第13話 ギルドへの第一歩と、それぞれの装備
「さて、じゃあ行こうか」
朝の宿を出るとき、俺はそう二人に声をかけた。
クロエとリーシャは、昨日とは違う表情をしていた。処刑寸前だった彼女たちの目には、今は確かな光が宿っている。
「ああ」
クロエが短く答える。彼女はいつも無駄な言葉を使わない。
「はい、行きましょう」
リーシャは少し緊張した様子で頷いた。
三人で街へと繰り出す。朝日が石畳の道を照らし、商人たちが店を開け始めている。
「まずは装備だな。二人とも、戦うための道具が必要だ」
「私は……別に素手でも」
クロエが言いかけたが、俺は首を横に振った。
「いや、ちゃんとした武器があった方がいい。それに、防具もね」
「……わかった」
リーシャは小さく微笑んだ。
「ヒナト様、優しいですね」
「そんなことないよ。仲間なんだから、当然だろ?」
そう言うと、リーシャは顔を赤らめてうつむいた。
街を歩いていると、周囲の視線が集まってくるのがわかった。
「……なんか、見られてるな」
俺は小さく呟いた。
そりゃそうだ。銀髪のエルフと、黒髪の龍神族の美少女を両脇に連れているんだから。
「あの男、誰だ……?」
「美人二人連れって、何者だよ」
ヒソヒソと囁く声が聞こえる。
「気にするな」
クロエは相変わらず無表情だ。
「で、でも……恥ずかしいです」
リーシャは俺の後ろに少し隠れるように歩いている。
「大丈夫、大丈夫。すぐ慣れるから」
俺は二人を促して、武具店へと向かった。
店内には、剣や槍、鎧や盾が所狭しと並んでいた。
「いらっしゃい! 何をお探しで?」
店主が威勢よく声をかけてきた。
「武器と防具をお願いします」
「了解! お嬢さん方の分もかね?」
「はい」
クロエは店内を見回し、シンプルな革製の手甲を手に取った。
「これでいい」
「試してみたら?」
「……そうだな」
彼女は手甲を装着してみた。拳を握り、何度か突きの動作をする。
「動きやすい。これにする」
「防具は?」
「軽い革鎧でいい。動きを制限されたくない」
リーシャは、魔法使い用のローブと、小さな指輪を選んだ。
「このローブ、魔力を増幅する効果があるんですよ」
店主が説明してくれた。
「それと、この指輪は簡易的な魔法障壁を展開できます」
「それは……助かります」
リーシャは少し恥じらいながらも、実用性を重視して選んでいた。
「よし、じゃあこれで」
俺は会計を済ませた。合計で180シルバー。まあ、妥当な額だろう。
「ありがとうございます、ヒナト様」
「気にしないで。これからは仲間なんだから」
リーシャは顔を赤らめて、小さく頷いた。
次に向かったのは、商業ギルドだ。
戦闘経験を積むなら、討伐のクエストを受ければよいだろう。
「商業ギルドか……」
クロエが呟いた。
「久しぶりだな。昔、登録していたことがある」
「そうなの?」
「ああ。でも、奴隷になってから解除されたはずだ」
「じゃあ、また登録し直せばいいね」
ギルドの扉を開けると、広いロビーが広がっていた。カウンターには何人かの受付嬢が立っていて——。
「あ……」
俺は足を止めた。
そこには、見覚えのある金色の髪と青い瞳の女性がいた。
「リーナさん?」
「……ヒナト様?」
リーナは俺を見て、少し驚いた表情を浮かべた。そして——その視線が、俺の後ろにいる二人に移る。
「今日は……どうされました?」
リーナの声は、いつもより少しだけ硬い気がした。
「あ、えっと……仲間の登録に来たんです」
「仲間……ですか」
リーナは二人をじっと見つめた。
「こちらは、クロエとリーシャ。これから一緒に冒険者として活動します」
「……そうですか」
リーナは少しだけ表情を曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。
「では、登録手続きをさせていただきます。こちらへどうぞ」
手続きは滞りなく進んだ。
クロエとリーシャは、それぞれ冒険者カードを受け取った。
「これで、正式に冒険者です」
リーナが微笑む。でも、どこか拗ねているような雰囲気もある。
「ありがとうございます、リーナさん」
「……ヒナト様は、意外と女慣れしてるんですね」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
リーナはそっぽを向いた。
「あの……怒ってます?」
「怒ってませんよ」
明らかに怒っている。
「リーナさん、ありがとうございました」
リーシャが丁寧に頭を下げた。
「……いえ、どういたしまして」
リーナは少し複雑そうな顔をしていた。
掲示板の前で、三人で依頼内容を確認した。
「薬草採取……スライム討伐……魔物の巣の調査……」
「これなら、私にもできそうです」
リーシャが自信なさげに言った。
「大丈夫。私がいるから」
クロエが珍しく励ますような言葉をかけた。
「じゃあ、まずは簡単なやつから始めよう」
街の門に到着すると、あの門番がいた。
「おお、お前は……って、美少女二人連れかよ!」
「仲間だよ、仲間」
俺は苦笑した。
「いやあ、羨ましいねえ。そっちの人生選んだか〜」
「そういう意味じゃないから!」
門番は笑いながら手を振った。
「気をつけてな。冒険者は命がけだからな」
「はい、ありがとうございます」
街の門を出ると、広い平原が広がっていた。
「さあ、行こうか」
俺は二人を振り返った。
「俺たちの第一歩だ」
「ああ」
クロエが頷く。
「はい!」
リーシャが笑顔で答えた。
三人で歩き出す。夕日が俺たちの背中を照らしている。
これから、どんな冒険が待っているんだろう。
不安もあるけれど——この二人となら、きっと大丈夫だ。




