
「よし……じゃあ、帰ろうか」




