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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第788話 マニの秘策

 アーサルムに戻ってすぐに作戦成功をユーペ殿下に報告した。

 教会を破壊したこと、それから教会の中で祭壇のように安置されていたおぞましい肉塊のこと。

 それらを全て伝える。


 私たちが最初に戻ってきたようで、他の人たちはまだ作戦中のようだった。


「なんなのかしら、それ……。少なくともまともなものじゃなさそうね」

「もしかしたら呪いの儀式か何かかもしれませんね。なんにせよ一つ破壊できてよかった」


 ユーペ殿下とご主人様が難しい顔で話している。


「アズたちが無事に帰ってきてくれてよかった。お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」


 肩を叩かれる。


「本当に私たちが休んでる暇はあんの? 他が失敗したら意味ないでしょ」

「それはそうだが……疲れている状態で今から向かってもどうにかなるもんじゃない。今は信じて身体を休めた方がいい」


 ……馬による移動と、短時間とはいえ命の危険も感じるほどの戦闘を経験して確かにかなり疲れている。

 今は戦闘による興奮であまり自覚はないが、落ち着いてきたらどっと疲労がくるに違いない。

 これは経験からしても間違いなかった。


 だが、どうにも不安がなくならない。

 あの肉塊を見た瞬間から気持ち悪さがずっと残っている。


「アズ、顔色が悪いな。これは飲めるか?」


 渡されたのはよく飲んでいるリンゴ酢の水割りだった。

 飲みなれているからか、気持ち悪くてもすんなり喉を通る。

 喉の渇きが癒えると少し気分もよくなった。


 アーサルムでは兵士たちの多くが出払っているからか、城壁を守っていた頃に比べてとても静かだ。

 慌ただしいやり取りをしているのはアナティア様やユーペ殿下、それからご主人様といった中枢だけ。


 たいしたことができないとご主人様は言っていたが、メイドのルーケさんやオルレアンと協力して情報を分かりやすくまとめていた。

 むしろ大切な役目を担っているように見える。


 邪魔にならないように私たちは部屋の隅っこで椅子に座り、身体を休めることにした。

 落ち着いてきたからか、じんわりと疲労感が出てくる。

 他の皆も似たような様子だ。


「皆さん、冷たいタオルを貰ってきました。どうぞ使ってください」

「ありがとう、オルレアンちゃん」


 オルレアンに貰った冷たいタオルで顔や腕、それから服の中の汗をかいた部分を拭う。

 ひんやりとしていてそれだけでも気持ちがいい。

 火照った身体が落ち着く気がする。

 フィンはタオルを顔にかぶせながら、背中を壁に引っ付けて体重を預けていた。


 それからしばらくして竜殺しの人が戻ってきたのが見えた。

 鎧があちこちひしゃげているものの、本人は怪我をしている様子がない。

 この人は一体どうなっているのだろうか。

 コロシアムに参加してからしばらく経っているし、私はあれからずっと強くなったと思う。

 それでもこの人に勝てるイメージが全く湧かなかった。


 キヨとか灰王とか、あの人たち並の強さなのではないだろうか。


「いやまいった。教会はなんどか叩いたら壊れたが、中に奇妙なものがあってそれを破壊するのに手間取ってな」


 竜殺しの人のところも似たような感じだったらしい。

 襲い掛かってくるパラディンたちを正面から薙ぎ払って目的を果たしてきたようだ。


「竜の尻尾なんかも千切れてからしばらくは生きているが、そんな可愛いものじゃなかったな。ひたすら地面に打ち付けていたらそのうち動かなくなったが……」


 アレクシアさんの魔法でも仕留めきれなかったのに、力だけで倒してしまったらしい。

 どうやら再生力も無限というわけではないらしい。


「凄いですね……私でも力だけじゃ倒しきれなかったと思います」


 エルザさんは治療をしながら感心していた。

 私たちはエルザさんの不思議な力で対処したが、物理的にどうにかできる可能性もあることは覚えておこう。


「動かなくなった後は干からびて砕けちったんだが、それを見た連中は血相を変えて襲ってきてな……鎧が使い物にならなくなってしまった」


 兜を脱ぐ。

 以前見たことがあるが、見た目は本当に普通の人だ。

 とても最強の戦士には見えない。


 ダメになった鎧はアーサルム軍の物と取り換えるようだった。


 これで二ヵ所は破壊できたことになる。

 残り二ヵ所。

 どちらも軍による作戦だ。

 教会を守っていたパラディンは十数人ほどだったので、いくら強くてもなんとかなりそうなのだが……。


「これを見てください!」


 参謀の人が叫ぶ。

 鳥のゴーレムを使って映像を共有してくれた。

 マニ率いる王国の歩兵隊が向かった場所だ。

 教会に向かって雨のように魔法が降りそそいでいる。


 よく見ると、兵士たちが離れた場所で何かを投げているようだ。

 宝石……?


「魔石を投げておりますね。なんとも派手な」


 ルーケさんの言葉で魔石だと分かった。

 魔法を封じ込めた魔石を投げて遠くから砲撃のように打ち込んでいるらしい。

 一つ一つの魔法も強力だ。

 さらに別格の威力がたまに混じっている。


 あっという間に教会がボロボロに壊れていく。

 パラディンたちもそれに巻き込まれていた。


 盾で防いでいる者もいたが、まともに動けない様子だ。


 マニ軍務卿の作戦とはどうやらこれだったらしい。


「王都にある国庫からありったけ運んだんだろうな。魔法を込めたのは王都の魔導士たちと、エヴァリンさんか。後々の清算が怖いがこれは爽快だ」

「あれならたしかにまともに戦わなくても破壊できましたね」


 中にある肉塊も、あれだけの魔法に晒されたら破壊できるだろう。

 教会が完全に消滅すると、魔石による攻撃も終わった。


「いいじゃない。派手で強いのは私好みだわ」

「その分お金がかかりますけどね。魔石の消費も早いでしょうし」

「ヨハネってば、こういう時くらいは気持ちいいままでいさせなさいよ」

「申し訳ありません、殿下」


 とにかく、これで三ヵ所目が破壊できた。


 後はアーサルム軍だけ。

 アナティア様が真剣に祈っている。


 ……それから少しして、アーサルム軍が向かった方向に巨大な赤い十字架が出現した。

 いや、十字架に見えるだけでどうやら魔法のようだ。


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