第961話 遭遇戦
南に移動を開始するために全員で馬車に乗り込んだ。
空き時間にアレクシアとルーケが素材や魔石などを使って改造したようで、乗り心地が良くなっており頑丈さも増したらしい。
思いっきり加速しても耐えられるとかなんとか。
……全力で使徒スレイプニールに走られたら中にいる俺たちがタダではすまないので、その機会はないだろう。
森がみるみるうちに離れて小さくなっていく。
ミーリアはしばらく振り返っていたが、未練を断ち切るように前を向いた。
まだ成人にも満たない少女が下した決断としては軽くはないが、それでも前を向こうとしているのだろう。
使徒スレイプニールに馬車をひかせている間に、持ってきた資材の確認をしておく。
全員の道具袋の中身を数え、どれだけ残っているかの棚卸だ。
ミーリアはまだ持っていなかったので空の道具袋を渡す。
「あの、ヨハネ様。これは一体……。手を入れても底に触れられないんですが」
「ただの袋じゃないからな。魔法で中身が拡張されているから、見た目の何倍も物が入るぞ」
「そういえばいきなり食べ物を取り出しましたね。あの時はそれどころじゃなかったので気にしてませんでしたが……。もしこの中に入ってしまうとどうなるんですか?」
実に子供らしい質問だった。
アズとフィンも気になっていたようで聞き耳を立てているのが丸わかりだ。
お前たちも知らなかったのか……。かなり長い間使っていたはずなのだが。
「残念ながら、何かの拍子に袋の中に人間が丸ごと入ることはない。そういう事故を防ぐために魔法に条件付けがされているから、安心して使っていいぞ」
「そうなんですか」
なぜか残念そうだった。
アズは知ってましたみたいな顔をする。
フィンは面白くなさそうだ。
昔は閉じ込められる人もいたとか。
誰かが袋を開けるまで出られないので、色々と問題があったらしい。
それからようやく持ち込んだ物資を全て数え終えた。
「まだ余裕はあるが、さすがに食べ物をかなり消費したな」
「森の里に避難所にと一方的な持ち出しが多かったから、仕方ないわよ。補充したくても買い出しとかできなかったし」
「あれだけの人数に提供したにしては少なくすんだ方かと。現地調達できた分がかなり補ってくれましたね」
アレクシアとルーケの意見に頷く。
余分に持ってきて本当によかった。
ミーリアが増えたとはいえ、これだけあればまだしばらく補給無しでも問題ない。
……シージは無事のはずだが、物資はひっ迫している可能性が高い。
魔物を狩れば飢えることはないだろうし。
「そうだ。この子のことなんですけど、食べた魔物は全部魔力に変換しているみたいなんです。魔石ごと食べているのはそれが理由だと思います」
「ほぅ。いきなりデカくなったのはそれが関係しているのかもしれないな。使徒になったからか?」
「多分そうだと思います。他のケースは知らないのでハッキリとは言えませんけど。なので普通の食事は数日間食べなくても平気ってこの子が私に伝えてきました。食べれそうなときは食べるみたいですけど」
アズは思念で使徒スレイプニールの意志が分かるようだ。
主従関係があるから……なのだろう。
こいつの飯を考えなくてもいいのはかなり助かる。
道中の魔物をどうせ食べるだろうし。
噂をすれば。
巨大な鶏のような魔物と、立派な角を持つ牛の魔物が群れで争っている所に遭遇した。
普段なら魔物同士が争っている場所は危険なので避けるのだが、今はむしろ美味しいので突っ込む。
使徒スレイプニールが双方の群れを正面から吹き飛ばす。
あまりの衝撃にいくつかの魔物がバラバラになって空中にまき散らされ、馬車の屋根に振ってきて音を立てて転がる。
俺たちは平気だったが、ミーリアはちょっと怯えてしまっていた。
使徒スレイプニールが立ち止まって食事をしている間に、他の魔物から肉や素材。
それから魔石を回収する。
「この大陸の魔物も魔石の質が良いな。数もそれなりにいるみたいだ」
「平地の魔物による被害が多くて、中々開拓が進まないと聞いたことがあります。デーンの町もかなり時間がかかったとか」
「逆に言えばそれほど魔石を集めるのには苦労しないということだ。いくら魔物が脅威でも軍隊なら効率よく狩れるだろうし。それでも海を渡って買い付けに来るほど足りないのは、やはり気になるな」
シージがどのようにしてドラゴニュートに対抗しているのか。
大量に購入した魔石と鉄がどう使われているのかも気になるところだ。
ミーリアも怯えつつ魔物の解体や運搬を手伝ってくれた。
宣言通り、きちんと働いている。
ルーケの指導で動きもよくなっていた。
どうなるにしろ、不自由はさせないようにしてやらないと。
シージへとひたすら移動する。
使徒スレイプニールのおかげで夜間も関係なしだ。
時折魔物にぶつかる音がするのは……ご愛嬌か。
「……魔物が減ってきてない?」
「たしかに。あんまり遭遇しなくなりました」
途中で休憩を挟み、川の近くで水浴びをする。
危険を避けるため男女関係なく、だ。
恥ずかしがっていたミーリアも覚悟を決めて脱ぐ。
衛生的にも避けては通れない。
アレクシアのおかげで洗濯物も一瞬で乾くため、それほど時間もかからない。
「探知魔法も反応が減ったから間違いないわよ」
「魔物が少ないのには何か理由がありそうだな。シージが近づいてきたから間引きをしているのか、あるいは別の理由か」
……下着姿で真面目な議論はなんというか、シュールだな。
具体的な場所は分からないが、道も整備されてきたしもう少しでシージだ。
休憩を終えて再び移動する。
さすがに尻が痛くなってきたので、合間に立ち上がるなどしておく。
馬車が揺れて寄りかかったり、寄りかかられたり。
……どちらかといえば支えてもらうことの方が多いか。
「ねぇ、ちょっと見て。様子がおかしいわよ」
フィンが双眼鏡で前方を見ながら言った。
「誰かが戦ってる。集団の方は武装した獣人たちみたい。相手は……赤い髪に尻尾と翼。多分私たちと戦ったドラゴニュートの少女ね。獣人側がかなり追い詰められてるわ」
「助けに行く」
すぐに判断した。
おそらくシージの兵隊だろう。




