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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第959話 里の受け入れ

 結局そのまま一泊することにした。

 夜中に押しかけても心証が悪くなるだけだ。

 いくら恩を着せた相手とはいえ、ただでさえ無茶なことをお願いしに行くのだから少しでも条件を整える必要がある。

 本当なら相手に合わせてなにかお土産も用意して抱き合わせるのが一番成功率がいいのだが、そんなものを用意する暇がなかった。


 使徒スレイプニールのおかげで夜番も最低限の人数で行える。

 人数が多いのでゼロというわけにはいかないが、それでも十分だ。


 夜中、外で寝ている最中に妙な音がした。

 俺たちだけテントで寝るのも気分がよくないだろうと、彼らと同じく外で寝ていたのだが……。

 被っていた毛布をよけ、立ち上がる。


 ゴリッゴリッ

 バキッ


 骨同士がぶつかるような、聞くだけで身構える音だった。

 まさか夜の闇に紛れて魔物が誰かを襲っているのか?

 その考えに至ると、心臓の鼓動が速くなる。

 しかしエルザの結界やアレクシアの探知魔法は機能したままだ。

 それにフィンだって気付くはず。

 まさか警戒を抜けて襲ってくる魔物がいるとは……。


 松明代わりに火の魔石を取り出す。

 最悪これを投げてぶつければダメージも与えられるはずだ。


 音は少し離れた場所から聞こえる。

 今夜番をしているのは……アレクシアか?

 だが見当たらない。


 ……念のためアズを起こすことにした。

 もし強力な魔物なら俺では太刀打ちできない。


「ご主人様、どうかしました?」

「変な音が聞こえるんだ。ちょっと付いてきてくれ」

「ふぁい」


 やや寝ぼけているアズが立ち上がる。

 毛布がずり落ちるが、下着姿だった。

 寝にくいので脱いだようだ。


「あっ」


 少し経ってからようやくそれに気付いて、咳払いと共に着込む。

 それから火の魔石を頼りに音のする方へと向かう。

 音の発生源は木々の奥で、外からは見えない。


「私が前に出ますから、絶対に離れないでください」

「分かった」


 アズの後ろで、彼女の肩を掴みながら近づく。

 そこにあったものは……。


 山になっている魔物の死体と、それを一匹ずつ口に放り込んでは骨ごと咀嚼して飲み込む使徒スレイプニールの姿だった。

 ちなみにその光景自体はめちゃくちゃ怖い。


「……大丈夫みたいです」

「そのようだな。脅かせやがって」


 使徒スレイプニールは俺たちに気付くと、これ食べる? と言わんばかりに魔物の死体の山へと視線を向ける。

 食べられそうな魔物も中にはいるが、死体からかき分けてまで欲しいとは思わない。

 美味いのに、みたいな顔をされてそのまま食事を続行した。


 おそらくだが、弱った獣人が一ヵ所に集まったことで肉食の魔物をたくさん呼び寄せてしまったんだと思う。

 それをこいつが蹴散らして自分の食事にしてしまった……。

 あの音はただの咀嚼音だったというわけだ。

 ありがたいが、これでは不安に思ったやれがバカみたいだな。


 アズも俺にどう声をかけたものか迷って苦笑いになってしまっている。

 若干の情けなさを感じつつ、戻ることにした。


「ご主人様、気になることは確認するのが大事ですから」

「これ以上何も言わないでくれ。ため息が出そうだ」


 戻るとアレクシアがキョロキョロとしていた。


「あ、いたいた。近くにいるのは分かってたけど、二人でどこ行ってたの? まさか」

「さすがにこんな所で何もしない。音がしていたから見に行ってたんだ。ただの杞憂だった」

「あらそう」

「アレクシアはどこに行ってたんだ? さっきは見当たらなかったけど」


 アレクシアは責任感が強い。

 自分の仕事を放棄する様な人間ではないので、何か理由があるはず。


「あの使徒馬が近くの魔物を片付けてくれたから、空いた時間で外から私たちが見えないように細工してきたのよ。夜の魔物は隠密性が高くて危険なのが多いし、気付かないうちに獣人がさらわれたりしないように。ここにいることがバレないのが一番だからね」

「そういうことか」


 見張りをするよりも効果がある。

 風の魔法を使って匂いを消したり、光の屈折率を変えたとか説明されたが正直さっぱりだった。

 使徒スレイプニールとアレクシアのおかげか無事朝を迎える。

 獣人たちも十分休息がとれたようだ。


 歩きながら食べられる果実などを配り、食べながら森に入り里へと向かう。

 使徒スレイプニールは悪目立ちするのが確実なのでまた留守番だ。

 歩けない病人は協力して抱えて運ぶ。

 森に入ってから少しの時間が過ぎて里に到着した。


「どうされましたか? なにかありましたか」


 とんぼ返りしてきた俺たちと、後ろの獣人たちを見て里の長が驚いていた。

 様子を見に行った俺たちが数日で帰ってきたんだ。

 なにかあると思うのも当然だった。


「一から説明する。里に入ってもいいですか? 彼らも一緒に」

「え、ええ。イアンさんたちならもちろん構いません。後ろの方々もどうぞ」


 里の広場に陣取る。

 さすがにこの人数だと長の家には入りきらない。

 突然のことに里の人間も集まってきた。

 興味深々の視線を向けられる。


「いい話と悪い話、どっちから話したものか……。まず、この里の近くにある町は壊滅していた」

「やはり」

「ドラゴニュートによる仕業だと思う。デーンはもう跡形もなくやられていた。近くにあった町も同じようになっている可能性が高い」

「デーンが……。あれだけの規模の町もですか」


 デーンは都市といってもいいほどの規模だった。

 そのデーンが壊滅していたのはかなりのショックのようだ。

 うちの大陸でも一つの町が魔物によって滅べば国を挙げた大事件だもんな……。


「この里はたまたま襲撃を逃れていたんだと思う。森に近くて分かりにくいし、規模も小さい。襲ってきた少女も今思えば偶然見つけたといった様子だった気がする」

「運がよかっただけですか……」

「それでこの人たちは、そのデーンから山岳地帯に避難して身を隠して生き残ったんだ。だが今更デーンに帰っても生活基盤がない。何もかも燃やし尽くされたから」


 なるべく同情を引くように喋る。


「この里に受け入れてやってはくれないだろうか? それが無理なら、近くに集落を用意するから少し力を貸してくれるだけでもいい」


 我ながらかなり無理のあるお願いだと思った。

 里の方には受け入れる理由がない。

 せっかく立て直し始めたのに外から同数以上の移住者など断られても仕方ないのだ。

 ごくりとつばを飲み込む。


「構いませんよ」


 だが俺の緊張は無駄だった。

 里の長はあっさりと許可を出してくれる。


「大変だったでしょう。同じ獣人の誼です。それに、今は家が余っているくらいですから。それでも足りないでしょうが、スペースは空いてますし開拓しながら増やしていけばいいことです」

「も、もちろん私たちも働きます。今は弱っている者も多いですが、元気になればこの里の助けになりますとも」


 チャンスを逃すまいと避難組から声が上がる。

 どうやらなんとかなりそうだ。

 獣人は絆が強いらしい。




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